みなさま、こんばんは!

 

機械式時計について技術者視点で語る本コラム。第16回となる今回は、

 

『ヴィンテージウォッチが不安な方へ』

 

こちらをテーマにお話ししていきます。

 

 

興味はあっても、取扱いが難しそうで手を出しづらいと思われがちなヴィンテージウォッチ。

モデルの違いや価格の差、扱う上での注意点など、分からないことが多くていまいち一歩を踏み出せない、という方も多いのではないでしょうか。

しかし、ヴィンテージウォッチを何本か所有して実際に使用している私に言わせると、恐れるに足らず。いくつかのポイントさえ抑えておけば、もっと身近に感じられるようになることに違いありません。

そして理解を深めると、ヴィンテージウォッチの魅力に、よりハマっていくことと思います。

 

 

ヴィンテージウォッチとは?

 

以前は"アンティークウォッチ"と呼ばれることが多かった古い腕時計。一般的に"アンティーク"という言葉は、製造から100年以上が経過したモノを指しますが、実は腕時計の歴史は100年ちょっとしかありません。そのため、腕時計には該当するモノがほとんど無く、古いモノとの区別をつけるために、便宜上1970年代以前に作られた時計を"アンティーク"と呼ぶようになっています。

 

  

最近では、製造から30年以上経った腕時計を"ヴィンテージ"と呼ぶ事が多くなってきており、特に1980年代~1990年代に製造された、現行とヴィンテージの間に作られた個体は"セミヴィンテージ"という呼び方が定着してきています。

 

 

ヴィンテージウォッチの魅力

①唯一無二の味わい

同じモデルでも、その時計が歩んできた道のりによって個体毎に表情が変わり、それが一点ものとしての魅力に変わるのが"ヴィンテージ"の最大の魅力。

例えば50年前の時計だっとしても、ずっと棚にしまわれて全く使用されなかった個体は、貴重なデッドストック(未使用品)として扱われます。これは現行品では存在しないデザインが新品同様の美しさを楽しめるという価値が付きます。

  

 

一方で、数十年前のサブマリーナーなどは実用品として使われてきたモノが多いためか、ベゼルの傷や褪色具合が独特な雰囲気を備えた個体が存在します。こういったカッコよさを持ったヴィンテージウォッチも、非常に魅力的なポイントの一つでもあります。

  

 

俗に言う"味"と呼ばれるモノが備わった唯一無二の存在で、古着が好きな方などはあえてこういう個体を選んでいく傾向があります。

  

②価格と価値の幅広さ

ヴィンテージウォッチは高い、というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。

確かに雑誌などで特集されるのはプレミア品ばかりですが、現行品の高額化、プレミア化を考慮すると、基本的には中古品ということもあり、比較的リーズナブルに購入できるのです。

  

 

ロレックスを例に挙げると、人気が集中するデイトナやエクスプローラーのようにプレミア価格で取引されるモデルも存在しますが、デイトジャストやエアキングなどの一般的なモデルは、現行品よりも安い値段で買えるものの方が圧倒的に多いです。

例えば現行デイトジャストを購入しようと思うと、最低100万円は必要になってきますよね。しかしヴィンテージと呼ばれる年代なら、デイトジャストが50万円台や60万円台で購入できます。

 

 

私が初めて購入したロレックスは、『エアキング』「Ref.5500」でした。二十数年前の価格は、約10万円。決して高額ではないですが、しっかりとロレックスの良さ、ヴィンテージウォッチの良さを感じさせてくれた、思い出に残る一本です。

もちろんヴィンテージの時代と現代では、仕様や性能が大きく異なるので単純に比較はできませんが、ここまでの話を聞くと、限られた予算で高級時計を購入する時にヴィンテージウォッチが選択肢の一つになるのではないでしょうか。

 

 

