映画やテレビなどで俳優が着用した時計にフォーカスする「Actor’s Watch」。
第72弾の今回は、「スティーブン・キング原作映画&ドラマの腕時計」をお送りします。
*出典元:https://www.studiobinder.com/
1974年に『キャリー』でデビューして以来、数々のベストセラーを世に送り出してきた作家、スティーブン・キング。デビュー作を映画化した『キャリー』(1976)をはじめ、『シャイニング』(1980)、『スタンド・バイ・ミー』(1986)、『ショーシャンクの空に』(1994)、『ミスト』(2007)、『IT/イット』(2017)など、映像化され大ヒットを記録した作品も数多く、「ホラーの帝王」という異名どおりの創作を続けています。
今回の「Actor’s Watch」は、そんなスティーブン・キングの小説を原作とする映画やドラマに登場した腕時計に注目して参りましょう。
シークレットウィンドウ
SECRET WINDOW(2004)
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湖のほとりにある別荘で新作を執筆中のベストセラー作家、モート・レイニー(ジョニー・デップ)。彼は妻との離婚調停中で執筆も滞り、スランプに陥っていた。そんなある日、彼の元にジョン・シューターと名乗る男(ジョン・タトゥーロ)が現れ、「お前は私の小説を盗作した」と言いがかりをつけられる。その小説は『シークレット・ウィンドウ』。窓から見える庭に、愛する妻を殺し、埋める夫の話だった。シューターが現れて以降、モートの身の回りでは不穏な事件が巻き起こっていく。
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この映画でジョニー・デップ演じる小説家、モート・レイニーが着用しているのは、タグホイヤー 6000(Ref.WH5111)らしき腕時計。1992年頃に登場した、当時のタグホイヤーらしいアバンギャルドな一本です。一見するとクォーツっぽいデザインですが、クォーツ式・機械式の両方がラインアップされていたモデルです。
とは言うものの、50年代のアーネルのメガネフレームや、ルーズなニットを身に着けた「知的だけど少しだらしのない」作家の腕に、タグホイヤーのスポーツウォッチはちょっと場違いに思えます。パテックフィリップ カラトラバのような、シンプルな革ベルトの腕時計を選んで欲しいと思ったのは、私だけではないでしょう。
アンダー・ザ・ドーム
UNDER THE DOME(2013-2015)
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メイン州のチェスターズ・ミルは寂れた田舎町。中古車ディーラーを営むビッグ・ジム(ディーン・ノリス)は、街の財政を支えるという名目で、警察署長や教会と結託し、麻薬を密造していた。街の外で大きなイベントがあり、警察や町長が街を出払っていたある日、チェスターズ・ミルは正体不明の透明な「ドーム」に覆われ、外界から完全に遮断されてしまう。町長も警察もおらず、軍隊も侵入できない「ドーム」の中で、街の人々は心の闇を暴かれていく。
『アンダー・ザ・ドーム』は、スティーブン・キングが得意とする「日常から無理やり切り離された空間で起こる悲劇」を描いた人気テレビシリーズ。極限状態の中で明らかになっていく登場人物たちの「秘密」がキーとなるSFサバイバルホラーです。
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このドラマで、謎のドームに覆われ、警察も有力者も不在となった街のトップに上り詰めた中古車ディーラー(裏の顔は麻薬密造組織)を営むビッグ・ジム(ディーン・ノリス)が着用しているのは、ティソ クチュリエ クロノグラフ(Ref.T035.617.11.051.00)。
非日常の狭い世界で、懸命に権力にしがみつこうともがく小悪党のビッグ・ジムは、非常に「人間らしい」キャラクターで、悪人ながら視聴者が思わず感情移入して観てしまう「裏の主人公」と言えるでしょう。大ぶりで存在感がありながらもリーズナブルなティソの腕時計が、SF的なフィクションに現実感を与えているように思えます。
IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり
IT CHAPTER TWO(2019)
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小さな田舎町、デリーで起きた連続児童失踪事件から27年後。恐怖に震える子供を食べて何十億年も生き続けていると言われる、ピエロ姿の魔物「ペニーワイズ」(ビル・スカルスガルド)が復活の時を迎える。
かつてペニーワイズとの戦いを生き延び、「27年後に蘇るペニーワイズを倒す」と誓い合った「ルーザーズ・クラブ」の子供たち。時が経ち、街を出た彼らだが、街に残った「ルーザーズ・クラブ」のひとり、マイク(イザイア・ムスタファ)の「ペニーワイズが復活した」という連絡で再びデリーに集う。子供の頃、ペニーワイズに幼い弟を攫われたビル(ジェイムズ・マカヴォイ)を始めとするルーザーズ・クラブの面々は、デリーの街でペニーワイズを倒すための情報を集め始める。
*出典元:https://www.rolexforums.com/
ペニーワイズとの戦い生き延びた子供たちが27年の時を経て再会し、ペニーワイズを倒すための戦いを繰り広げる『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり』。この映画では、ペニーワイズに弟を攫われ、その後悔に囚われ続けるビル(ジェイムズ・マカヴォイ)が、ロレックス デイトジャスト(Ref.116234ではないかと思われる)を着用しています。
子供時代の吃音症を克服し、作家として成功した「大人になったビル」。シンプルなデイトジャストが選ばれたのは、ロレックスが「大人」の象徴たる腕時計だからでしょう。
スティーブン・キング愛用の腕時計
デビュー以来、数々のベストセラー小説を生み出し、多くの作品がハリウッドで映像化されているスティーブン・キング。その推定年収は15億円とも20億円とも言われております。そんな世界有数の富裕層でもある「ホラーの帝王」、スティーブン・キングが身に着けている腕時計は、
*出典元:https://www.watchuseek.com/
タイメックス イージーリーダー(Ref.T2N369)と思われる腕時計。シンプルで視認性が高く、1万円以下で買えるリーズナブルな腕時計です。庶民とはかけ離れた大金を稼ぐ彼の腕元には安すぎるように思えますが、ブランド品などに興味を持たず、庶民的な感覚を持ち続けているからこそ、多くの人が共感し感情移入できる「日常に潜む恐怖」を描けるということなのかもしれません。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
スティーブン・キング原作映画においては、どちらかといえば庶民的でリーズナブルな腕時計が選ばれているように思えます。『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり』ではデイトジャストが着けられておりますが、舞台となる2015年頃であればロレックスのドレスウォッチは、まだそれほど高額ではなかった為、「庶民が買う高級腕時計」の範囲に収まっていたと言っていいでしょう。
*出典元:https://halloween-year-round.com/
スティーブン・キングの小説は、商品名やメーカー名などの固有名詞を多用することで「日常性のリアリティ」を高め、それによって読者を没入させることで知られています。そこに高級腕時計のブランド名やモデル名がズラッと並べば、現実味が薄れることにもなりかねません。誰もが持っている大衆的な腕時計が選ばれるのも、仕方ないことでしょう。
高級腕時計ファンには物足りないかもしれませんが、これはこれで「フィクションにおける正しい腕時計の選び方」のひとつと言えるのかもしれません。
ではまた!