皆さま、こんにちは。

今回は、スイスの高級時計ブランド【H.モーザー】についてお話ししていきたいと思います。スイスの時計業界に一石を投じる程の「ものづくり」へのこだわりがある【H.モーザー】は、近年時計好きのコレクターから注目を浴びているブランドです。

そんな魅力あふれる【H.モーザー】について、その歴史と5つのコレクションラインを二回に分けてご紹介していきますので、是非とも最後までお楽しみください。

第一回目となる今回は、【H.モーザー】の歴史と『SPECIALS』コレクションと『ユニークピース』をご案内いたします。

【H.モーザー】とは

1805年、ライン川最大の滝「ラインフォール」で知られるスイスのシャフハウゼンに生まれたヨハン・ハインリッヒ・モーザー(以下:H.モーザー)。シャフハウゼンは、スイスのシャフハウゼン州の州都であり、ドイツとの国境近くにあります。時計職人の家に生まれたH.モーザーは、家業を継ぎ時計製造の仕事を学びました。

*【写真】ヨハン・ハインリッヒ・モーザー

1827年、彼は22歳という若い年齢にして、時計工具一式を持ち、故郷を遠く離れたロシアの首都サンクトペテルブルクに移り住みます。翌1828 年にH.モーザー社を設立すると、ネフスキー通りに時計店を開業。1829年にはスイスのル・ロックルに時計工房を建てるに至ります。

ロシアのサンクトペテルブルクに渡ったあとは、ロシア皇帝やウラジーミル・レーニンにも愛される時計職人となったというのだから、その技術力は秀でていたことに疑いはありません。ロシア国立歴史博物館には、ウラジーミル・レーニンが所有していたH.モーザーの懐中時計がいまなお所蔵されているようです。

1848年にロシア情勢の不安もあってか、ロシアの会社の経営をパートナーに委ね、家族とともにシャフハウゼンに戻り、実業家として働くこととなります。彼はシャフハウゼンの工業化に貢献したことでも知られており、スイス初となった機械式水力タービンを利用した発電所の建設は最も有名な話のひとつです。

1868年には、アメリカ・ボストン生まれの時計職人フロレンタイン・アリオスト・ジョーンズ(【IWC】創業者)に工場と電力を貸与し、【IWC】の創業にも協力しています。H.モーザーによって建設された、ライン川の水流を利用した発電所がシャフハウゼンにあり、それを貸与したことが【IWC】の始まりとはロマンがありますよね。【IWC】のロゴにある「SCHAFFHAUSEN」はここから来ています。

*【写真】IWC創業者 フロレンタイン・アリオスト・ジョーンズ

1874年にH.モーザーが死去した後もロシアの事業は順調だったようですが、1917年に起きたロシア革命によって会社が公的徴用(財産没収)されてしまいます。その後もスイスのル・ロックルで操業を続けていたものの、クォーツショックによって1979年に「Dixi Mechanique Group」に吸収される形で、一度その歴史の幕を閉じることとなります。

20年以上の時を経た2002年、ゆかりのある【IWC】で技術部長を歴任したユルゲン・ランゲが、H.モーザーの曾孫にあたるロジャー・ニコラス・バルジガーとともに「モーザー シャフハウゼン AG」を設立。約4年の開発期間を経て2006年に新作を発表したところから【H.モーザー】は復活を果たすこととなります。

2012年には、スイス有数の時計師一族メイラン家、元オーデマ・ピゲCEOのジョージ・ヘンリー・メイランが率いる「MELBホールディング」が経営権を取得。

*【写真】左から二人目がジョージ・ヘンリー・メイラン

メイラン一族は、スイスのヴァレ・ド・ジュウに長く続く名門時計一家で、「MELBホールディングス」は、このメイラン家が2006年に設立したファミリー企業です。

2013年に「Moser Watch Holding」へと改組し、ジョージ・ヘンリー・メイランの息子、エドゥアルド・メイランがCEOに就任することとなります。

*【写真】現CEO エドゥアルド・メイラン

「1990年代から父が先祖が作ったC.H.メイランの時計を集めはじめました。それを商社時代に目の当たりにしていましたから、当初はC.H.メイランのブランドを改めて立ち上げようと考えていました。その際、メイランの競合ブランドを調査し、希望を持ちながら新しいブランドを立ち上げようと考えていましたが、そうこうしているうちに父が経営に携わっていた大手メゾンを退職し、自由に動けるようになったので一緒にブランド創設に向けて動きはじめました。ただ、実際にどうすればいいか考えたとき、ゼロから立ち上げるより、既にあるブランドを手に入れ、それを成長させていくほうがスムーズではないかと考えたのです。そこで興味を持ったのがH.モーザーでした。H.モーザーにはすでに豊富な歴史と高度な技術を持つブランドとして注目していたので、これを買収することにしたのです。」
と現CEOのエドゥアルド・メイランは語っています。

そんな【H.モーザー】は、スイスの時計業界に一石を投じるような時計を数多く発表し、時計に関する新たな「Swiss Made」の法令が2017年1月1日に施行されたのを機に、ダイヤルに「Swiss Made」の表示を無くします。これはスイス製の部品が60%以上組み込まれていれば表記を許される「Swiss Made」の基準の緩さへの”抗議”の意味が込められているそうです。

