映画やテレビなどで俳優が着用した時計にフォーカスする「Actor’s Watch」。
第65弾の今回は、「ジョシュ・ブローリンの腕時計」をお送りします。
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ジョシュ・ブローリンという名前に聞き覚えはなくとも、アドベンチャー映画の名作『グーニーズ』(1985)で主人公の兄役(画像の赤いバンダナ鉢巻き)としてデビューし、近年ではMCU『アベンジャーズ』シリーズの強敵「サノス」を演じている俳優と言えば、映画に詳しくない方でも見覚えがあるのではないでしょうか。
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子役でキャリアをスタートすると、なかなか大成しない俳優が多い印象のハリウッド。セックス、ドラッグ、アルコールなどの誘惑も多いであろう業界で、道を踏み外すことなく40年近く映画界の一線で活躍し続けているというのは驚異的。今回はそんな鉄の自制心を持つジョシュ・ブローリンの腕時計に注目して参りたいと思います。
- ◆ ノーカントリー
- ◆ ヘイル、シーザー!
- ◆ ウォール・ストリート
- ◆ まとめ
ノーカントリー
NO COUNTRY FOR OLD MEN(2007)
テキサス州の荒野でハンティング中のベトナム帰還兵モス(ジョシュ・ブローリン)は、複数の死体が転がる凄惨な殺人現場に遭遇する。麻薬取引のトラブルでもあったのだろうか?現場には麻薬を積んだトラックと、大金の詰まったブリーフケースが残されていた。危険と思いながらブリーフケースを自宅に持ち帰ったモスだが、中には発信機が隠されており、金を盗んだのが彼であることをギャングに知られてしまう。やがて彼の背後に、大金の捜索と回収を請け負った殺し屋、アントン・シガー(ハビエル・バルデム)の影が迫っていく。
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『ミラーズクロッシング』(1990)や『ファーゴ』(1996)といった単館系カルト作の監督として知られるコーエン兄弟。彼らの製作による『ノーカントリー』は、2007年の第80回アカデミー賞で作品賞、監督賞、助演男優賞、脚色賞の4部門の受賞に輝く「情が失われていく時代」を描いたバイオレンス映画の傑作です。一見するとタフで好戦的に見える「古き良きカウボーイ」風のモスは、ただただ逃げるだけ。何を考えているか掴みどころがない「現代人」たる殺し屋シガーが、屠殺用の圧縮空気銃で関わる者を次々と殺戮しながらモスを追い詰めていくことで、「感情を失った現代に追いやられる、情に溢れた古き良きアメリカ」の対比を描き切ります。
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この作品でジョシュ・ブローリンが身に着けているのは、タイメックス キャンパーウォッチ(Ref.T41711)。1854年にアメリカで創業したタイメックスは、1860年~1890年頃の、いわゆる「西部開拓時代」のアメリカを知る、長い歴史を持った実用時計メーカー。古き良きアメリカを体現するモスのキャラクターを象徴させるに相応しい腕時計といってよいのではないでしょうか。
ヘイル、シーザー!
