
機械式時計について技術者視点で語る本コラム。第56回となる今回は、
『デイトナ最後の他社ベースムーブメント”Cal.4030”とは?』
こちらをテーマにお話ししていきます。

ロレックス「デイトナ」といえば、今や世界で最も有名なクロノグラフの一つ。その圧倒的な人気、二次流通市場でのプレミア価格は皆さんご存じの通りかと思います。そんなデイトナの歴史の中で、外すことができない事実が、1988年〜2000年頃のゼニス製ムーブメントをベースにした、時計史に残る名機”エル・プリメロ(El Primero)”。
今回は、ゼニスとロレックスが生んだこの“奇跡の関係”について、技術者視点で分かりやすく解説していきます。
世界初の自動巻クロノグラフ競争
※SEIKO Cal.6139
物語は1969年から始まります。当時、時計業界では「世界初の自動巻クロノグラフ」を巡る開発競争が起きていました。
有力だったのは、
- ゼニス
- ホイヤー連合(クロノマチック)
- セイコー
この三陣営。

競合達を抑えてゼニスが完成させたのが、”エル・プリメロ”。スペイン語で「ナンバーワン」という意味を持ちます。
エル・プリメロは何がすごかったのか?

一番の特徴は、毎時36,000振動という、ハイビートであること。
普通の時計より細かく時を刻むため、
- 精度が出しやすい
- クロノグラフ計測が滑らか
- 1/10秒単位まで測定可能
という大きなメリットがありました。
しかも、自動巻と、水平クラッチ式クロノグラフを共存させるという、ほかに例のない「全部入りムーブメント」でした。ところが1970年代、クォーツ時計の大流行で、機械式時計市場は壊滅状態になります。
ゼニスも経営危機に陥り、「機械式ムーブの製造設備を廃棄しよう」という話になってしまいますが、ここで伝説的なエピソードが生まれます。ゼニスの時計師シャルル・ベルモは、「いつか機械式時計の時代が戻る」と信じて、エルプリメロの設計図を工場の屋根裏に隠したのです。
と言ってもこれは個人的に、後から作られた話かなと思っていますが。(笑)どちらにせよ語れる背景があるというのは、人気の要因の一つになりますよね。
ロレックス、自動巻クロノ問題

※ROLEX Cal.727
1980年代後半、ロレックスには大きな課題がありました。
当時のデイトナは手巻き。でも時代は完全に自動巻へ移行していました。そこでロレックスが目を付けたのが、ゼニス社の「エル・プリメロ」だったのです。でも、ロレックスは単純に“借りた”わけではありません。むしろ、徹底的にロレックス化したと言うのが正しいでしょう。
ロレックスによる大幅な変更

ロレックスが手を加えたエル・プリメロは、「Cal.4030(ヨンマルサンマル)」と呼ばれ、36,000振動→28,800振動に変更する等、中身は大幅に変更されています。
理由は、
- 耐久性向上
- メンテナンス性向上
- オイル寿命改善
つまり、“ロレックスらしい実用性”を優先。この振動数の変更をネガティブに捉える意見もありますが、数字の見栄えよりも耐久性を重視したのは、技術者視点では正しい判断だったのではないかと感じています。
振動数以外にも部品も大量に変更されています。
- テンプ
- 脱進機
- 自動巻機構
などをロレックス仕様へ。ゼニスが“速さと技術”なら、ロレックスは“毎日安心して使えること”を重視したと言えます。思想の違いがかなり面白いですね。
Ref.16520(SS)を代表とする5桁品番のデイトナは、日本では「エルプリデイトナ」、海外では「DAYTONA ”ZENITH MOVEMENT”」などと呼ばれています。これは個人的には半分正しく、半分間違いかなと感じています。確かに、Cal.4030がエル・プリメロと基本構造を共有しているのは間違いありません。
ただ前述のように、ロレックス独自の変更箇所は多岐に及びますし、実際の製造はロレックスの工場で行われていたのでは?と私は思っています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
本記事が皆さまにとって有益な情報となり、高級腕時計に対する興味が少しでも湧いたようであれば幸いでございます!また、ご不明点は直接ご質問いただければしっかりとお答えさせていただきますので、みなさま是非ご来店、お問い合わせをお待ちしております。
次回もお楽しみに!ではまた!




