みなさま、こんばんは!

 

機械式時計について技術者視点で語る本コラム。第19回となる今回は、

 

『クロノグラフの機能について』

 

こちらをテーマにお話ししていきます。

 

 

ロレックス デイトナをはじめ多くの人気モデルに採用されているクロノグラフ。とにかく「カッコいい!」という理由でクロノグラフを選ばれる方が多い印象ですが、肝心要の機能についてはあまり詳しく知らない...なんて方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ということで今回は、"クロノグラフの機能"にフォーカスを当て、解説していきたいと思います。ぜひ最後までご覧ください!

 

 

クロノグラフとは!?

 

 

クロノグラフとは"経過時間を計測するための機構"です。誰でも分かる一般的な呼び方をすれば、ストップウォッチ機能となります。一般的なクロノグラフは時分針の他に「クロノグラフ針」を備えており、この針をスタート・ストップボタンで制御することで任意の時間経過を計測します。

また冒頭でもお話しした通り、クロノグラフはその機能性以上に、文字盤の配列が秀逸なデザインとしても知られており、それが多くの人に愛されている理由の一つにもなっています。そのため、各ブランドの定番モデルには必ずと言っていいほど、クロノグラフ搭載機がラインアップされています。

 

 

クロノグラフの使用方法

 

クロノグラフという名前を聞くと、使い方も複雑なのかなと構えてしまいますが、実際は至ってシンプルで、計測は「①スタート→②ストップ→③リセット」の3段階で行われます。

なお、操作方法は簡単ですが、機械式時計のクロノグラフは電池式ストップウォッチとは異なり、非常に緻密な設計で作られているため、操作方法を誤ると故障してしまうことがあります。正しい操作方法をご説明しますので是非参考にしてください。

 

①2時位置のプッシュボタンを押してスタート

 

一般的にクロノグラフはリューズの上に位置する2時位置のボタンにより計測がスタートします。しかしながらモデルによっては位置が異なる場合もございますので、お持ちの時計の取扱説明書を確認するようにしましょう。また、押し心地に関してもモデルによって差があり、簡単に押し込めるモデルもあれば、奥深くまで押し込んで作動するモデルも存在します。 

  

②もう一度2時位置のプッシュボタンを押すことでストップ 

 

 

もう一度2時位置のプッシュボタンを押すことで、計測はストップします。ストップした状態から計測を再開したい場合、もう一度同じボタンを押すことで再開されます。つまり2時位置のボタンは、押すことで「スタート」「ストップ」が繰り返されることになります。

 

③4時位置のプッシュボタンを押すことでリセット

 

計測が完了したら4時位置のプッシュボタンを押すことでリセットされます。こちらもモデルによって軽く押すだけでリセットできるモノもあれば、強く深く押し込まないとうまくリセットできないモデルもあります。モデルに合わせた操作を心掛けましょう。

 

 

クロノグラフの派生機構

クロノグラフには様々な種類が存在しますが、ここでは特に有名な機構「フライバック」「スプリットセコンド」の2つについて解説したいと思います。

 

①フライバック機構

 

普通のクロノグラフでは一度計測を終え、再び計測するために、「ストップ」、「リセット」をしてから「リスタート」をする必要がありますが、クロノグラフの上位機構「フライバッククロノグラフ」では、計測を止めずに次の時間を計測できます。

一般的なクロノグラフは計測中に4時位置のプッシュボタンは押してはいけません(または押せないような構造になっています)。しかし、フライバッククロノグラフは計測中にこの4時位置のプッシュボタンを押すことで全ての計測針がリセットされる機能が備わっています。しかもただリセットするわけではなく、ゼロに戻ってプッシュボタンから指を離した瞬間に再度計測が行われるのが大きな特徴。これによって、いっそう精密な計測が可能になったというわけです。

計測中に針を停止させたい場合は、一般的なクロノグラフと同じく2時位置のプッシュボタンを押し、さらに4時位置のプッシュボタンを押すと針がリセットされます。計測中に4時位置のプッシュボタンを押すことでリセット・リスタートが行えること以外は普通のクロノグラフと同じ操作です。ただし、フライバッククロノグラフには、このリセット・リスタートを繰り返すと負荷がかかってしまうモデルもありますので、楽しいからと何度もフライバックさせることはオススメしません。

 

②スプリットセコンド機構

 

スプリットセコンドは2本のクロノグラフ秒針によって複数のラップタイムを計測できるクロノグラフのことを指します。スタートボタンを押すと2本の秒針が同時に動き、スプリットボタンを押すと一本の針のみが止まり、もう一方のクロノグラフ針は計測を続けます。さらにここからスプリットボタンを再び押すと、停止していた一本の針が稼働中のクロノグラフ針に瞬時に追い付き、また2本同時に針が動きます。そして、2つの針を停止させた状態でリセットすると、例え針の位置がバラバラだったとしても、同時にゼロ位置に戻る特殊な仕様になっているのです。

 

 

非常に複雑なメカニズムで動いているため搭載されているモデルはそう多くありませんが、デザインに関しても名称の通り「分かれる(Split)」「秒針(Second)」の動きが芸術的で、思わず見とれてしまいます。

なお、スプリットボタンの位置はモデルによってももちろん異なりますが、概ね10時位置やリューズの中心部分に配されていることが多くなっています。なお、スプリットセコンドはフランス語で「ラトラパンテ」とも称されます。

 

 

クロノグラフ購入時の注意点

 

機械のみで時間や距離を計測できるクロノグラフ機構にはロマンがあり、文字盤一面に針が展開される美しさは他の時計では味わうことが出来ない魅力がありますよね。

しかしながら一つ注意していただきたい点もあります。それが維持コスト。クロノグラフはとても複雑な機構であるため、オーバーホールや修理にかかる金額が普通の3針モデルより割高になり、平均して1.5倍ほどメンテナンス代が高くなる傾向にあります。

  

 

そんな割高な維持コストを少しでも抑えるために知っておいていただきたいのが、"正しい取り扱い方法"。

精密なクロノグラフは振動や衝撃に弱い個体も多く、針ズレやプッシュボタンが外れてしまうといったトラブルはつきもの。そのため激しい運動の際に外したり、落下に気を付けることは通常の3針モデルよりも大切です。

また、クロノグラフ針を秒針がわりとして稼働させることも、パーツ摩耗を促進してしまうこととなりますので禁物です。使わない時はゼロ位置でストップさせておきましょう。ただし、パテックフィリップの垂直クラッチが採用されたモデルは、クロノグラフを秒針代わりに動かしても問題ないとのこと。さすがパテックフィリップ!の一言に尽きますね!

 

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。 

高級腕時計の世界では、多くの人気モデルにクロノグラフが採用されています。そのため、クロノグラフがどんな機構でどのような使い方をするのかを知っておくと、より理解が深まり、デザインのみならずこの機構が好きになると思います。

本記事が皆さまにとって有益な情報となり、高級腕時計に対する興味が少しでも沸いたようであれば幸いでございます!また、ご不明点は直接ご質問いただければしっかりとお答えさせていただきますので、みなさま是非ご来店、お問い合わせをお待ちしております。

次回もお楽しみに!ではまた!

機械式時計徹底解剖