『SPECIALS』コレクション
「Swiss Alp Watch」2016年

アップルウォッチ風のデザイン「Swiss Alp Watch」は、『SPECIALS』コレクションの一本で、スマートウォッチへのアンチテーゼを提起しています。2016年以降、様々なバリエーションの「スイス アルプ ウォッチ」を発表し、人気を博していましたが、2021年に最終モデル「Swiss Alp Watch Final Upgrade」を50本限定で発表し、同コレクションの幕は閉じます。

ケースはブラックDLCのステンレス、ダイヤルはVantablack(あらゆる物質の中で最も黒いとされ、光を99.965%吸収する物質)でコーティングされています。また、スモールセコンドが進捗インジケータ(スピニングピンホイール)のデザインになっています。

*【写真】搭載手巻きキャリバー「HMC 324」

【出典】H.モーザー

『ユニークピース』
「Swiss Mad Watch」2017年

スイスチーズを練りこんだベゼル(ポリマー製)を使った「100%スイス製」の「Swiss Mad Watch」。

使用されたチーズはジュウ渓谷で生産された「ヴァシュラン・モン・ドール」。限定一本で発売されたこちらは、Christie’sに出品され、125,000(buyer’s premium込み)フランにて落札されました。その収益はスイス時計文化基金に寄付されています。ストラップもスイス製の牛革が使用され「Swiss Made」への皮肉とエスプリの効いた作品です。

ちなみに、ベゼルに18KWG(ホワイトゴールド)を使用した「Venturer Swiss Mad」も50本限定で製造されており、ともにレッドのフュメダイヤルに4つのホワイトインデックスを備え、スイスの国旗を連想させるデザインとなっています。

【出典】Christie’s

『ユニークピース』
「Swiss Icons Watch」2018年

「Swiss Icons Watch」を告知。

こちらの時計には、【オーデマ・ピゲ】『ロイヤルオーク』のオクタゴンベゼル、【ロレックス】『GMTマスター』のベゼルデザイン、【パテックフィリップ】『ノーチラス』のダイヤルパターンとブレスレット、【ブレゲ】の針、【IWC】風のロゴと「SCHAFFHAUSEN」の地名、【ジラール・ペルゴ】のトゥールビヨン・ブリッジ(フライングトゥールビヨン機構で、ブリッジは装飾)、【ウブロ】のケースとラグとネジ、【カルティエ】のカボション・リューズ、【パネライ】のインデックス(サンドイッチ)とリューズガードが採用されていました。

その収益をスイス時計文化振興に充てるため、限定一本で販売される予定でしたが、リリース前に各ブランドに打診したところ、一部のブランドから賛同を得られなかったため、販売されることはなかった、幻のモデルとなっております。

H.モーザーの友人ならびに関係者の皆様へ

「誰もが#MakeSwissMadeGreatAgain (Swiss Madeを再び偉大にしよう)を成し遂げることはたやすいことではありません。私たちの目的はこの美しいウォッチメイキングの世界に存在した偉大な先駆者達に敬意を表し、ある特定の慣習に携わる人々に対する警告でしたが、残念ながら、私たちのメッセージは誤解されてしまいました。したがってスイス アイコン ウォッチは発表されず、若い時計師の教育と人材育成を目指した基金に寄付されることもありません。」

と、エドゥアルド・メイランが残しています。

実はトランプ前大統領のスローガン「Make America Great Again」をもじった表現となっており、時計業界を時事問題に絡めて風刺していますね。

『ユニークピース』
「Moser Nature Watch」2019年

ケースが植物でできた「Moser Nature Watch」。様々な植物を用いた試作の結果、ベゼルには多肉植物、苔類、ミニエケベリア、クレソン、ムラサキツユクサなどが植えられたそうです。ダイヤルは、アルプスの天然鉱石と地衣類(コケ)が使用され、ストラップには芝生が植えられており、これら全ての植物・鉱物は、スイスのアルプスで採取され製作されました。

こちらの作品には環境保全と持続可能な発展への願いが込められており、以下の3項目を宣言しています。

①2019年に「Responsible Jewelery Council(責任あるジュエリー協議会)」の認定条件を満たす
②可能な限りフェアトレード素材を使用する
③購入した炭素クレジットで剰余排出量をオフセットし時計製造における二酸化炭素排出量ゼロを保証する

そして、スローガンには「#MakeSwissMadeGreen(Again)」が使用され、前年の「Swiss Icons Watch」発売断念の際にもトランプ前大統領のスローガンをもじっていましたが、「Moser Nature Watch」でも上手くシンボルを表現したフレーズにしているのです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今、ひそかに人気が出てきている【H.モーザー】についてご紹介してみました。

当店では、まだまだ取り扱いが少ないブランドではございますが、今後是非注目していきたいブランドです。【H.モーザー】の名を初めて聞いた!という方もいらっしゃったかと思いますが、この記事を読んで頂いたことで、少しでも興味を持っていただけますと幸いです。気になった方は、是非とも公式サイトにてご確認してみてください。

次回は残り4つのコレクション、「STREAMLINER」、「PIONEER」、「ENDEAVOUR」、「HERITAGE」をご紹介します。お楽しみに!

ではまた!

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