みなさま、こんばんは!

 

機械式時計について技術者視点で語る本コラム。第8回となる今回は、

『A.ランゲ&ゾーネの「Cal.(キャリバー)」の番号について』

こちらをテーマにお話ししていきます。

 

1994年の復興から、瞬く間に高い評価を得て、高級腕時計ブランドの一端を担っている、新生【A.ランゲ&ゾーネ】。今や世界五大時計ブランドに数えられる程、業界の中でも圧倒的な存在感を示しています。

約20~30年の短期間でここまでの復活を遂げたこの快進撃の裏側には、新たなモデルに対して新たなムーブメントを開発していくような、製作優先の姿勢から生まれた独自性のあるモデルが、機械や機構に注目する腕時計愛好家の心を掴んだのではと思います。

 

 

今回はそんな【A.ランゲ&ゾーネ】のムーブメントに着目し、一つ一つに付けられている「Cal.(キャリバー)」の番号について解説していきたいと思います。『「Cal.」って言ってもただの番号でしょ』とお考えの方もいらっしゃるかと思いますが、実は"L"から始まるこの番号には様々な情報が組み込まれているのです。

そしてその読み解き方を知っておくと、作品に対して別の視点が持てたり、時を遡って時計の開発ヒストリーに思いを馳せることが出来たりと、なかなか興味深いものでもありますので、是非この機会に覚えていただければと思います。

あまり気にしたことの無い方は、本記事を見れば今後は気になって見るようになり、気付いたら"時計沼"にどっぷりなんてことも...(笑)

 早速、見ていきましょう!!

 

 

「Cal.(キャリバー)」番号解説

 

まず初めに、私の愛用モデルである『ランゲ1』を例に解説していきたいと思います。第一世代『ランゲ1』の「Cal.」番号は「L901.0」。

こちらは

・L(=A.ランゲ&ゾーネ) 
・90(=1990年に開発着手)
・ 1 (=同年に開発着手した順番)
・.0 (=枝番号・マイナーチェンジを行なった回数の意、0号機)

 

 

続いて第二世代『ランゲ1』の「Cal.」番号は「L121.1」。
こちらは

・L(=A.ランゲ&ゾーネ)
・12(=2012年に開発着手)
・ 1 (=同年に開始着手した順番)
・.1 (初代ムーブメントの意)

となり、開発から発表(2015年)まで約3年の年月が掛かっていることがわかります。ミレニアムを跨いでいると、少々分かりにくい部分もございますが、「Cal.」の番号からそのムーブメントがいつ頃開発され、どれくらいマイナーチェンジされているか等の情報を得ることができます。

 

 

続いて、「世界一美しいクロノグラフ」と言われる「ダトグラフ」を例にご紹介。

こちらの初代「Ref.403.035」に搭載されているムーブメントは「Cal.L951.1」 。そして今年のウォッチ&ワンダーズ ジュネーブで発表された最新機「Ref.405.028」に搭載のムーブメントは「Cal.L951.6」。

頭3桁の数字が同じ「951」であることから分かるように、この2つのムーブメントは「1995年に開発着手された1番目のムーブメント」がベースになっています。

 

 

基本設計は変更しないまま、細部のブラッシュアップを何度も重ね、約36時間と短かった初代のパワーリザーブを約60時間まで延長し、パワーリザーブインジケーターを追加するなど大きな進化を遂げている『ダトグラフ』。ただ、基本設計は1995年に開発が始まった歴史的なムーブメントを引き継いでいることが分かりますね。

 

 

これらのルールを認識したうえで読み解いていくと、通常であれば新作が一番新しい機械だと思いがちなところ、実はそうとは限らないことが分かります。例えば、2016年新作の『リヒャルト・ランゲ・ジャンピング・セコンド』は「Cal.L094.1」なので、2009年の開発着手。つまり、2015年の新作である『ランゲ1』より3年も早く開発が始まっていながらも、その完成には実に7年の歳月を要しているのです。

 

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

開発の着手時期がほぼ同じモノでも、早く完成した時計が先に発表されるケースや、何らかの理由で発表を遅らせたケース等もあるため、単に発表年順に時計を見るのとは異なった視点や疑問、新たな発見が生れてくるのではないでしょうか。

本記事が皆さまにとって有益な情報となり、高級腕時計に対する興味が少しでも沸いたようであれば、幸いでございます!また、ご不明点は直接ご質問いただければお答えしますので、みなさま是非ご来店、お問い合わせをお待ちしております。

次回もお楽しみに!ではまた!

 

機械式時計徹底解剖