みなさま、こんばんは!
機械式時計について技術者視点で語る本コラム。第12回となる今回は、
『時計の風防について~それぞれの特徴』
こちらをテーマにお話ししていきます。
腕時計のガラス(風防)は文字通り「風による悪影響を防ぐ」ために作られた部品のことを指し、文字盤を守る役割を担う重要なパーツです。
そして、主に腕時計に使われるガラスには
「プラスチック(アクリル樹脂)」
「ミネラルガラス」
「サファイアクリスタル」
以上の3種類が存在します。
今回はこれらのガラスの違いを解説していきますので、ぜひ最後までご覧ください。
「プラスチック風防」
プラスチック風防は「プラスチック(アクリル樹脂)」で作られており、プレキシガラスと呼ばれることもあります。3つの素材の中では最も軽く柔らかい素材であり、加工しやすいことが最大の特徴です。
プラスチック風防は、主に1940年代~70年代頃の腕時計に多く使われていました。現在でも復刻モデルや【オメガ】『スピードマスター』等に採用されていますが、基本的にはヴィンテージウォッチのイメージですね。
また、腕時計に使われているプラスチック風防は「ドーム型」の形状をしていることが非常に多く、フラット形状が基本であるサファイアクリスタルガラスとは全く異なる雰囲気を持ち、温かみのあるデザインとなっています。
プラスチック風防がドーム型になっている理由は「強度」を上げるため。ガラス素材とは異なり、プラスチック風防は衝撃に弱く、割れやすいという性質を持ちます。そのため、形状にカーブをつけることで割れやすさを軽減しているのです。
しかし風防が盛り上がっている分、知らぬ間に擦り傷が付いている...なんてことも多く、元の素材の柔らかさもあってキズには要注意です。このことからも、細かなキズや時計の経年変化を個性として楽しめる方には特に向いている素材と言えるでしょう。
またプラスチック風防は、傷がついても磨いて落とせるというのもポイント。これはサファイアクリスタルやミネラルガラスでは出来ないことで、時計修理工房に磨きを依頼することもできますし、ご自身でプラスチック用の研磨剤を使用して磨くこともそれほど難しいことではありません。
ちなみにサファイアクリスタルやミネラルガラスは傷を落としたい場合、研磨を行うことが難しいため、ガラス交換となり高額な費用が発生します。
ミネラルガラス
ミネラルガラスとは一般的なガラスの事を指しており、窓ガラスやコップなど、身近なものに幅広く使用されている素材です。無色透明のサファイアクリスタルに対して、僅かに色が付いているのが特徴ですね。
また、ミネラルガラスはプラスチックより硬いですが、サファイアクリスタルほどの硬度はなく、モース硬度の評価は高くても「6」、少ないもので「3」程度しかありません。(※モース硬度とは:主に鉱物に対する硬度のことで、1(柔らかい)から10(硬い)までの整数値で表現されます。)
そのため、割れやすく欠けやすいといった欠点があります。しかし、低コスト且つ加工がしやすい素材であることから、多くの腕時計に採用されている材質でもあります。
ミネラルガラスは主に5万円以下のカジュアルウォッチに使われており、高級時計に使用されることはあまり無い印象です。
1990年代の【チューダー】の一部モデルには採用されていましたが、メーカーでのメンテナンス時にガラス交換が必要な場合、サファイアクリスタル製に切り替わるようです。
サファイアクリスタル
サファイアクリスタルガラスは高級時計に最も多く採用されているガラスで、天然宝石のサファイアと同等の硬度を有し、傷が付きにくいという特徴を有しています。
モース硬度においては最高クラスの「9」評価を受けている素材であるため、少しこすった程度では傷つくことはなく、固い金属でこすったとしてもそう簡単には傷がつきません。いつまでも購入時の輝きを保てることから非常に高い人気を誇っているガラスなのです。
ただ優れた性質を持つがゆえにコストも高くなっており、時計のガラスとしては理想的な素材でありながらも採用されているのは高級時計が大半です。
プラスチックのように傷付くことがなく、ミネラルガラスのような割れやすさもない。それでいて純度の高さから抜群の視認性も誇るなど、実用性の高さは勿論のこと、ガラスとしての美しさにも優れており、一躍高級時計の風防としてメジャーな存在となりました。
硬いが故に加工が難しいですが、【ウブロ】のようにケースにサファイアクリスタルを採用するブランドも出てきたり、【ロレックス】『ミルガウス』のグリーンサファイアクリスタルなど、変わり種も現れたりして今後も楽しみな素材ですね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
プラスチック(アクリル樹脂)・ミネラルガラス・サファイアクリスタルと、3種類のガラスが存在していますが、そのどれもが魅力的な特徴を有しています。
耐久性で言えばサファイアクリスタル、レトロな雰囲気で言えばプラスチックなど、デザイン性や機能性で時計を選ぶのと同じように、風防で時計を選ぶのも面白いかもしれませんね。
本記事が皆さまにとって有益な情報となり、高級腕時計に対する興味が少しでも沸いたようであれば幸いでございます!また、ご不明点は直接ご質問いただければしっかりとお答えさせていただきますので、みなさま是非ご来店、お問い合わせをお待ちしております。
次回もお楽しみに!ではまた!