機械式時計を選ぶ際、皆さんはどこに注目されますか。

多くの方は"デザイン性"や"機能性"、"資産性"と答えると思います。もちろん見た目や価値というのは非常に大事なポイントになりますので必然であると言えますが、ここにブランドやモデルの歴史的背景、年代毎のマイナーチェンジなど、知識や理解が増えることで、さらに時計が好きになるのではないでしょうか。

本コラムでは、初心者、上級者を問わず、機械式時計に関する知識を一つでも多くお伝えし、皆さまの時計選びの参考となるよう徹底解剖、徹底解説してまいります。

今回は【ロレックス】『サブマリーナー』「Ref.14060・Ref.14060M」にフォーカスを当ててお話ししていきますので、ぜひ最後までご覧ください。

【ロレックス】『サブマリーナー』「Ref.14060」とは

第四世代『サブマリーナー』「Ref.5513」がE番(1990年頃)までの製造になり、同じくE番(1989年頃)から登場したのが、今回紹介する第五世代の「Ref.14060」です。このモデルから風防がサファイアクリスタル風防になり、防水性能も300mまでアップしています。また、逆回転防止ベゼルもこのモデルから装備され、28,800振動の自動巻きCal.3000へとムーブメントも変更されています。「Ref.5513」と比べて性能面、機能面が現代的なスペックになっていますが、現行モデルと比べた時の棲み分けがしっかりされているので、根強いファンが多いモデルです。

第五世代 Ref.14060〜基本スペック〜


製造年:1989年(E番)〜2000年(P番)
ケース:40mm
ベゼル:逆回転防止式(アルミ製インサート)
風防:サファイアクリスタル
防水:300m防水
ブレスレット:ハードブレス(93150/580B)期間:1976年〜1989年頃
ムーブメント:Cal.3000
振動数:28,800振動

①ダイヤルについて

「Ref.14060」のダイヤルバリエーションは大きく3種類存在していて、ブラックラッカーダイヤルにメタルフレーム仕様のインデックスが採用されているおり、ダイヤル6時位置の表記で見分けがつくため、「Ref.5513」と比べると見分けやすくなっています。

◯SWISS-T<25 表記(1989-1998年頃)
ダイヤル6時位置に表示されている“SWISS-T<25”は以下の意味合いになっています。“SWISS”→SWISS製であることを表しており、“T<25”→トリチウムの“T”とトリチウムに含まれる放射線量が25mCi(マイクロキュリー)未満で、人体への影響がないと言うことを表しています。


トリチウムは半減期(ある放射線同位体が、放射線崩壊によってその内の半分が別の核種に変化するまでにかかる時間のこと)が約12年と短く、放射エネルギーも弱いため、放射線物質の中では危険が最も少ない種類に分類されています。トリチウム夜光と言いますが、トリチウムに発光力があるわけではなく、実際に光っているのは蛍光塗料になり、その塗料を光らせるための電池のような役割をトリチウムが担っているため、ほとんどのトリチウム個体は半減期を過ぎるとすでに光らず、夜光としての効力を持っていない個体が多くなっています。

また、トリチウム夜光からルミノバ夜光への移行期に見られる通称“トリチノバ”という個体があります。これは移行期のT番〜U番に見られ、ダイヤル表記は“SWISS-T<25”でありながら、インデックスの夜光はルミノバ夜光が入っているダイヤルになります。時計としての評価に現時点では直結していませんが、こういった個体があるのがロレックスの魅力の一つではないでしょうか。


トリチウム夜光の個体で人気があるのが、針やインデックスの夜光が焼けている個体で、通称“パティーナ”と呼ばれています。この焼けが強く、均一に入っている個体の人気は高く、ケースやブレスレットのコンディションも良いと入荷後即販売に至るケースがほとんどです。

◯先端ドット
1990年代前後の個体で稀に見かける特殊個体が“先端ドット”です。これは秒針に付いている夜光の位置が針の先端に寄っているのが特徴で、12時位置のトライアングル夜光と6・9時位置のバーインデックスを通る際にドット型の夜光部分が重なります。また、通常の針は先端に行くにつれ細くなるのに対して、先端ドットの針は先端まで均一の太さとなっています。

