
機械式時計について技術者視点で語る本コラム。第53回となる今回は、
『ダイナパルス エスケープメントとは?』
こちらをテーマにお話ししていきます。

2025年の新作、ロレックス「ランドドゥエラー」に搭載されたCal.7135は、ここ数年の機械式時計の中でもかなり重要な進化を含んでいます。
得に今回注目したいのが、ダイナパルス エスケープメント(Dynapulse Escapement)。
2026年の新作発表を目前に控えた今、このダイナパルス エスケープメントについてわかりやすく解説し、今後の展望を予想していきたいと思います。
エスケープメントとは何か?

そもそも、相当の時計マニアか技術者でない限り、エスケープメントという言葉を聞いたことがある方は少ないと思います。
エスケープメントは、日本語だと”脱進機”と呼ばれ、ゼンマイのエネルギーを「一定のリズム」に変換する装置です。
機械式時計の精度に大きな影響を与える、非常に重要な機構になります。
※画像中央にあるのが「アンクル」、右側にあるのが「ガンギ車」
従来の主流は、約250年以上使われてきたスイスレバー脱進機です。
「アンクル」と呼ばれるイカリ型のパーツと、「ガンギ車」と呼ばれる特殊な形状の歯車が使用されており、現在製造されている機械式時計の多くが採用しています。
従来のスイスレバーの弱点
長きに渡って活躍してきただけあって、スイスレバー脱進機の完成度は高いものの、弱点もあります。
・パレット(アンクルの爪石)とガンギ車が接触しながら滑る(摩擦が大きい)
・潤滑油に依存(長期使用で精度低下)
・エネルギー効率が完璧ではない

つまり「よく出来ているけど、理想的ではない」という状態が長年続いていました。
ダイナパルス・エスケープメントとは

そこでロレックスが開発したのが「ダイナパルス・エスケープメント」です。
簡単に言うと、”滑らずにエネルギーを伝える”新しい脱進機になります。
イメージとしては、従来のレバー式と異なり、”押す・弾く”ような動きが中心になるのが特徴です。

最大の特徴:滑り摩擦の排除
では、ダイナパルスは何がすごいのか、本質はここです。
・従来(レバー式)は、歯車がパレットを滑りながら押す
・ダイナパルスは、歯車がパレットをほぼ瞬間的に”叩く”ように力を伝達
つまり、滑り摩擦→瞬間的な衝撃へと進化しているのです。
これによって何が変わるのか?
①エネルギー効率が向上
摩擦が減るので、同じゼンマイでも効率よく動き、振り角が長期にわたって安定。
②潤滑油への依存が減る
従来型は、オイルが劣化→摩擦増加→精度低下という問題がありましたが、ダイナパルスエスケープメントは、滑る動きがないのでオイル依存が低いと考えられます。
③長期安定性が高い
おそらくロレックスが一番重視しているのはここでしょう。10年後でも精度が落ちにくく、メンテナンス周期を長期化できる。つまり「使い続ける時計」としての完成度を上げる技術と言えますね。
なぜロレックスはこれを今出したのか?
ロレックスは基本的に「確実に完成してからしか出さないブランド」です。今回Cal.7135にダイナパルスを搭載したということは、
・耐久テストをクリア
・大量生産の目途が立った
・サービス体制も含めて整った
と考えられます。つまり”次世代の標準”として投入してきた可能性が高いのではないでしょうか。

2026年の新作発表で、このダイナパルス・エスケープメントを搭載したモデルがどれだけ発表されるか、非常に楽しみですね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
ダイナパルス・エスケープメントは一言でいうと「壊れにくく、狂いにくく、長く使える時計」をさらに進化させた技術。
派手ではないが、本質的には機械式時計の一番重要な部分を進化させている、まさにロレックス的な機構と言えます。
本記事が皆さまにとって有益な情報となり、高級腕時計に対する興味が少しでも湧いたようであれば幸いでございます!また、ご不明点は直接ご質問いただければしっかりとお答えさせていただきますので、みなさま是非ご来店、お問い合わせをお待ちしております。
次回もお楽しみに!ではまた!




