機械式時計を選ぶ際、皆さんはどこに注目されるでしょうか。
多くの方は"デザイン性"や"機能性"、"資産性"とお答えになると思います。もちろん見た目やリセールというのは非常に重要なポイントになりますが、ここにブランドやモデルの歴史的背景、年代毎のマイナーチェンジなど、知識や理解が増えることで、さらに時計が好きになり、選ぶ楽しみを味わえるのではないでしょうか。 本コラムでは、初心者、上級者を問わず、機械式時計に関する知識を一つでも多くお伝えし、皆さまの時計選びの参考となるよう徹底解剖、徹底解説してまいります。
今回は【ロレックス】『GMTマスターⅡ』「Ref.16760・Ref.16710」にフォーカスを当ててお話ししていきますので、ぜひ最後までご覧ください。
第一・第二世代 GMTマスターⅡ Ref.16760、16710
1980年代、【ロレックス】がGMT機能に新たなアプローチを加えたことで誕生した『GMTマスターⅡ』。独立可動の24時間針を搭載し、より実用性が高められた『GMTマスターⅡ』は、「Ref.16760」”ファットレディ”から始まり、後継機となる「Ref.16710」で一つの完成形を迎えます。
本記事では、『GMTマスターⅡ』の初代モデル「Ref.16760」と、第二世代にあたる「Ref.16710」について、外装・仕様・ムーブメント・ダイヤル・夜光・ベゼルといった要素を軸に、深堀りして解説していきます。
Ref.16760|GMTマスターⅡ 初代「ファットレディ」
◾️概要と背景
1982年に登場した「Ref.16760」は、【ロレックス】が『GMTマスターⅡ』として新たなシリーズを確立した記念すべきモデルです。GMT機能として「24時間針の単独操作」が可能となり、同一リューズ操作で3タイムゾーンを把握できるようになりました。
このモデル最大の特徴は、ケースの厚みにあります。従来のGMTマスター(Ref.1675、Ref.16750)と比べると明らかにボリュームのあるミドルケースが採用されており、その風貌から通称「ファットレディ」、「ソフィアローレン(イタリアを代表する女優)」の愛称で親しまれています。
◾️基本情報
・製造期間:1982年~1988年
・ケース径:40mm
・ベゼル:両方向回転ベゼル(コーク)
・風防:サファイアクリスタル
・ムーブメント:Cal.3085
・防水性能:100m
「Ref.16760」のベゼルは赤黒(コーク)のみとなっており、赤青(ペプシ)や黒単色といったバリエーションは存在していません。また、夜光のインデックスはふっくらとした立体感のあるドットが採用され、文字盤のフォントもこの時代特有の丸みを帯びたものになっています。
ダイヤル
ダイヤルはブラックラッカーで、夜光塗料はトリチウム(SWISS-T 25)が用いられており、経年変化によって生まれるクリーム色の焼けが魅力です。製造年数が短いため、文字盤のバリエーションは少なく、概ねMk1〜Mk3に分類されています。
◯Mk1(1982-84年頃)
・「OYSTER PERPETUAL」単独表記(DATEなし)
・レターは個体差があるがセリフ付き仕様
◯Mk2(1985-87年頃)
・ 「OYSTER PERPETUAL DATE」表記へ
・レターはセリフ付き仕様
◯Mk3(1986-88年頃)
・「OYSTER PERPETUAL DATE」表記
・レターにセリフが無く、書体が太いのが特徴
ムーブメント
搭載ムーブメントは「Cal.3085」。このムーブメントから、24時間針が独立して動かせる設計となり、時針とGMT針が別々に可動することで実用性が飛躍的に向上しました。
総評
生産期間が短く、かつ後継機の「Ref.16710」に比べると圧倒的に個体数が少ないことから、近年再評価が進んでいる「Ref.16760」。ファットケースの力強さや、初代『GMTマスターⅡ』ならではのディテールに惹かれるファンも多く、今後さらに希少性が高まるモデルの一つと言えるでしょう。
Ref.16710|GMTマスターⅡ 第二世代モデル
◾️概要と背景
1988年頃から2007年頃まで約20年にわたり製造された「Ref.16710」は、『GMTマスターⅡ』の代表格とも言えるモデルです。前作「Ref.16760」のボリューム感を抑え、スタンダードなミドルケースへと回帰し、完成されたデザインと高い実用性から長年にわたり高い人気を誇ります。
後期には「Cal.3186」を搭載した移行期も存在しており、最終期モデル(Z〜M品番)にかけて希少なバリエーションが登場します。
◾️基本情報
・製造期間:1988年〜2007年頃
・ケース径:40mm
・風防:サファイアクリスタル(2003年頃より王冠透かし入り)
・ベゼル:アルミ製の赤青・赤黒・黒の3種類
・防水性能:100m
「Ref.16710」は3色展開のベゼルを持ち、シーンや好みに応じて交換することで印象をガラリと変えられるのも魅力のひとつ。中でも、ペプシベゼル(赤青)の人気は不動となっています。
ダイヤル
夜光塗料の移り変わりに伴い、トリチウム(1988~1998年頃)→ ルミノバ(1998~200年頃頃)と表記が段階的に変化します。
・SWISS-T<25:トリチウム
・SWISS:ルミノバ
・SWISS MADE:ルミノバ
また、以下のような表記バリエーションも存在します。
・モデルロゴタイプ: “GMT-MASTERⅡ”が6時位置に追加された表記
・レクタンギュラータイプ: “Ⅱ”の上下棒が長い文字デザイン
・スティックタイプ: “Ⅱ”の上下棒が省略されたレア表記
ムーブメント
・Cal.3185(1988~2007年)
・Cal.3186(Z番後半〜M番)
「Cal.3186」を搭載したモデルは、「Ref.16710」の中でもわずかな期間のみの生産となります。Z〜M番の間でも「Cal.3186」を搭載している個体とそうでない個体に分かれ、「Cal.3186」搭載個体は希少性が高く、相場も高くなっています。
キャリバーの簡易な見分け方は、ウィグルテストと呼ばれる操作です。短針の独立駆動時にGMT針が干渉を受けてピクピクと小刻みに動くのが「Cal.3185」、「Cal.3186」はほとんど動かないことで判別ができます。
また、リューズの王冠を正位置に設定、短針を動かす1段階目まで開放します。ゆっくりと短針を1周させて、再びリューズの王冠が正位置になるまで右に回していきます。
「Cal.3185」は短針が5時間で1周、「Cal.3186」は8時間で一周、これを確認することで判別することも可能です。
総評
「Ref.16710」は、『GMTマスターⅡ』の中でも屈指の完成度とバリエーションを誇るロングセラーモデルです。20年近くにわたり細かな仕様変更が繰り返されており、コレクションの対象としても人気が高まっています。「Cal.3186」搭載個体やスティックダイヤルなどはプレミアム化が進行中です。
まとめ
「Ref.16760」と「Ref.16710」は、『GMTマスターⅡ』の初代と第二世代という立ち位置ながら、まったく異なるキャラクターを持った2本です。厚みを活かした存在感あるデザインと生産期間の短さで希少価値の高い「Ref.16760」。一方で、洗練されたデザインと多彩なバリエーションで高い完成度を誇る「Ref.16710」。
それぞれの時代の空気を纏ったこの2本は、『GMTマスターⅡ』の魅力を語る上で外すことのできない存在です。
それではまた次のモデル解説でお会いしましょう!
ではまた!!





