機械式時計を選ぶ際、皆さんはどこに注目されますか。

大半の方は"デザイン性"や"資産性"と答えると思います。もちろん見た目や価値というのは非常に大事なポイントになりますので、必然であるとも言えますが、ここにブランドやモデルの歴史的背景、年代毎の技術的要素、進化の過程など、いわゆる"知識"が合わさっていたら、もっと時計のことが好きになり、目線も変わるのではないでしょうか。

ということで、本コラムでは、初心者、上級者などは関係なしに、機械式時計に関する知識を一つでも多くお伝えし、皆さまの時計選びの参考となるよう徹底解剖、徹底解説していきます。

今回はロレックス サブマリーナー(Ref.5513)にフォーカスを当ててお話ししていきましょう。ぜひ最後までご覧ください。

 

 

 【ロレックス】『サブマリーナー』「Ref.5513」とは

 

【ロレックス】『サブマリーナー』が誕生した1953年から約70年が経過した今日(こんにち)。「Ref.5513」は、その長い歴史の中で約30年間生産されていたロングセラーモデルで、【ヴィンテージロレックス】の入門機として、はたまたコレクターズアイテムとしても人気の高いモデルです。

ただ、魅力の一つでもある細かいディテールの違いは、時計のプロでも理解している方は少なく、一般の方であれば尚更知り得ないことが多々あるかと思います。そんな「Ref.5513」について、本記事を読み、造詣を一緒に深めていきましょう。

 

 

第四世代 Ref.5513〜基本スペック〜

 

製造年:1963年〜1990年
ケース:40mm
ベゼル:回転式(アルミ製インサート)
風防:プラスチック
防水:200M防水
ブレスレット:
・リベット(7206/80)期間:1954年〜1968年頃
・巻きブレス(9315/280(380))期間:1969年〜1976年頃
・ハードブレス(93150/580)期間:1976年〜1990年頃
ムーブメント:Cal.1530/Cal.1520

 

 

ダイヤルについて

「Ref.5513」のダイヤルにはミラー(ギルト)、マット、ラッカーと、3種類存在しており、その中で更に細分化されています。

 

◯ミラー(ギルト)ダイヤル(1963)

ミニッツサークル(ミラー):1963年頃

ミニッツサークルは、文字盤外周にある目盛りに沿うように円(サークル)が入っている文字盤のことを指しており、1963年に製造された初期モデルに見られます。

また、ミニッツサークルは後に紹介するマットダイヤルやラッカーダイヤルには無い特徴のため、ミニッツサークル=ミラーダイヤルという認識になります。

「Ref.5513」の最初期モデルになるため、市場への出回りは非常に少なくなっております。

 

ミラーダイヤル:1964-67年頃

『サブマリーナー』以外の【ヴィンテージロレックス】にも見られる、鏡のような独特な艶のある文字盤のことを指しており、高い希少性を有しています。

 

 

ミラーダイヤルは文字盤のレター表記(文字盤に書かれているロゴや防水表記、
モデル名など)がゴールドでペイントされているのも特徴です。また、経年変化により、ダイヤルカラーがブラウンに変色した通称"トロピカルダイヤル"や、モデル名表記の下にラインが入っている、通称"アンダーライン"などもございますが、ほとんど見かけることのない希少品として認識されています。

※アンダーライン
トリチウムを採用した初期個体に見られる特徴で、トリチウムに含まれる放射線物質が規定以下ということを示すために入っているとされています。

 

 

◯マットダイヤル(1967-84)

メーターファースト:1967-70年頃

ミラーダイヤルからマットダイヤルに切り替わった個体に見られるこちらは、文字盤6時位置にある防水表記が"200m=660ft"(メーター表記が先に来ている)となっており、その下にモデル名『SUBMARINER』が表記されています。

 

 

ちなみに、ミラーダイヤルもメーターファースト表記となっていますが、その点よりも"ミラーダイヤル"という強力な個性があるため、こちらのマットダイヤルの初期個体が"メーターファースト"と呼称されています。

 

フィートファースト/下サブ(MK1ダイヤル):1970-78年頃

前述したメーターファーストの逆で、フィートファーストは"660ft=200m"表記となっており、『SUBMARINER』表記が下に来ることから、通称"下サブ"とも呼ばれています。また、このフィートファーストのMK1ダイヤルは、更に3種類に細分化されています。

 

①シンガー社製:1970-75年

製造期間に比例して、最も流通量が多いのがこのシンガー社製のダイヤルになります。

 

12時位置の"OYSTER  PARPETUAL"表記の"OYSTER"と"PARPETUAL"の文字間がやや広く、フィート(ft)表記の横棒が同一直線上にないのが特徴です。

 

②スターン社製:1975-77年

コメックス専用モデルの「Ref.5514」にも採用されたダイヤルで、流通量は非常に少なくなっております。

 

 

レター表記がシンガー社製と比べて太く、『ROLEX』表記もやや大きくなっています。また、フィート(ft)の横棒は同一直線上にあり、『SUBMARINER』ロゴの迫力あるセリフ付きフォントも特徴の一つです。

 

