本日は【2023年度版】機械式腕時計 “【パテックフィリップ】『アドバンストリサーチ』とは”をお送りいたします。

『アドバンストリサーチ』とは、先進的な調査と研究を行うことを目的とし、革新的な素材や技術を取り入れたモデルを、その目的を理解した顧客に使用してもらうことで、レギュラーモデルにフィードバックをしていく、といった取り組みそのもののことを指します。

レギュラーモデルにいきなり技術革新を導入するのではなく、信頼性や耐久性を含めて不具合がないかの検証を行うことで、より優れた腕時計を生み出そうとする探求心と情熱こそが、【パテックフィリップ】が雲上の中の雲上と呼ばれる所以なのでしょう。また、『アドバンストリサーチ』に限り、通常2年間のメーカー保証期間が5年間に設定されていることからも【パテックフィリップ】が真摯に時計と向き合っていることを窺い知ることができますね。

今回は、そんな【パテックフィリップ】『アドバンストリサーチ』の革新的な技術に迫りながら、現在までに発表されている”“のモデルをご紹介していきたいと思います!是非とも最後までお楽しみください。

①2005年 『アニュアルカレンダー』「Ref.5250G」

*出典元:Patek Philippe

『アドバンストリサーチ』第一弾モデルは、初のシリコン製ガンギ車(Silinvar®)を備えた2005年発表、100本限定の『アニュアルカレンダー』「Ref.5250G」。

大枠のデザインは同年に発表された『アニュアルカレンダー』「Ref.5146」と同様ですが、文字盤レイアウトは1999年発表の「Ref.5036」のローマンインデックスから、12・3・9にアラビア数字×バーインデックスの組み合わせに変更されています。18KWG(ホワイトゴールド)製ケースは37mmから39mmに大型化され、シルバーダイヤルに年次カレンダー表示とムーンフェイズがコンパクトにまとめられている、洗練された美しい時計となっています。

技術的な特徴:シリコン製ガンギ車(Silinvar®)を採用

*出典元:Patek Philippe

機械式時計の心臓部とも言われる脱進機は(テンプ、アンクル、ガンギ車から構成される)、時計の精度を決定づけるモノであり、非常に重要な役割を担っております。

通常であれば金属製が使用されるガンギ車ですが、こちらのモデルでは”シリコン製”を採用しており、そのメリットは硬度が高く、耐摩耗性に優れているため、アンクル・ガンギ車に注油をしなくて済む点、帯磁性がないため磁気の影響を受けない点、オーバーホールまでの期間が長くなる点などが挙げられます。アンクルとガンギ車との接触面は油が飛散しやすいため、ほとんど無注油で済むのは部品への負担を軽減するだけでなく、素材を軽量化することによりテンプヘの”回転させる力”の伝達効率を改善することにも繋がっています。

②2006年 『アニュアルカレンダー』「Ref.5350R」

*出典元:Patek Philippe

続いて、『アドバンストリサーチ』第二弾モデルは、シリコン製ガンギ車(Silinvar®)に加えシリコン製髭ゼンマイ(Spiromax®)を採用した、2006年発表、300本限定の『アニュアルカレンダー』「Ref.5350R」。

ベースムーブメントは「Cal.315」から「Cal.324」に変更され、「Ref.5146」を踏襲した文字盤レイアウト、18KRG(ローズゴールド)×シルバーダイヤルの組み合わせが上品で大人の印象を与えるデザインとなっています。

技術的な特徴:シリコン製髭ゼンマイ(Spiromax®)を採用

*出典元:Patek Philippe

髭ゼンマイは、テンプを構成する部品の一つであり、回転運動で伸縮を繰り返すことにより、他の歯車や部品に振動を与え、高い精度を実現するための重要な部品です。

シリコン製の髭ゼンマイを採用することのメリットは、耐磁性に優れているだけでなく、金属より軽いため変形しにくく、衝撃や腐食に対しても強い耐性を持っていることです。製作に高度な加工技術が求められる髭ゼンマイですが、実はスウォッチグループ傘下の【ニヴァロックス・ファー社】をはじめとする数社からの供給に頼っていることがほとんど。そんな中、【パテックフィリップ】では髭ゼンマイをシリコン素材で開発・製作することに成功したのです。

➂2008年 『アニュアルカレンダー』「Ref.5450P」

*出典元:Patek Philippe

『アドバンストリサーチ』第三弾モデルは、シリコン製ガンギ車(Silinvar®)、シリコン製髭ゼンマイ(Spiromax®)に加え、シリコン製のアンクルを採用した、2008年発表、300本限定の『アニュアルカレンダー』「Ref.5450P」。

文字盤のレイアウトは「Cal.5146」を継承しながら、PT(プラチナ)製ケース×人気で注目度の高いサーモンダイヤルという、ヴィンテージ感漂う雰囲気のデザインとなっています。

技術的な特徴:シリコン製アンクルを採用(脱進機全てがシリコン製に)

*出典元:Patek Philippe

アンクルとは、脱進機を構成する部品のひとつで、巻き上げられたゼンマイのエネルギーを調整しながら補完する役割を持ちます。

こちらのモデルから脱進機全てがシリコン化(Pulsomax®脱進機と命名)され、エネルギー伝達効率が約15%向上しました。ここまでご紹介した3本は、『アドバンストリサーチ』三部作とも呼ばれ、技術革新を起こした歴史的なモデルとされています。

➃2011年 『パーペチュアルカレンダー』「Ref.5550P」

*出典元:Patek Philippe

続いて『アドバンストリサーチ』第四弾モデルは、Pulsomax®脱進機と新開発のGyromaxSiテンプから構成された(Oscillomax®)、2011年発表、300本限定の『パーペチュアルカレンダー』「Ref.5550P」。

