みなさま、こんばんは!
機械式時計について技術者視点で語る本コラム。第30回となる今回は、
『正しいゼンマイの巻き方について』
こちらをテーマにお話ししていきます。
機械式時計にとって、欠かすことのできない作業「ゼンマイの巻き上げ」。大きく分けて「手巻き」と「自動巻き」の2種類が存在する機械式時計において、ゼンマイの巻き上げ時に共通して注意しなければならないポイントを、今回はご説明していきたいと思います。
機械式時計の動力源
まずは、機械式時計がどのようにして動いているか、簡単にご紹介します。
全ての機械式時計の動力源は「ゼンマイ」です。巻き上げられたゼンマイがほどけていく力を利用し、時計が動く仕組みとなっています。つまりゼンマイとは、全ての機械式時計に必要不可欠なパーツと言えるでしょう。
例えばゼンマイを巻き上げると、短い時間歩き続ける人形のおもちゃ。これは巻き上がったゼンマイがほどかれるエネルギーを利用して動いています。ただし、ゼンマイがほどける力を制御する機構がないため、あっという間にほどけ切って止まってしまいますね。
機械式時計には、ゼンマイを巻き上げた後、そのほどける力が一定の間隔になるよう調整する「調速機構」が備わっており、それが振り子のように一定間隔で振動することによって正確な時を刻みます。こうして調整されたゼンマイのほどけるパワーが輪列機構に伝わり、時針・分針・秒針を動かしていくのです。
手巻き式、自動巻き式の違い
では、自動巻き式時計とはどのようなものかというと、着用している人の腕の動きによって、ゼンマイが自動的に巻き上がってくれる腕時計の事をいいます。自動巻き式時計のムーブメントには、ローター(回転錘)というおもりが搭載されており、着用者が腕を動かすと重力の働きでローターが回転し、ゼンマイを巻き上げてくれます。
毎日着用していれば止まりづらく、基本的にリューズ操作でのゼンマイ巻き上げは不要です。手で巻くことを面倒に感じている方にはこのメリットは大きいのではないでしょうか。
ただ、デスクワークが多い方などあまり腕を動かさない場合や、複数本の時計を使い分けている方は、補助的に手巻きが必要になってくることもあります。
イメージとしては、手巻き式時計に自動巻き機構が追加されたような形になりますので、基本的な構造は大きく変わりません。
オススメの手巻き方法
以前、当店のYouTubeチャンネル「COMMIT TV」にて、手巻き時計の正しい巻き方をご紹介させていただきましたが、その際は「リューズから指を離さず、ゆっくり往復させながら巻き上げる」方法を推奨しました。
この方法は、自然とゆっくり、丁寧な巻き方になるというメリットがありますが、巻き上げの効率という点ではやや悪くなります。
そこで今回、手巻き式、自動巻き式問わず様々な機械式時計においてオススメの巻き上げ方として、「一定方向にゆっくり巻き上げる」方法をご案内させていただきます。
一定方向に巻き上げるメリット
・ゼンマイに効率よく力が伝わる
ゼンマイは一方向(通常はリューズを12時方向に巻いた場合)にのみ巻かれる構造になっており、逆方向にリューズを回しても空転します。往復巻き上げでは、空転した歯車が再度嚙み合うまでに無駄な動きが生まれ、巻き上げ効率が悪くなる場合があります。
・ゆっくり巻けば内部パーツに負担をかけない
急いで巻きすぎると内部部品、特に巻き芯やコハゼといったパーツに負担がかかって破損してしまうリスクがありますが、ゆっくり丁寧な操作を心がけていただければ、内部部品にストレスをかけることもなくなります。
特に自動巻きの時計は、手巻きをする際に自動巻き機構の歯車も一緒に回転する構造になっていますので、巻き急ぎや巻きすぎを繰り返すと、オーバーホール時期を早めることにも繋がります。特にゆっくり丁寧に巻いていただくようお気をつけください。
イメージとしては、巻き上げたゼンマイが、ほどけようとする反発力をコハゼが受け止めるのを確かめながら、やさしく指をリューズから離すようにしてください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
単純に手巻きと言っても、内部部品の動きを想像しながら行うことによって、時計への負担を軽くすることができますので、ぜひ参考にしていただけたらと思います。今回の内容は、文章よりも動画の方が分かりやすいと思いますので、近々「COMMIT TV」においてもご紹介できたらと考えております。
本記事が皆さまにとって有益な情報となり、高級腕時計に対する興味が少しでも湧いたようであれば幸いでございます!また、ご不明点は直接ご質問いただければしっかりとお答えさせていただきますので、みなさま是非ご来店、お問い合わせをお待ちしております。
次回もお楽しみに!ではまた!