機械式時計について技術者視点で語る本コラム。第57回となる今回は、いつもと趣向を変えて

『コミットスタッフが時計を買う! 番外編~30年越しに再会した一本のPOP SWATCH~』

こちらをお届けしていきます。

 

最近、時計業界ではスウォッチとオーデマ ピゲのコラボレーションモデル「ROYAL POP」が話題ですね。

多くの方の興味は、ロイヤルオークとのコラボという点に集中しているかと思いますが、私ドクター伊藤は「ROYAL」ではなく「POP」の方に心が動きました。

そういえば、1990年代に私もPOP SWATCHを持っていたな、と懐かしい想いでいっぱいになったのです。

 

 

POP SWATCHとは


「Pop Swatch(ポップ・スウォッチ)」とは、1986年にスウォッチから発売され、1990年代に爆発的な人気を博したシリーズです。

時計本体(モジュール)がベースから取り外せる構造になっており、外した文字盤を別売りのベルトと付け替えたり、服の襟やポケット、バッグなどにクリップとして留めたりと、アクセサリー感覚で自由にアレンジを楽しめる、腕時計を超えた存在でした。

 

 

ROYAL POPとの関係

 

「ROYAL POP」の”ROYAL”は、もちろんロイヤルオークに由来していますが、”POP”はポップなデザインと、ポップコーンやポップアップと同じ「ポンとはじける」擬音語の2つの意味をかけていると言われています。

 

 

POPなデザインと、ベースからポン!と取り外せる構造が、「ROYAL POP」と「POP SWATCH」の共通点ですね。

 

 

フリマサイトで運命の出会い


私の時計好き遍歴は、1989年発売のスウォッチクロノグラフから始まりましたが、直後の1990年代にはPOP SWATCHを買って身に着けていました。今回のROYAL POP発表時にそんなことをふと思い出し、なんだか懐かしい気持ちになりました。(笑)

ちなみに、当時のPOP SWATCHはただ時間を知るための道具ではなく、ファッションであり、遊び心であり、バッグにチャームのようにぶら下げて持ち歩いたりする時計業界の中でも先駆け的な存在でした。


30年以上前の商品のため、見つかるとは思っていませんし、ましてや状態の良い個体なんていうのは残っているはずがないと思っていましたが、何気なくフリマサイトを覗いてみると・・・

なんと!!驚いたことに、未使用品が出品されていました!!

 

※実際に購入した時計の画像

 

モデル名は「Putti」。

Vivienne Westwoodとのコラボレーションモデルとして人気を集めた一本で、当時は入手困難なモデルでした。

画面越しに見た瞬間、当時の記憶が一気に蘇りました。インターネットが普及していない時代、欲しいものを探し当てるにはとにかくお店を回るしかない。私も横浜のスウォッチショップをめぐって、店頭でこの時計と出会った時の喜びを思い出しました。

不思議なことに、時計というものは時刻だけではなく、その時代の空気まで記憶しているようです。

気付けば購入ボタンを押していました。(笑)

 

 

当時の定価は7,000円。キレイにプライスタグも残っていました。ちなみに、今回購入した価格は11,000円でした。

高級時計の世界では誤差のような金額ですが、私にとっては、その金額以上の価値があると感じました。

 

 

数日後、届いた時計を箱から取り出すと、未使用品というだけあって状態は素晴らしく、プラスチックケースの質感も、文字盤の色合いも、記憶の中のまま。思わず笑みがこぼれました。

時計の価値は、価格だけでは決まらない。

 

 

私は仕事柄、高級時計に触れる機会が多く、ロレックス、パテック フィリップ、A.ランゲ&ゾーネ。どれも素晴らしい時計に間違いありません。

しかしながら今回のPOP SWATCHを手にした時の喜びは、それらとはまた違う類のものでした。

そこには投資価値も希少価値もありませんが、自分自身の思い出がありました。

高級時計の世界では、資産価値や将来性が語られることが多く、もちろんそれも時計の魅力の一つであることに違いありません。

ですが、同じように大切なのは

「その時計を見た時に、どんな記憶が蘇るか」

ではないでしょうか。

今回、30年ぶりに再会した一本のPOP SWATCHは、そのことを改めて教えてくれました。

 

資産としてのROYAL POPは?

ついつい、思い出の時計について熱く語ってしまいましたが、肝心要のROYAL POPの資産性ですが、私の予想は「10年後、20年後にROYAL POPの市場価値が高まっていく可能性は低い」と考えています。

理由は

・プラスチック製(耐久性が低い)
・分解、修理ができない
・大量生産される

これらは、現在市場で人気を得ているヴィンテージウォッチとは真逆の特徴です。

今回私が、ヴィンテージスウォッチの未使用品を11,000円で入手できたのも、「壊れたら修理ができない」ことに大きく関係していると思います。

ROYAL POPは機械式のムーブメントを搭載していますが、構造的に分解は不可能です。

現在価格高騰中ではありますが、長期的に見ると市場価値は落ち着いてきて、買いやすくなっていくのではないかと私は考えています。

       

      まとめ

      いかがでしたでしょうか。

      今回は、私とスウォッチの関係についてのお話でしたが、高級時計においても、一度手放したモデルを再度購入されるケースは少なくありません。もしかしたら、時計を買うという行為は、単にモノを手に入れることではなく、失われた時間や記憶を取り戻すための行為なのかもしれないですね。

      本記事が皆さまにとって有益な情報となり、高級腕時計に対する興味が少しでも湧いたようであれば幸いでございます!また、ご不明点は直接ご質問いただければしっかりとお答えさせていただきますので、みなさま是非ご来店、お問い合わせをお待ちしております。

      次回もお楽しみに!ではまた!

      監修者のプロフィール

      伊藤謙三の写真

      伊藤 謙三(いとう けんぞう)

      高級腕時計専門店 コミット銀座 シニアアドバイザー / 鑑定士歴:2021年~現在 / 修理技師歴:2001年~現在

      51歳 東京都出身

      某有名ブランド店に修理技師として入社。手先の器用さと腕時計に対する飽くなき探究心で、約20年に渡り数多の時計のメンテナンスを実施。
      その知見を武器に、47歳でコミット銀座に入社。鑑定業務は未経験ながらも圧倒的な知識量でコミット銀座の支柱として活躍する傍ら、YouTubeの高級腕時計専門チャンネル「COMMIT TV」では、"Dr.伊藤"として、初心者の方から玄人の方まで知っておくべき時計知識を惜しむことなく発信。腕時計内部から知り尽くした唯一無二の鑑定士。

      機械式時計徹底解剖