取り扱い上の注意

そうは言っても「ヴィンテージウォッチってどう扱ったらいいの?」という声をよく耳にします。

実際にヴィンテージウォッチは取り扱いに注意が必要な面ももちろんあります。ただ、皆様が心配しているほど神経質になる必要はありませんし、このわずかな"注意"によってヴィンテージを日常で楽しむことができるため、知っておいて損は無いかと思います。

本項では、ヴィンテージウォッチの取り扱いにおける注意点をお伝えしていきましょう。

 

①水に注意

 

まず一番気を付けるべきは、水に濡らさないということ。

これはダイバーズウォッチであっても言えることです。そもそも現行品であっても、防水に関してはメーカーで1~2年に1度チェックすることを推奨される場合があります。ヴィンテージウォッチも、直近でメーカーにてメンテナンスを行い、しっかり防水検査をパスした個体でなければ、既に当時の防水機能は保っていないと考える方が無難です。

要は水に濡らさなければいいので、日常生活においては「雨」と「手洗い」に気をつけることで、ほぼ水入りに関しては防げるはずです。また、汗をたくさんかくような気候でも、使用は避けた方が良いかもしれません。

 

②衝撃に注意

腕時計は精密機器ですので、現行品でも衝撃には強くありません。ぶつけたり落としたりはもちろんのこと、野球のバッティング・ゴルフのスイングなど、手首に強い衝撃が加わるような行為も避けましょう。

  

 

また、オートバイなども意外と手首に衝撃が加わるので避けた方が無難です。

ちなみに大きな衝撃を加えてしまった場合、外装に変化がなくとも、内部機構に重大なダメージが及んでいる可能性があります。軽く振ってみて異音がしないか、精度が大きく狂っていないかを確認しましょう(精度は1週間の平均日差で確認するのが良いですね)。

 

③磁気に注意

現在は素材が進化したことにより、磁気に強いモデルも出てきましたが、特殊なモデルを除き、時計は強い磁気に近づけないようにしましょう。ヒゲゼンマイという精度を司る部品に影響を及ぼすからです。ヴィンテージは特に、磁気に対してデリケートな性質がありますのでご注意ください。

  

 

日常的に気を付けるべきは、スマートフォン・イヤホン・電子機器・バッグのマグネットなど、強い磁気を発するものと一緒に時計を保管しないことで、磁気発生源から時計を5cm以上離すことが推奨されています。

急に時計の精度が狂った場合、結構な確率で磁気帯びしてることがあります。もっとも、万が一磁気が入ってしまったとしても「磁気抜き」という作業ができますので、まずは購入店に相談しましょう。

 

④使用後のお手入れを忘れない  

 

ヴィンテージ・現行品関係なく推奨ですが、使用後のお手入れを欠かさず行うようにしてください。

特別なことをする必要はありません。柔らかいクロスのような布で、使用時に付着した汗や皮脂をふき取りましょう。また、定期的に先の柔らかい乾いた歯ブラシなどで隙間に入ったごみを掻き出してあげることもお勧めです。

皮脂や汚れは、サビの原因となり、パーツの劣化・破損にも繋がることとなります。時計を清潔に保つことは着用者の肌にも良いので、使用後は簡単にお手入れしておきましょう。なお、オーバーホールの際に、一緒に外装洗浄を依頼することもお勧めです。ベゼル内部やプッシュボタンの隙間等、普段はお手入れできない箇所も綺麗にしてもらえます。

 

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。 

なんとなく大変そうで、ヴィンテージウォッチ購入に踏み切れない方も多いと思いますが、注意すべき点は現行モデルと大差ありません。

気負わず、まずは比較的安価なモノから始めてみるのも面白いと思います。是非ヴィンテージ沼に一緒にハマりましょう。(笑)

本記事が皆さまにとって有益な情報となり、高級腕時計に対する興味が少しでも沸いたようであれば幸いでございます!また、ご不明点は直接ご質問いただければしっかりとお答えさせていただきますので、みなさま是非ご来店、お問い合わせをお待ちしております。

次回もお楽しみに!ではまた!

 

機械式時計徹底解剖