みなさま、こんばんは!

 

 

機械式時計について技術者視点で語る本コラム。第41回となる今回は、

『高級時計の磁気対策について』

こちらをテーマにお話ししていきます。

 

 

高級時計の不具合の原因として、今も昔も上位に入るのが"磁気帯び"。

電子機器に囲まれた生活をしている現代、磁気が原因となる腕時計のメンテナンス事例は多いものです。どんな行動がNGになるのか、知りたいと思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回はそんな"磁気"についてお話していきたいと思います。

 

 

磁気帯びとは

 

磁気帯びとはその名の通り、時計内部のパーツが磁化してしまい、正常な動作に悪影響を及ぼしている状態になります。

この原因は、ムーブメントを構成するパーツの一部が、磁気の影響を受ける金属製であるため。そもそも、金属は磁気の影響を受けると磁石のようにくっついてしまう性質を持っており、磁力の発生源から離した後もその性質は維持されます。

つまり、腕時計における磁気帯びとは、磁力の発生源と腕時計を密着させた結果、腕時計内部のパーツに磁石の性質が残ってしまった状態を指します。

 

 

では、磁気帯びしてしまうと、一体どのような不具合が発生するのでしょうか?

最も多い症例は精度不良。磁気帯びの大きな影響を受けるのが、腕時計の精度を司るヒゲゼンマイであるため、磁化(磁石の性質を有する)してしまうと精度に乱れが生じることとなります。

 

 

ヒゲゼンマイとは時計の心臓部であるテンプを構成するパーツの一つであり、伸縮を繰り返すことにより時計は正確な時間を刻みますが、磁気帯びしてしまうとその伸縮が乱れ、テンプが正確な時間を刻めなくなります。これにより精度が狂いやすくなるのが磁気帯びの典型的な症状です。

この、磁気帯びによる精度不良に関しては、過去にYoutubeで実機を用いて解説しておりますので、そちらもぜひご覧ください。

 

 

また、自動巻き時計の場合、磁気の影響により巻き上げ効率が低下したり、リューズで手巻きをする際に引っかかりを感じたりといった不具合が発生することもあります。

 

 

一度磁気帯びしてしまった機械式時計は、専用の脱磁器を使用して磁気を抜かないと元の状態には戻りません。

 

 

耐磁時計とは?

さて、そんな厄介な磁気に対して、高級時計メーカーはどのような対策を取ってきたのでしょうか。

 

1.磁気シールド

 

時計を耐磁時計にするための方法は主に二つあります。まず一つは、ムーブメントを磁気シールドに収納すること。

磁気シールド素材の主流であった"軟鉄"はいわゆる軟磁性を持ち、磁気が残留する割合が大変小さく、外部磁場が取り除かれた後に磁化が持続することはありません。ムーブメントを覆うケースとして軟鉄製のケースを使用する方法は歴史的にも有効性が証明されていますが、ケースの厚みが増し、透明な裏蓋(シースルーケースバック)が使用できないという欠点があります。

 

2.非磁性素材の使用

磁気シールドを使用した耐磁時計の欠点を解消するために、近年各メーカーが開発に力を入れているのが"非磁性素材"になります。

ヒゲゼンマイに非磁性の高い素材を使用することで、磁気の問題を解決していることが多く、例えばシリコンや、ニオブとジルコニウムを使用したロレックス社製のパラクロム合金、シリコン系のシロキシヘアスプリング等がそれにあたります。

 

 

代表的な耐磁時計

1. シーマスター アクアテラ

 

2013年、オメガは『シーマスター』に世界初の"完全"な耐磁時計として、この『アクアテラ』を発表しました。ガウスは磁束密度の単位であり、本モデルに搭載された「Cal.8508」は1万5000ガウスまでの磁場に耐えられることが証明されており、METASの試験でも確認されています。こうした高い耐磁性能は、シリコン製のヒゲゼンマイを採用していることによります。オメガは今日(こんにち)に至るまで一貫してシリコン素材のヒゲゼンマイを用いています。 

 

2. ロレックス ミルガウス

 

2023年に生産終了となったロレックス『ミルガウス』は、その名に磁束密度の単位である"ガウス"を冠した時計です。1950年代に登場した初代モデルでは、軟鉄製のインナーケースを用いたクラシックな耐磁構造を採用していました。2007年に再登場した際には、非常に耐磁性の高いロレックス製パラクロムヒゲゼンマイも追加装備されました。 

 

 

ロレックスは耐磁性の数値を公表していませんが、名前が意味する"1000ガウス"を大幅に上回る耐磁性能を有しているのです。

 

3. IWC インヂュニア・オートマティック 40

 

IWC『インヂュニア』の現行モデルである『インヂュニア・オートマティック 40』は、1950年代と同様に、実績のある軟鉄製インナーケース構造を採用しています。そのため、IWCは通常シースルーの裏蓋を好んで採用しますが、本モデルではクローズドの裏蓋が採用されています。

 

 

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

目に見えないため、常に不安が付きまとう磁気という存在。高級時計の天敵ではありますが、近年は各メーカーとも耐磁性能を向上させたモデルを多く発表していますので、磁気帯びを気にせず時計を使いたい!という方はこれらのモデルを選択肢に加えても良いのではないでしょうか?

本記事が皆さまにとって有益な情報となり、高級腕時計に対する興味が少しでも湧いたようであれば幸いでございます!また、ご不明点は直接ご質問いただければしっかりとお答えさせていただきますので、みなさま是非ご来店、お問い合わせをお待ちしております。

次回もお楽しみに!ではまた!

監修者のプロフィール

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コミット銀座

2015年の会社設立以来、"高く買い、安く売る"をモットーに、顧客第一主義を徹底。価格面におけるメリットのみならず、お客様が安心して買い物出来る環境づくり、お客様に最適な時計の提案も実現。
徐々にお客様からの信頼も得て、多くの顧客様を抱えることに成功。高い知識を要するヴィンテージロレックスや、パテックフィリップを始めとするハイエンド商材の取り扱いを得意とする、新進気鋭の高級腕時計専門店。

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