◯SWISS 表記(1998-1999年頃)
1998年頃(U番半ば)から夜光がトリチウムからルミノバ夜光へと切り替わりました。
そのタイミングでダイヤル6時位置の表記が“SWISS”表記のみになっています。この“SWISS”表記は、翌年の1999年までしか使用されなかったため、個体数が少なくなっています。現在のところ、実勢価格への反映は見られませんが、今後が楽しみな個体かもしれません。


トリチウムは放射性物質を含む自発光型であったのに対して、ルミノバ夜光は放射性物質を含まない蓄積光で、日光や明るい部屋のもとで光が当たることによって、暗所でグリーンに発光します。
こちらのルミノバ、実は「根本特殊化学株式会社」という日本企業が開発したということをご存じでしょうか。根本のイニシャルを取った「N夜光」という文言も商標登録されています。2000年には時計産業によるシェア率100%を占め、時計の夜光塗料=ルミノバが定番となっています。

◯SWISS MADE 表記(1999-2000年頃)
1999年からはダイヤル6時位置の表記のみが変更され、“SWISS”から“SWISS MADE”表記という表記へと変わっています。表記のみが変更され、夜光塗料はルミノバが採用されています。

②ベゼルについて

「Ref.14060」からはベゼルが“逆回転防止式ベゼル”へと切り替わっています。逆回転防止ベゼルとは、ベゼルを『時計回りにできないようにしている(反時計回りにしか回らない)』機能のことです。『サブマリーナー』はダイバーズウォッチのため、潜水時間を正確に計測することができるよう、誤動作による時間測定の誤り、安全を確保するために必要な機能となっています。

「Ref.5513」についていなかった機能が導入された理由として、ダイバーズウォッチの必須項目として工業規格によって定められるようになったためです。防水性能の高さやベゼルの目盛り、逆回転防止機能がついているかなどさまざまな項目が定められています。

ダイバーが潜水時に背負っている酸素ボンベ内の残量を把握するために、ボンベの残酸素量を潜水前にベゼルを分針に合わせ、そこからの時間経過を計ります。潜水中に誤ってベゼルが“時計回り”に動かないようにこのような仕組みになっています。
時計回りにベゼルが回転してしまうと、実際に経過した時間より短く誤認してしまう危険性があります。実際は20分経過しているのに、5分ベゼルが正回転してしまうことで、15分しか経っていないと認識してしまい、危険な事故になりかねないためです。

③ブレスレットについて

ブレスレットは、初期モデルからハードブレス(93150/580B)が採用されています。マイナーチェンジは見られず、フラッシュフィットはブレスレットと切り離しができる分離型となっています。

第五世代まとめ

夜光の違いやダイヤル6時位置の表記の違いで、実勢相場が変動しますが、「Ref.14060」の中で特に人気、価格ともに高いのは、トリチウム夜光が採用されている個体です。中でも夜光に変色(均一に濃く焼けている個体)が見られるものが特に高値で取引されており、コンディション次第で約150万円ほどで取引されています。(2025年6月現在)

【ロレックス】の5桁セミヴィンテージモデルは、特にケースやベゼルのコンディション、ブレスレットのヨレ具合、整合性(オリジナルパーツ)であるかどうかで価格に影響が出てきます。そのため、気になる個体があれば、販売店に詳細を問合せたうえで、実機を確認することをおすすめします。

 

第六世代 Ref.14060M〜基本スペック〜

第六世代にあたる「Ref.14060M」は、第五世代の外装デザインやスペックをそのままに、ムーブメントに変更を加え、2000年頃(P番)から登場しました。搭載ムーブメント「Cal.3130」は、テンプ受けをツインブリッジ化し、ヒゲゼンマイの変更など精度やメンテナンス性の向上などが図られました。「Ref.14060」のように夜光塗料(トリチウム、ルミノバ)のマイナーチェンジがないものの、クロノメーター化やルーレット刻印などの違いで、前期モデル、後期モデルに分かれています。

製造年:2000年(P番)〜2012年(ランダム番)
ケース:40mm
ベゼル:逆回転防止式(アルミ製インサート)
風防:サファイアクリスタル
防水:300m防水
ブレスレット:ハードブレス(93150/501B)期間:1988年〜2012年頃
ムーブメント:Cal.3130