③レムリッチ社製:1977-78年

夜光ドットが大きく、シャープなクラウンマークが特徴のモデルです。
※このレムリッチ社製以降に製造されたモノは全てマキシダイヤルとなります。

 

 

フィート(ft)表記のフォントが細く、横棒が同一直線上に見られ、"200m"と"660ft"のゼロの数字が円形に近い形で描かれたモノとなります。

 

MK2ダイヤル:1978-81

スリムな見た目のクラウンマークにセリフ無し書体の"OYSTER PARPETUAL"表記が特徴の個体です。

 

 

MK2からは防水表示の上にモデルロゴ“SUBMARINER”が表示されるようになります。また、レターは全てセリフが付かないゴシック調の書体となっています。

 

MK3ダイヤル:1978-81

夜光インデックスの丸と分目盛りのバーが繋がっている事から、それを棒付きキャンディ(ロリポップ)に見立て、通称"ロリポップダイヤル"などと呼ばれているこちらは、【ROLEX】ロゴが細く印字されている点や、大きなクラウンマークが特徴となっています。

 

 

また、6時側の防水表記(660ft=200m)はポップな見た目で、フィート(ft)の横棒も同一直線上にないため、見分けるポイントの一つと言えます。

 

MK4ダイヤル:1979-82

現行モデルのように洗練されたクラウンマークとシャープでメリハリのある"ROLEX"ロゴ、更にはセリフ付きの"OYSTER PARPETUAL"表記が特徴となっています。






ちなみに、MK2にも似ていますが、こちらはレター全てにセリフが見られますので、分からない方は参考にしてみましょう。

 

MK5ダイヤル:1982-84

全体的に太いフォントで強調されたレターが特徴のこちらは、マットダイヤルの最終型となります。

 

 

マットダイヤルは製造されている期間が長い分、在庫も多い印象ですが、オリジナル個体コンディションの良い個体は年々減ってきています。相場としては、100万円台後半〜300万円台となっています。(2025年1月時点)

 

◯ラッカーダイヤル(1984-90)

1984年頃にマットダイヤルから高級感と特徴的な艶の見られるラッカー仕様に変更され、夜光インデックスにはメタルのフレームが付き、全体的な高級感がアップしています。

 

 

また近年、ラッカーダイヤルも人気が高くなってきており、中でも注目を集めているのが"スパイダーダイヤル"になります。

※スパイダーダイヤル

ラッカーダイヤルへ移行した初期ダイヤルに見られる、経年変化による大きめなクラック(ひび割れ)が全体的に入った個体のことを指します。普通は劣化していると捉えられますが、蜘蛛の巣のように綺麗にクラックが入った個体は人気があり、評価されることもあります。

 

 

ラッカーダイヤルの相場としては、100万円台半ばから200万円台半ばとなっています。(2025年1月現在)

 

 

ベゼルについて

「Ref.5513」に採用されているベゼルインサートは5種類に分類されています。

ロング5インサート:1958-69年頃

数字の“5”のフォントが特徴で、縦長になっているため、"ロング5"と呼ばれています。また、全体的に太いフォントで、15分までの目盛りも太くなっています。

 

 

スキニー4インサート:1963年頃

細身の“4”が特徴で、"スキニー4"と呼ばれており、15分までの目盛りも細く小さいのが特徴です。

 

 

MK3インサート:1969-79年頃

最も多くのマットダイヤルに装着可能なベゼルで、迫力のある太字のフォントにはセリフが見られます。また、製造期間が長い分、年代(前期・中期・後期)による文字の太さの違い(後期になるにつれて細くなる)が見られるため、見分ける際に注意が必要です。前期仕様には"キッシング4"と呼ばれる個体もあり、こちらは"4"と"0"が接触しているものを指します。

 

 

MK4インサート:1980年頃~

数字や目盛りがインサートの外側に配置されていて、"4"はフラット4になっています。

※フラット4
"4"の内側が三角形ではなく、台形になっているものを指します。

 

 

MK5インサート:1980年代半ば~

オリジナルベゼルの最終型で、MK4と同様にフラット4になっています。MK4との見分けとしては、ベゼル幅いっぱいに数字や目盛りが配されています。

 

 

ブレスレットについて

〇リベットブレスレット(7206/80)期間:1963年〜1968年頃

<<該当モデル>>
・ミニッツサークル
・ミラーダイヤル
・メーターファースト
・フィートファースト/下サブ 初期

 

 

〇巻きブレスレット(9315/280(380))期間:1969年〜1976年頃

<<該当モデル>>
・メーターファースト
・フィートファースト/下サブ

 

 

〇ハードブレスレット(93150/580)期間:1976年〜1990年頃

<<該当モデル>>
・フィートファースト/下サブ
・マットダイヤル(MK2〜MK5)

 

 

 

 まとめ

【ロレックス】『サブマリーナー』の中でも非常に人気の高い、ロングセラーモデル「Ref.5513」。

約30年間製造されただけあって、かなり細分化が進んでいるため、見分けるのも一苦労かと思いますが、理解できると、時計に対する興味・関心も倍増するのではないでしょうか。購入を検討している方であれば、いま一度これらのポイントを見返してから、是非時計選びをしてみてください。

ではまた!

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