みなさま、こんばんは!
機械式時計について技術者視点で語る本コラム。第36回となる今回は、
『高級時計の出荷基準とは?』
こちらをテーマにお話ししていきます。
価格にして数十万円から、数千万円に至るまで無数のモデルが存在する高級時計。高額なため、すべてのお客様が完璧なコンディションをお求めになるのも頷けます。
しかし、いくら高級品といっても新品状態から見られるキズがあったり、精度にばらつきがあったりするのは自然なこと。今回は、そんな高級時計の「出荷基準」についてお話していきます。
出荷基準とは?
「出荷基準」とは、一般的に製品や商品を出荷する際に満たすべき品質や状態の基準を指します。企業が製品を市場や顧客に提供する前に、「この状態であれば出荷してよい」と判断するためのルールや条件です。
出荷基準の目的には以下のようなことがあります。
・品質の安定化:一定の品質を保ち、不良品を市場に出さない
・顧客満足度の向上:安心して商品を購入していただく
・クレームの削減:初期不良によるトラブルを未然に防ぐ
・信頼の構築:ブランドや会社の信用を守る
高級時計の出荷基準
高級時計業界における出荷基準は、精度•外観・機能・品質保証など、非常に高い水準で定められています。高額な買い物になるのでお客様の期待も当然高くなりますし、ブランドの信頼性と価値を守るために極めて重要なことです。
以下、主要ポイントを整理してご説明します。
・外観 ― ケース、文字盤、針、ガラス等にキズ・汚れ・ズレ・ムラがないこと。特にポリッシュ仕上げやヘアライン仕上げなど、加工の均一性が重視される。
・精度(歩度)― 一定期間における進み、遅れの許容範囲。ブランドや認証基準によって異なる。
・防水性能 ― モデルに応じた防水試験(加圧・減圧など)を実施し、基準を満たす必要がある。
・パワーリザーブ ― 各モデルに規定された持続時間を満たしているか。
・組み立て・針合わせの精度 ― 針の取り付け位置や日付の切り替わるタイミング(午前0時±何分)が基準内か。
一般的に求められる品質基準に比べて、高級時計に求められる基準というのは非常に高いレベルにあることは明らかで、各ブランドとも顧客の期待に沿えるよう様々な工夫をしています。
ブランドごとの特徴例
【ロレックス】--COSCによるクロノメーター検定通過後、ケース組み立て後の自社検査で-2~+2秒/日以内の精度基準
【パテックフィリップ】--自社基準「パテックフィリップ・シール」採用。COSCより厳しい-3~+2秒/日以内の精度基準
【A.ランゲ&ゾーネ】--ムーブメント組み立て後に一度完全分解し、再度組み立ててから出荷(二度組み)。仕上げと精度の完璧性を追求。
COSC(スイス公式クロノメーター検定)による-4~+6秒/日の精度基準が、長らく高精度機械式時計の証明となっていましたが、現在は各ブランドがそれを上回る自社基準を設けて、高精度化に磨きをかけています。
高級時計は完璧?
名だたる高級ブランドの時計たちは、品質が高いのは当然。購入されるお客様の期待値が高いのも当然と言えます。
しかし、どんなに高品質でも製品ごとの個体差は存在しますし、メーカーごとの出荷基準、許容範囲が設けられています。
新品状態の高級時計でも、ルーペで確認すると文字盤にわずかなスレキズがあったり、小さなチリが混入してしまっていることはあり得ますし、ピカピカのケースにもルーペレベルの小キズは入っていたりします。
それらは決して不良品ではなく、メーカーが「これは問題ない」と判断して出荷されたものがほとんどです。肉眼では見えないような細かいキズを気にしすぎると精神衛生上も良くないですし、できるだけおおらかな心で見ていただいた方が色々とうまくいくのでは?と思います。
また、精度に関しても各ブランドの出荷基準の数値が、誰がどのように使用しても保証されるものではなく、各ユーザーの使用状況によって変化することは理解しておくべきかと思います。
まとめ
高級時計の出荷基準は「ブランド価値=品質」という考えのもとで非常に厳密に管理されています。高額の時計になればなるほど出荷基準も厳しくなりますが、それでも「完璧」は存在せず、ある程度の「許容範囲」が設けられていることは覚えておいていただければと思います。
本記事が皆さまにとって有益な情報となり、高級腕時計に対する興味が少しでも湧いたようであれば幸いでございます!また、ご不明点は直接ご質問いただければしっかりとお答えさせていただきますので、みなさま是非ご来店、お問い合わせをお待ちしております。
次回もお楽しみに!ではまた!