①ダイヤルについて

「Ref.14060M」のダイヤルは大きく2つに分類されます。ダイヤル6時位置は登場から生産終了まで“SWISS MADE”になるため、前期後期の見比べはレター(モデルロゴが表記されている箇所)部分が2行表記か4行表記かで判断が可能です。

◯2行(2ライン)表記(2000-2007年頃)


前期ダイヤルは2000年頃〜2007年頃まで製造されていて、“SUBMARINER”と“1000ft = 300m”の2行(2ライン)表記で、搭載している「Cal.3130」はクロノメーター規格を通していない、“ノンクロノメーター”となっています。
※同キャリバーは2007年からクロノメーター規格に準じているため、精度や信頼性は担保されています。

◯4行(4ライン)表記(2007-2012年頃)


2007年頃から【ロレックス】が全てのモデルをクロノメーター化したことにより、
「Ref.14060M(Cal.3130)」もこのタイミングでクロノメーター認定され、ダイヤル6時側(2ライン表記)のレターに“SUPERLAITVE CHRONOMETER”と“OFFICIALLY CERTIFIED”の2行が追加され、4行(4ライン)表記へと変更されました。この4ラインが生産終了まで続いたため、「Ref.14060M」のダイヤルは2007年を境に2パターンに分かれています。

〇王冠透かし(2000年頃~)

2000年頃(生産初期)からサファイアクリスタル風防の6時位置に王冠マークの透かしが採用されるようになりました。特殊なレーザー加工によるもので、偽造防止のためサブマリーナー以外のモデルでも採用されていて、サブマリーナーでは「Ref.14060M」から採用されています。

〇ルーレット刻印(2007年頃~)


2007年頃からケース内側側面にルーレット刻印が採用されるようになりました。これは偽造品の防止や真正性を保証するために入るようになり、“クラウンマーク”や“ROLEX”、6時位置にはシリアルナンバーが刻印されています。2004年から各モデルに順次採用が始まり、「Ref.14060M」では2007年頃からの導入となっています。

②ベゼルについて

「Ref.14060」および「Ref.14060M」でベゼルに大きな変更点は見られません。逆回転防止機能がついたアルミ製インサートがそのまま採用されています。

③ブレスレットについて

ブレスレットは前モデル「Ref.14060」と変わらず、ハードブレスタイプの(93150)が採用され、フラッシュフィットのみ(501B)へと変更されました。「Ref.14060M」はフラッシュフィットのマイナーチェンジのみ行われており、ブレスレットと切り離し可能な分離型デザインは変わっていません。

第六世代まとめ

「Ref.14060M」は、夜光の変更などはないですが、前モデルからのムーブメントの変更やクロノメーター化、ルーレット刻印、ガラスの王冠透かしなど、細かいマイナーチェンジが行われています。
人気の高い年式は初期個体ではなく、G番やランダム番の高年式や最終品番で、高年式個体でも生産から10年以上経っているため、良個体や優良個体は少なく、おおむね150万円ほどで取引されてる印象です。(2025年6月現在)

まとめ

いかがでしたでしょうか。

デイト表記がないすっきりとしたデザインが人気を博しているノンデイトの『サブマリーナー』。第五、第六世代合わせて、約20年ほど製造されているため、マイナーチェンジも多く、今後が楽しみな個体などもありますので、コンディションの良い個体を見つけたらコレクションに追加してみてはいかがでしょうか?
こだわりを持って探す場合、根気強さが求められる可能性がありますが、状態や価格などしっかり吟味して納得の個体を探してみてください!
また次の記事で会いましょう!

ではまた!

監修者のプロフィール

下川裕の写真

下川 裕(しもかわ ゆう)

高級腕時計専門店 コミット銀座 シニアアドバイザー / 鑑定士歴:2014年~現在

33歳 群馬県出身

大学卒業後に某ブランド買取・販売店に就職。各種ブランド品を幅広く見ている中で、高級腕時計の虜に。
高い向上心から、専門性の高い知見を有していることでも著名な鑑定士 阿部・金子が在籍しているコミット銀座へ入社。10年以上の鑑定士キャリアを持ちながらも、時計に対する勤勉で真摯な姿勢は、多くのお客様の心を鷲掴みにし、指名して来店いただくことも多数。今後のコミット銀座を担うまさに中心人物。

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