HAIL CEASAR!(2016)
1950年代のハリウッド。テレビの台頭に危機感を抱いた大手映画スタジオ「キャピタル・ピクチャーズ」は、社運を賭けた超大作『ヘイル、シーザー!キリスト物語』の製作に乗り出す。ところがその撮影中に、主演を務める世界的スター俳優、ウィットロック(ジョージ・クルーニー)の誘拐事件が発生!撮影現場が大混乱に陥る中、事件への対応を任せられたのは、芸能界のどんなトラブルも解決してきた私立探偵のエディ(ジョシュ・ブローリン)だった。
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昼夜を問わず巻き起こる俳優や芸能人たちの「酒、金、麻薬、女」絡みのトラブル。本作はそういったゴシップの数々を握り潰してきたと言われる、実在の「ハリウッドの何でも屋」、エディ・マニックスをモデルにしたミステリーコメディです。ギャングや裏社会との強いコネクションもあったとも言われ、その手腕から最終的には映画会社GMGの副社長にまで上り詰めたマニックス。華やかなだけではないハリウッドの裏側まで知り尽くしていた彼は、まさに「アメリカショービズ界の裏歴史」そのものと言っていいのかもしれません。
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本作でジョシュ・ブローリンが着けているのは、ウォルサム アールデコウォッチ。滑らかな曲線の自然美を基本とするアールヌーヴォー様式に替わり、人工的な直線と幾何学模様の美を追求する美術様式として1920年頃から台頭してきた「アールデコ」のデザインを取り入れたトノーウォッチです。
国としての歴史が浅いアメリカにとって、「ハリウッド映画」は民族の歴史を象徴する伝統文化。そのハリウッド映画の表も裏も知り尽くした男の腕に、アメリカ最古の腕時計ブランドとして知られているウォルサムが着けられているというのは、非常に象徴的なチョイスのように思えます。
ウォール・ストリート
WALL STREET:MONEY NEVER SLEEPS(2010)
インサイダー取引と証券詐欺罪で8年の懲役刑を受けた大物投資家ゴードン・ゲッコー(マイケル・ダグラス)。刑期を終えて出所したゴードンは、疎遠になっていた娘、ウィニーとの関係修復を図ろうとするが、ウィニーは犯罪者となった父を許していなかった。そんな中、ゲッコーはウィニーの恋人であり、ウォール街の若きトレーダーでもあるジェイコブ(シャイア・ラブーフ)と出会う。
しかしある日、ジェイコブが勤める証券会社「KZI」が突然の株価急落で経営破綻し、彼は仕事と財産を失ってしまう。破綻の原因が投資銀行の経営者ブレトン(ジョシュ・ブローリン)の陰謀によるものと知ったジェイコブは、ブレトンへの復讐を計画する。
*出典元:https://www.nytimes.com/
マイケル・ダグラスがアカデミー主演男優賞に輝いた『ウォール街』(1987年)。オリバー・ストーン監督とマイケル・ダグラスが再びタッグを組んだ35年ぶりの続編となる本作で描かれるのは、ネット時代の若きトレーダーたちがしのぎを削る現代のウォール街。出所して金融経済界への逆襲を狙うゴードンと、ブレトンへの復讐のためゴードンに接近するジェイコブ。新旧両世代の投資家を対比させることで、時代の変化や若者の成長が描き出され、ウォール街きっての守銭奴、ゴードンの心境にも変化が現れます。
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本作でジョシュ・ブローリンの腕に着けられているのは、ヴァシュロンコンスタンタン ヒストリーク アメリカン1921(Ref.82035/000R-9359)。フォード社が自動車の本格的な大量生産を開始し、大衆が自家用車の運転を楽しむ時代が到来した1920年代、当時の自動車愛好家向けとして作られたドライバーズウォッチの復刻モデルです。アメリカ自動車産業の「ビッグスリー」ことフォード、クライスラー、GMの浮き沈みはアメリカ経済の歴史の象徴。ウォール街の新旧時代の対比を映し出すこの映画に「高級ブランドのドライバーズウォッチ」が小道具として選ばれたのは、決して偶然ではないでしょう。
まとめ
今回、腕時計の特定がかなわずご紹介できなかった『ブッシュ』(2008)という作品もあるのですが、この映画でジョシュ・ブローリンは第43代アメリカ合衆国大統領ジョージ・W・ブッシュを演じています。ジョージ・W・ブッシュ大統領はタイメックスの腕時計を愛用していたと言われておりますので、彼はこの映画でも「アメリカを象徴する腕時計を着けた、アメリカの歴史的人物」を演じていることになります。
*出典元:https://www.snakkle.com/
こう並べてみると、ジョシュ・ブローリンは多くの映画の中でアメリカの歴史を象徴する人物を演じ、それにふさわしい歴史を持つ腕時計を着けていることがわかります。このような史実や現実と密接に関わる役どころは、演技に「強い説得力」が要求されますが、そういった役どころの経験豊富さは、ジョシュ・ブローリンが多くの映画監督から絶大な信頼を受けていることの証と言えるでしょう。そしてまた、それぞれの役にふさわしい腕時計を着けることで、演技により一層の説得力がもたらされていることも間違いないですね。
ジョシュ・ブローリンが次に見せてくれるのはどのような歴史なのか。その歴史に相応しい腕時計とは何なのか。次回作も期待して待ちたいと思います。
ではまた!