
機械式時計について技術者視点で語る本コラム。第51回となる今回は、
『高級時計の文字盤製造:グランフー、ギョーシェの世界』
こちらをテーマにお話ししていきます。

腕時計を見たとき、まず目に入るのは文字盤ですね。ケースやブレスレット以上に、時計の印象の多くは文字盤で決まると言っても過言ではありません。
近年は、天然素材を使用した唯一無二の文字盤に人気が集まっていますが、高級時計の世界では、この文字盤が単なる部品ではなく、工芸作品レベルの技術で作られていることがあります。
今回は、ラグジュアリーウォッチで登場する3つの代表的技法
・グランフー(Grand Feu)
・ハンマートーン(Hammer-tone)
・ギョーシェ(Guilloche)
についてお話していきます。
グランフーエナメル:永遠に色あせない文字盤

まずは、文字盤工芸の王様とも言える技法「グランフーエナメル」。
フランス語で「大きな炎」という意味で、800℃前後の高温窯でガラス質の釉薬を焼き付けて作ります。
製造工程を簡単にまとめると
- 金属プレートにエナメル粉末を塗る
- 窯で焼く
- 冷ます
- 再び塗る
- また焼く
この工程を何度も繰り返します。

グランフーエナメルは、焼成中にヒビが入ってしまうことも多く、成功率はかなり低いと言われています。
そんな「グランフー」の最大の特徴は”何十年経っても色が変わらない”ということ。塗装ではなくガラスなので、
・紫外線で退色しにくい
・経年変化がほぼない
・深い透明感が出る

このため、パテックフィリップ、ブレゲなどのクラシック系ブランドでよく採用されています。
ハンマートーン:手仕事の質感を残す文字盤

次にご紹介するのが、最近注目されている技法「ハンマートーン」です。
これは金属表面を細かく叩いて凹凸を作る装飾です。
どうやって作るかというと、職人が専用工具を使って、何千回も、非常に細かく、均一に金属を叩いていきます。すると表面に”微細なランダム模様”が生まれます。
ハンマートーンの魅力は
- 光が当たるとキラキラ反射
- 角度によって表情が変わる
- 手仕事の温かみを感じられる
など、機械加工では出ない有機的な質感が魅力です。
近年では、独立系ブランドや限定モデルでよく見られるようになりました。

オーデマピゲが得意とする「フロステッドゴールド」も同じような技法で作られており、非常に高い人気を誇ります。
ギョーシェ:機械と職人技が生む幾何学模様

そして最も有名なのが”ギョーシェ(Guilloche)。文字盤に刻まれる、あの繊細な幾何学模様です。
高級時計のギョーシェは、昔ながらの旋盤を使用し、職人がハンドルを回しながらパターンを彫っていきます。
よく見る模様には
クル・ド・パリ
ソレイユ(サンバースト)
バーリーコーン
などがあります。
こちらも手仕事のぬくもりが感じられ、クラシック系のブランドが得意とする技法の一つでもあります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
「普通の文字盤でも十分キレイではないか?」
確かにその通りかもしれません。でも高級時計は、実用品でありながら文化財(アート)でもあります。
文字盤は”時計の顔”と言える、最初に目が行く場所。だからこそ、深く美しいエナメル、手仕事のテクスチャといった工芸技術が使われます。
高級時計の文字盤には、驚くほどの技術と手間が隠れています。これらは単なる装飾ではなく、時計文化そのもの。ブランドの”格”を決める重要な要素であると思います。
本記事が皆さまにとって有益な情報となり、高級腕時計に対する興味が少しでも湧いたようであれば幸いでございます!また、ご不明点は直接ご質問いただければしっかりとお答えさせていただきますので、みなさま是非ご来店、お問い合わせをお待ちしております。
次回もお楽しみに!ではまた!




