みなさま、こんばんは!

機械式時計について技術者視点で語る本コラム。第5回となる今回は、

『腕時計の防水性について』

こちらをテーマにお話ししていきます。

精密機器である高級腕時計にとって厄介なのが「水」や「湿気」。

軽く濡れただけで壊れてしまうこともあるため、時計を楽しむためには正しい知識を身に着けることが重要です。そこで今回は腕時計の防水性について、詳しくご説明していきたいと思います。様々な種類がある防水性能について、ぜひこの機会に学んでいただければ幸いです!

防水時計の種類

腕時計の防水性について、今回は大きく5つに分けてご説明していきます。一般的にドレスウォッチは防水性が低く、スポーツウォッチは防水性が高い傾向にあります。

非防水

※1970年代のロレックス『チェリーニ』

その名の通り、防水機能が備わっていないことを表します。最近の時計でこそ非防水のモデルは少なくなりましたが、ヴィンテージ時計では多く見られ、普段使いの中でも雨や汗による湿気等にも気を付けなければなりません。

防水時計のイメージが強いロレックスでも、数十年前の『チェリーニ』コレクションは非防水となっています。

ヴィンテージ時計でも防水付きのモデルもございますが、メーカー等でしっかりとメンテナンスされていない個体は、経年によりその機能を果たせていない場合も多いため、基本的にヴィンテージ時計は「非防水」と考えておいたほうが良いでしょう。

3気圧防水(日常生活防水)

※ランゲ&ゾーネ「ランゲ1」

3気圧防水機能を持つ腕時計は、静止状態で水深30mまでの水圧に耐えることが出来ます。「日常生活防水」とも呼ばれており、価格帯を問わず様々な時計に用いられています。最低限の防水機能は持っているため、雨や手を洗った際の水しぶき程度であれば問題ありませんが、使用しながら洗い物をしたり、プールに着けて入るなど、時計を直接水につけることはできません。

また、2024年に入って【パテックフィリップ】が『ノーチラス』『アクアノート』などの代表モデルの防水性能表記を”30m(3気圧)”に統一したのも記憶に新しいですね。下記、【パテックフィリップ】のプレスリリースを引用します。

お客様がその時計を着用して行う日常的な活動(手洗い、シャワー、入浴、水泳、その他の水中活動、30mまでのダイビングを含む)について、明確に理解しやすい情報を提供します。これは実際の使用状況にほぼ一致しています」

これを読み解くと、『ノーチラス』等の防水性能が低下したわけではなく、今までわかりづらかった防水表記を実際の使用状況を踏まえて変更したようで、30mまでのダイビングに耐えられる程のかなり高い防水性能を有していると考えて間違いなさそうです。

10気圧防水(日常生活強化防水)

※グランドセイコー「SLGH005」

10気圧防水機能を持つ腕時計は、「日常生活強化防水」とも呼ばれており、水仕事はもちろんのこと、ヨット等のマリンスポーツにも対応可能です。

※【ロレックス】『ヨットマスター』「Ref.116622」

川やプールでの少々激しい水しぶきにも耐えられる程度の防水機能を備えていますが、遊泳時は高い水圧が掛かると壊れてしまう可能性があるため、外すことをお勧めします。ただ、あくまで私の体感にはなりますが、【ロレックス】の100m防水表記の時計は軽く泳ぐ程度で壊れることのないくらい、高い防水機能を備えていると思います。

また、海水につけた場合、パッキンが劣化したり、ケースが錆びたりすることもあるので使用後に水道水でしっかり洗い流すことが重要です。

空気潜水用防水

※ブランパン フィフティ ファゾムス

空気潜水用防水機能を持つ腕時計は、「第1種潜水時計」とも呼ばれ、空気ボンベを使用する100m~300m程度の潜水に対応しています。表示されている水深までの耐圧性と長時間の水中使用に耐える防水性を備えており、潜水時間・減圧時間を測定するのに必要な回転ベゼル等の装置を備えているのが特徴です。また、浅海での潜水(スキューバダイビングなど)に使用されますが、飽和潜水用として使用することはできません。

※【ロレックス】『サブマリーナー デイト』「Ref.126610LN」

空気潜水用防水を持つ腕時計は「ダイバーズウォッチ」と呼ばれますが、そのデザインから、ファッションアイテムの一つとして選ぶ方も多くなっており、現代ではスーツに合わせても違和感なく、逆にその無骨さが”こなれた”印象を作り出すため、非常に人気が高くなっています。

飽和潜水用防水

※【オメガ】『シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ』「Ref.215.30.46.21.03.001」

最も高い防水機能を持つ飽和潜水時計は、1,000m以上の深海へのダイビングにも耐えられる程の防水性能を持っており、「第2種潜水時計(飽和潜水用防水)」とも呼ばれています。また、逆回転防止ベゼルやヘリウムエスケープバルブ等のダイビングで役立つ機能を併せ持っていることも多いです。

また最近では【オメガ】『シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ』のように、6,000mもの防水性能を持ちながらも、ヘリウムエスケープバルブを搭載していないモデルも登場しており、この辺りも技術の進歩が感じられます。

※【ロレックス】『シードゥエラー ディープシー』

実際に飽和潜水を行う人が世界にどれだけいるのか?と考えると、ほとんどの方にはオーバースペックになりますが、その圧倒的な機能性から来る安心感や、分厚いケース、ヘリウムエスケープバルブなどの男心をくすぐるデザインから、選ばれる方も多いのではないでしょうか。

水入りには要注意

防水時計を故障させてしまう一番の要因はその”機能”を過信しすぎてしまうこと。

「100m防水だから時計を水洗いしてもいい」
「ダイバーズウォッチだからプールに飛び込んでも問題ない」

このように考える方も多くいらっしゃるかと思いますが、実は防水時計だからといって〇〇m潜らなければ大丈夫というということではないのです。水圧が仕様を超えると水は入ってしまいますし、リューズをきちんと閉めて使用しないと本来の防水機能は発揮されないので、注意が必要です。

水洗いしたことで時計に曇りが生じてしまった、、、なんて方もいらっしゃるかと思いますが、その原因は蛇口から出る水の勢いにあったりします。100m防水の時計であれば100mまでゆっくり潜った時に生じる水圧に耐えることができますが、蛇口から勢いよく水を出した際の水圧は、それを上回ることがあります。「水洗いしただけなのに、、、」と思っていても、知らず知らずのうちに時計の仕様を超える圧力をかけてしまっているのです。

曇りが生じるのは機械内部に水が入った証拠なので、この場合はオーバーホールが必要となります。時計を良い状態で長持ちさせるためには、「時計内部に水分を侵入させないこと」がとにかく大事です。

ねじ込み式のリューズ、バルブなどをしっかり閉める
定期的にオーバーホールを行い、パッキンなどの消耗部品を交換する
丁寧に取り扱う

このようなことを意識して取り扱うようにしてください。

まとめ

防水時計には様々な種類があり、同じ30mの防水表記でも、メーカーによって実際の防水性能には大きな違いがあることがお分かりいただけたと思います。お探しの時計が、皆様の使用目的に合う防水機能を備えているのかをしっかり確認してから購入するようにしましょう。

また時計を趣味にするのであれば、防水性能に限らず、機能に関する基礎知識を身に着けることをオススメいたします。

本記事が皆さまにとって有益な情報となり、高級腕時計に対する興味が少しでも沸いたようであれば、幸いでございます!また、ご不明点は直接ご質問いただければお答えしますので、みなさま是非ご来店、お問い合わせをお待ちしております。

次回もお楽しみに!ではまた!

機械式時計徹底解剖