みなさま、こんばんは!

機械式時計について技術者視点で語る本コラム。第45回となる今回は、
『夜光塗料の進化~トリチウム・ルミノバ・クロマライト』
こちらをテーマにお話ししていきます。

高級時計選びにおいて、非常に重要な役割を占めているのが、”夜光塗料”。
暗闇でぼんやり光るインデックスや針。すでに夜光塗料としての機能は失われていますが、絶妙な経年変化を起こして、時計の価値を押し上げているモノもあり、実用性だけでなく、夜光が時計の雰囲気そのものを大きく左右します。
今回は、時代ごとに進化してきた夜光塗料から代表的な3種類トリチウム・ルミノバ・クロマライトを中心に、それぞれの違いと魅力を、時計好き目線で解説したいと思います。
トリチウム:ヴィンテージの"味"

まずは、ヴィンテージ好きにはおなじみの"トリチウム"。
1960~90年代中頃まで、多くの機械式時計に使われていた夜光塗料で、放射性物質を含むのが特徴です。文字盤に「T SWISS T」「T<25」などの表記があります。
トリチウムの特徴
・自発光
・年数が経つと発光力は弱まる
・経年変化によりクリーム色~オレンジに変化するモノがある
この”経年変化”こそがトリチウム最大の魅力。均一に濃く焼けたインデックスや針は大変人気があり、それだけで時計の価値が上がります。

一方で、放射性物質を僅かながら含むため、現在は安全基準の問題から使用されていません。

※1966年製サブマリーナー5513

※1978年製エクスプローラー「Ref.1016」
同じトリチウムという分類でも、年代やモデルによって、UVライトに対する照射反応が異なったり、経年変化の仕方に特徴があったり・・・そんなところもマニア心をくすぐるポイントです。
ルミノバ:現代時計のスタンダード

次に紹介するのは”ルミノバ”。
トリチウムに代わる、放射性物質を含まない夜光塗料として1990年代後半から急速に普及しました。文字盤には通常「SWISS」「SWISS MADE」といった表記が入り、トリチウムを表す「T」の文字は一部の例外を除いて入りません。
2025年現在も多くのブランドで採用されている、いわば”現代夜光の標準”。このルミノバ、ご存じの方も多いと思いますが「根本特殊化学」という日本企業が開発した塗料になります。日本人として非常に誇らしいですね。
ルミノバの特徴
・非放射性で安全
・光を蓄えて発光(蓄光型)
・発光は明るい緑色で、時間とともに減衰
・基本的に白~やや緑がかった色味
夜光としての実用性は非常に高く、暗所での視認性は抜群。

ただし、トリチウムのような経年変化はほとんどなく、年数が経っても色味はほぼ変わりません。そのため、ヴィンテージ好きからすると、物足りなく感じてしまうこともあるようです。
クロマライト:ロレックス独自の"青い夜光"

そして最後にご紹介するのは、ロレックスが2008年頃から本格採用した"クロマライト"。
これはロレックス独自の夜光塗料で、最大の特徴は青く発光すること。従来の緑系夜光と比べて、暗闇でも目に優しく、長時間見やすいとされています。
クロマライトの特徴
・非放射性・蓄光型
・青色発光
・発光持続時間が長い
・現行ロレックスの多くに採用
『ディープシー』等のプロフェッショナルモデルから順に採用され、現在は『デイトジャスト』を含む、ほぼ全てのロレックスに使用されています。暗所で見た時に、インデックスと針がクールなブルーに光るその様は、いかにも”最新ロレックス"という印象です。

上の画像は、インデックスがクロマライト、針がルミノバの時計です。こうして比べてみると、暗所での光り方の違いがよく分かりますね。こちらもルミノバと同じく経年変化はほぼなし。将来的な"味"を楽しむ夜光ではありません。
セラクロムベゼルやクロマライト夜光など、機能性や耐久性で圧倒的な進化を果たしている素材が、数十年後のヴィンテージウォッチ市場でどのような評価をうけているか?
そういったことを想像しながら時計を選ぶのも楽しいですよね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
夜光塗料の種類だけで、時計の人気を大きく左右することがお分かりいただけたのではないでしょうか。
・ヴィンテージ感を楽しみたい→トリチウム
・日常使いや実用性重視→ルミノバ
・最新ロレックスの世界観→クロマライト
どれが一番優れている、という話ではなく、どの時代の時計を楽しみたいかで価値は変わります。皆様のこだわりに合わせて、選んでみていただければと思います。
本記事が皆さまにとって有益な情報となり、高級腕時計に対する興味が少しでも湧いたようであれば幸いでございます!また、ご不明点は直接ご質問いただければしっかりとお答えさせていただきますので、みなさま是非ご来店、お問い合わせをお待ちしております。
次回もお楽しみに!ではまた!



