映画やテレビなどで俳優が着用した時計にフォーカスする「Actor’s Watch」。
第15弾の今回は「映画の中のタグホイヤー カレラ」をお送りいたします。

1963年に発表された「カレラ」は、タグホイヤーの4代目社長(創業者エドワード・ホイヤーの曾孫)であるジャック・ホイヤーによって生み出された、カーレースやラリー向けのクロノグラフ。その名は、1950年代にメキシコで開催された伝説的ロードレース「カレラ・パナメリカーナ・メヒコ(Carrera Panamericana Mexico)」に由来します。

*出典元:http://www.onthedash.com/

ジャック・ホイヤーは、自らジャーナリストを装ってレーシングの現場に忍び込み、有力なレーサーやドライバーへのスポンサー契約を獲得したと言われるほど、モータースポーツ業界との関係性を重視。積極的なプロモーションの結果、その後タグホイヤーはレーサーやドライバー御用達のブランドとして大きな成長を遂げていきます。

フォードvsフェラーリ

*出典元:https://www2.ferrariclubespana.com/panamericana.html

“FORD V FERRARI”(2020)

1966年のル・マン24時間耐久レースを制した「フォードGT40」開発の実話を基に制作された燃える男の実録カーレース映画『フォードvsフェラーリ』

フォードが「王者フェラーリを打ち負かすマシン」の開発を依頼したのは、カーデザイン会社を興した元レーサー、キャロル・シェルビーと、偏屈で破天荒なイギリス人のテストドライバー、ケン・マイルズ。この映画ではキャロル・シェルビー役を演じるマット・デイモン「カレラ Ref.7753SN」を着用しています。俗に「パンダ」と呼ばれる黒い横目の2レジクロノグラフ。TAG社資本となる前の「ホイヤー」製の一本です。

*出典元:http://www.onthedash.com/

実のところ、パンダ配色のカレラが発売されたのは70年代に入ってから。60年代中盤を舞台としたこの映画においては時代の整合性が一致しておりません。整合性よりもパンダ配色のデザイン性やアイコニックなイメージを優先させたというところでしょうか。

*出典元:http://www.onthedash.com/

ちなみにケン・マイケルズ役を演じるクリスチャン・ベールが着けている腕時計は「オータヴィア Ref. 2446」で、こちらもホイヤー製。通称「ヨッヘン・リント」と呼ばれるモデルですが、この名は1970年のF1チャンピオン、オランダ人レーサーのヨッヘン・リントが愛用していたことに由来します。

*出典元:https://productplacementblog.com/

ラッシュ/プライドと友情

“RUSH”(2013)

70年代の伝説的な2人のF1レーサー、野性的なドライビングで「壊し屋」の異名をとるジェームズ・ハントと、常に冷静で「コンピューター」と呼ばれたニキ・ラウダ。二人のライバル関係と、ニキ・ラウダが生死を彷徨うこととなった1976年のレース事故を描く、こちらも実話を基にしたカーレース映画『ラッシュ/プライドと友情』

*出典元:https://www.watch-id.com/

この映画でカレラを着用しているのは、ジェームズ・ハント役を演じたクリス・ヘムズワース(別名マイティ・ソー)。金無垢のラグ一体型ケースに左リューズという異色のカレラは、ジャック・ホイヤーがフェラーリのF1ドライバーに贈ることが伝統となっていた、70年代のレーシング黄金期を象徴するクロノグラフ「カレラ Ref.1158CHN」と思われます。

*出典元:https://www.hodinkee.com/

しかし、映画の舞台である1976年当時、ジェームズ・ハントはマクラーレン所属。むしろフェラーリ所属のニキ・ラウダが着けるべき時計のように思えます(実際にニキ・ラウダ本人がこの時計を着用している写真が残されています)。おそらく華やかな金無垢のクロノグラフは、冷静沈着なニキ・ラウダよりも、華のあるジェームズ・ハントのキャラクターに相応しいという制作陣の判断があったのではないかと推測しますが、いかがでしょうか。

インセプション

“INSEPTION”(2010)

ターゲットの無意識に侵入して情報を盗み出す産業スパイ集団。その次なるミッションは、ある大企業のトップに「会社を潰す」という無意識を植え付け、その企業を崩壊させること。『ダークナイト』『テネット』のクリストファー・ノーラン監督によるSFアクション映画『インセプション』

この映画でカレラを着用しているのは、産業スパイ集団のリーダーを演じるレオナルド・ディカプリオ。シンプルな三針の「カレラ Ref.WV211B.BA0787」を着用しています。

*出典元:https://productplacementblog.com/

クリストファー・ノーラン監督の最新作『テネット』と同様に、『インセプション』は非常に複雑な構造をもつSF世界を、圧倒的なビジュアルで描いた映画。内容を理解することに精いっぱいで、カレラがどのようなシーンに登場したか全く記憶にございません(笑)。もしかしたら「この映画を観た」という私の記憶自体が、誰かに植え付けられた偽の記憶なのかもしれません。

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※2021年5月6日現在

孤独のグルメ

“SOLITARY GOURMET”(2012~)

アンティーク品などを扱う個人輸入雑貨商の井之頭五郎氏が、仕事終わりに「ひとり飯」で空腹を満たす至福の時間を描いた「だけ」の人気ドラマシリーズ『孤独のグルメ』。もはや説明は不要ですね。昨今は「アフターコロナ時代を先取りした、ひとり飯推奨ドラマ」としても密かな盛り上がりを見せています。

このドラマでカレラを着用しているのは、井之頭五郎氏を演じる松重豊さん
「カレラ クロノグラフ レーシング Ref.CV2014.BA0794」を着用しています。

*出典元:https://www.tv-tokyo.co.jp

いつもスーツ姿の五郎さんに41mm径のタキメータークロノはややゴツめの印象に思えますが、実はアームロックを得意とする武闘派貿易商である五郎さん。スーツ姿の客商売としてギリギリのスポーティーラインを攻めた腕時計、ということなのかもしれません(松重豊さんご本人の愛用時計説もあり)。

まとめ

モータースポーツの為に開発され、モータースポーツの歴史と共に成長を遂げたタグホイヤー「カレラ」が似合うのは、やはりモータースポーツを描いた実録映画。現代ではヴィンテージとして人気の時計たちが、60~70年代のサーキットの雰囲気や臨場感に迫真のリアリティをもたらしていると言えるのではないでしょうか。

*出典元:https://www.watchtime.com

現代においてはモータースポーツ界の時計プロモーションも群雄割拠であり、タグホイヤーの独壇場というわけにはいきません。その代わり「カレラ」は、サーキットを離れ、日常やビジネスの場にも相応しい時計としてのポジションを確立しつつあるようにも思えます。このあたりの変幻自在な柔軟性こそが、タグホイヤーの「アバンギャルド」たる所以と言えるでしょう。

ではまた!

Actor's watch