みなさま、こんばんは!
機械式時計について技術者視点で語る本コラム。第40回となる今回は、
『高級時計の外装仕上げについて』
こちらをテーマにお話ししていきます。
大切に扱っていても、知らぬ間に増えてしまう時計の傷。自覚がなくても、ふとした弾みについてしまうものですね。
日常で腕に着けている以上、多少の使用傷は仕方ないこと。また、無傷でピカピカよりも、多少スレが入って味が出ている方がかっこよく見えたりもします。
とは言えあまりに傷だらけだと、気になってしまいますよね。
そこで今回は、高級時計に傷がついた際の"仕上げ"についてご説明いたします。
外装研磨とは
高級時計の傷は通常"研磨"によって取ります。深い打ち傷や凹みは完全に取ることはできませんが、表面の研磨で目立たなくすることは可能です。"ポリッシュ"と呼ばれることもあり、バフモーターという専用工具で磨いていきます。
ステンレスやゴールド等の金属素材であれば、研磨による傷取りが可能です。一方でカーボンやセラミックと言った複合素材や樹脂素材、あるいは金属でもPVD等の加工が施してあるものは、研磨を行うことはできません。
ところでこの研磨、"自分でできるか"というお問合せをいただくことがあります。
こちらに関しては、プラ風防以外の研磨はオススメしません。高級時計であれば尚更です。
この理由は"新品状態の仕上を再現することが非常に難しい"ため。綺麗になるどころか、逆に外観を損なってしまうケースを多く見てきましたので要注意です。
高級時計の外装部分には、メーカーが丁寧に仕上げを施しており、"鏡面仕上げ"と"ヘアライン仕上げ"を組み合わせたものが一番多いです。これらは専用機械によって行いますが、メーカーそれぞれで独自性があります。あまり慣れていない方が研磨してしまうと、この仕上げの筋目が変わってしまったり、歪みが出てきてしまうのです。
また、鏡面仕上げに付いてしまった傷を取ろうと一生懸命磨いた結果、隣接するヘアライン仕上げも磨いてしまい、ツヤが出てしまった、、、なんてこともあります。
こういった理由から、腕時計についてしまった傷はご自身で研磨を行おうとせず、専門業者に依頼することをお勧めします。
ノンポリッシュがベスト?
皆さん、"ケース痩せ"という言葉を聞いたことはございますでしょうか。
ケース痩せとは文字通り、研磨のしすぎでケース面積が減少してしまうことを指します。
冒頭でご紹介しているように、外装研磨はあくまで"削る"行為。もちろん言葉通りに削り取っているわけではなく、あくまで微細な研磨となります。
しかしながら繰り返し研磨を行うと、金属部分が減ってしまったり、エッジが丸まったりしてしまうこととなります。これが、ケース痩せです。
ケース痩せは見た目に影響を与えるのみならず、耐久性の低下にも繋がります。メーカーにメンテナンスを依頼すると、ケース交換が必要となる場合もあります。確かに新品商品と比べてしまうと傷は気になるものですが、あまり頻繁に外装研磨を行うとケース痩せに繋がってしまうことを知っておきましょう。
近年は”ノンポリッシュ個体の評価が高い”という傾向を意識して、磨かれているものは魅力がないとお考えの方も多くいます。ただ個人的には、ノンポリッシュで傷だらけの個体より、しっかりとした技術者が研磨で美しく仕上げた個体の方が、好感が持てるというのは正直なところです。
ここは考え方次第ですが、あまりノンポリッシュにこだわりすぎると、高級時計購入の選択肢を狭めてしまう可能性がありますのでご注意ください。
リファビッシュとは
先述したように、研磨を繰り返すと、"ケース痩せ"が生じて高級時計の魅力や資産価値が減少してしまうことがあります。そこで仕上げ方法の選択肢として覚えていただきたいのが"リファビッシュ(Refurbish)"です。
"修復・改修"などの意味を持つ言葉で、高級時計の仕上げにおいては「深い傷を溶接等で修復したのちに、全体を新品状態に近づくように仕上げる」方法を指します。
この方法だと、深い傷を取り切るために周辺を削る必要が無くなり、ケース痩せを最小限に留めることができます。高い技術力が必要なため、一部のメーカーと修理工房のみで行われており、料金も高額になります。大切な時計に、深い打ちキズをつけてしまった、、、なんて時は、選択肢としてこの"リファビッシュ"を思い出してみてください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
外装研磨は傷のみならず、時計のもともとの形状や仕上げを維持するために、信頼できるプロにお任せするのが一番です。依頼先はメーカーや民間修理業者等様々あるので、ご自身の予算やお持ちのモデルと相談しつつ決めるようにしてみてください。信頼できる販売店で購入した個体であれば、研磨やその他メンテナンスについても相談してみるのが一番良いかもしれません。
本記事が皆さまにとって有益な情報となり、高級腕時計に対する興味が少しでも湧いたようであれば幸いでございます!また、ご不明点は直接ご質問いただければしっかりとお答えさせていただきますので、みなさま是非ご来店、お問い合わせをお待ちしております。
次回もお楽しみに!ではまた!