『アドバンストリサーチ』初の永久カレンダー搭載モデルのこちらは、文字盤レイアウトは同時期に販売されていた「Ref.5140」をベースに、針はリーフ針、ダイヤル外周にレイルウェイミニッツを採用するなどの変化を加えています。PT(プラチナ)製ケース×シルバーダイヤルの組み合わせ、インデックスと針にゴールドカラーを使用することで、美しいコントラストを実現するとともにデザイン面でもしっかりと差別化を図っています。

技術的な特徴:シリコン製GyromaxSiテンプを採用

*出典元:Patek Philippe

砂時計状のGyromaxSiテンプと名付けられた新しいテンプは、シリコン素材に24金を部分的に使用しており、左右に往復する振動をアンクルに与える、振り石の役目を果たしています。

こちらの「Cal.240 Q Si」は、1977年から【パテックフィリップ】の基幹ムーブメントであった「Cal.240」がベースとして採用されています。従来の「Cal.240」のパワーリザーブが約48時間であるのに対し、「Cal.240 Q Si」は約70時間のロングパワーリザーブへと飛躍的な進化を遂げていることからも、シリコン素材の有用性は明らかでしょう。ちなみに、2022年に発表された『1/10秒 シングルプッシュボタン クロノグラフ』「Ref.5470P」に、現行コレクションとして初めて採用されている点も注目のポイントですね。

⑤2017年 『アクアノート』「Ref.5650G」

*出典元:Patek Philippe

『アクアノート』誕生20周年にあたる2017年に、500本限定で発表された『アクアノート アドバンストリサーチ』「Ref.5650G」。

同年に発表された、ミッドナイトブルーのダイヤルが美しい42.2mmのジャンボサイズ「Ref.5168G」が馴染み深いかと思いますが、こちらはトラベルタイム機能を搭載しつつ、ダイヤル9時位置にオープンワークが施された、ひと目で特別モデルであると分かる1本。【パテックフィリップ】がダイヤル面をオープンワーク(スケルトン)化することは、『カラトラバ スケルトン』などの一部モデル以外にはほぼなく、同ブランドの人気ラグジュアリースポーツモデルが初めてオープンワーク化されたことで、話題になるとともに争奪戦となりました。今では『アドバンストリサーチ』きってのプレミアムモデルと化しております。

特徴:シリコン製髭ゼンマイ&フレキシブル機構を採用

*出典元:Patek Philippe

2006年に発表されたシリコン製髭ゼンマイ(Spiromax®)の改良バージョン(第2世代)を採用しており、日差-1~+2秒以内という超高精度を実現しています。それまでは髭ゼンマイの外端部のみに施されていた加工をカーブの内端部にも施すことで、時計の姿勢差による狂いを少なくしています。

*出典元:Patek Philippe

また、時計製作で通常用いられるSS(ステンレススチール)を素材とした”フレキシブル機構”も開発。(トラベルタイムウォッチの第二時間を設定するために使う、短針を操作するボタンの駆動部のこと

タイムゾーンの変更機構部分を一つのSS(ステンレススチール)製パーツとすることにより、従来の37個のパーツ構成から、わずか12個で実現することに成功しています。十文字型に交差する4枚の微小な板バネから構成される”フレキシブル機構”は、薄型化されるのみならず、軸の摩耗を抑制し、ほとんど注油の必要がない構造となっています。

⑥2021年 『ミニットリピーター』「Ref.5750P」

*出典元:Patek Philippe

音をケース内に反響させる”フォルティッシモ・モジュール”を採用した『アドバンストリサーチ』の第六弾モデルで、2021年発表、15本限定の『ミニットリピーター アドバンストリサーチ フォルティッシモ』「Ref.5750P」。

「Ref.5178」からインスピレーションを得て製作されたこちらは、ミニットリピーターにゴングの音を時計の外に出すための新しい機構が追加された「Cal.R27PS」を採用。また、これまで22金ゴールド製であったマイクロローターに、素材の密度が高いPT(プラチナ)を採用することで、巻き上げ率の向上と薄型化を実現しています。ダイヤルにはヴィンテージカーのホイールを彷彿とさせるオープンワークを採用しており、芸術的なデザインとなっています。

技術的な特徴:フォルティッシモ・モジュールを採用

*出典元:Patek Philippe

素材に関わらず「音質」と「音量」を両立させた美しい音色を追求したことで誕生した、音響増幅・伝達システムの”フォルティッシモ・モジュール”。

一般的には18KRG(ローズゴールド)が「音質」と「音量」のバランスが最も良いとされており、PT(プラチナ)は音がこもりやすく、ミニットリピーターには向いていないとされています。その弱点を改良したことで、PT(プラチナ)素材でも”音量”は従来のおよそ6倍となり、柔らかい”音質”を出すことに成功しています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

多くの愛好家から熱烈な支持を受けている『アドバンストリサーチ』のモデルは、その多くがオークションピースと化していますが、それも納得のいくモデルばかりだったと思います。現状に満足することなく、新しい技術開発に取り組む姿勢が【パテックフィリップ】の揺るぎない立ち位置と名声を得ている所以なのかもしれませんね。『アドバンストリサーチ』において研究された技術がレギュラーモデルに搭載されることを心待ちにするとともに、【パテックフィリップ】のレアピースは当店の得意とするところでもありますので、売却をお考えの際には是非お気軽にご相談いただければと思います。

今回も、本記事がお気に入りの一本を見つける一助となれば幸いです。

ではまた!

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