みなさま、こんばんは!
機械式時計について技術者視点で語る本コラム。第32回となる今回は、
『ねじ込み式リューズとプッシャーについて』
こちらをテーマにお話ししていきます。
機械式時計のムーブメントにとって、大敵と言えるのが"湿気"や"水分"。内部部品の不具合に直結してしまう、絶対に避けなければならない相手です。
そして、その大敵に対抗するため、ロレックスを始めとする防水時計の多くに採用されているのが、"ねじ込み式"のリューズやプッシャーです。
時計の防水性を維持するために大切なパーツであるねじ込み式リューズ、プッシャーについて、その構造や使用上の注意点、また誤解されている可能性が高いポイントを今回はお伝えしていきたいと思います。
ねじ込み式リューズとは
「ねじ込み式リューズ(Screw-down Crown)」は1926年にロレックスが世界初の完全防水腕時計"オイスター"を開発した際に、その要として採用されました。
通常のリューズはそのまま操作が可能ですが、ねじ込み式リューズは、リューズ自体をケースにねじ込む構造になっており、リューズ部分からの水やホコリの侵入を強力に防ぐ仕組みです。そのため、操作の前にリューズのねじ込みを解除する必要があります。
ロレックスは用途やモデルに応じて、2種類のリューズ機構を採用しています。
一つが「ツインロック(Twinlock)」。主にデイトジャストやエクスプローラー等に採用されており、リューズの径が小さめなのが特徴です。
もう一つが"トリプロック(Tripock)"。サブマリーナー、シードゥエラーなど、高い防水性を持つプロフェッショナルモデルに主に採用されています。
リューズの径が大きく、王冠マークの下に3つのドットが入るのが特徴です。
ツインロックとトリプロックの構造的な違いとしては、ツインロックは2枚のパッキンで防水性を維持しているのに対して、トリプロックは3枚(現在は4枚)のパッキンが使用されている点です。
ツインロックでも十分な防水性能を得ることができますが、より高い水圧への対応が求められる場合はトリプロックの方が安心ですね。
ちなみに、ねじ込み式ではないリューズは、通常1枚のパッキンで水やホコリの侵入を防いでいます。言ってみれば"シングルロックリューズ"ですね。
ねじ込み式リューズを締め忘れてしまった場合でも、シングルロックと同じように1か所のパッキンは機能しており、非防水状態ではありませんのですぐに水やホコリが内部に入ってしまうことはありません。
ねじ込み式プッシャーとは
ねじ込み式プッシャーとは、クロノグラフ操作用のボタン部分を回して締めることで、誤操作を無くし、防水性を高める機構です。
ロレックスでは、腕時計として初めて手巻きデイトナ「Ref.6240」にねじ込み式プッシャーが採用されました。
そして手巻きデイトナの最終型「Ref.6263/6265」以降のデイトナには全てこのねじ込み式プッシャーが搭載されており、文字盤には“OYSTER”表記が入ります。
ここで皆さんにぜひ知っておいていただきたいのが、ねじ込み式リューズとねじ込み式プッシャーの構造の違いです。
リューズはねじ込むことによって気密性が高まるようになっていますが、実はプッシャーに関しては、ねじ込み部分にパッキンが付いていないため、気密性はねじ込み前後で変わりません。ではなぜねじ込み式になっているかと言うと"水中での誤作動防止"のためなのです。
ねじ込み式でないプッシャーの場合、水中で意図せずプッシュボタンに触れてしまった際に、水圧でケース内部に水が浸入してしまいます。それを防ぐために、ねじ込み式のロックを解除しないとプッシュボタンが押せないようになっているのですね。
ここは勘違いされている方が多いかと存じますので、この機会にぜひ覚えていただければと思います。
なので、ねじ込み式プッシャーは力いっぱい締め込む必要はなく、軽く止まるところまでねじ込めば十分です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
雨の多いこの時期、愛用されている時計の防水性について気にされている方が多いのでは?、と思い、リューズとプッシャーについてお話させていただきました。
ご使用方法を理解し、定期的なメンテナンスを怠らなければ梅雨時でも高級時計はガンガンご使用いただけますので、ご安心ください。
本記事が皆さまにとって有益な情報となり、高級腕時計に対する興味が少しでも湧いたようであれば幸いでございます!また、ご不明点は直接ご質問いただければしっかりとお答えさせていただきますので、みなさま是非ご来店、お問い合わせをお待ちしております。
次回もお楽しみに!ではまた!