第29回 高級腕時計トレンド2025｜A.ランゲ＆ゾーネのAIによるおすすめモデル10選

ドイツが誇る高級時計ブランド、A.ランゲ＆ゾーネの歴史

ドイツ・ザクセン州グラスヒュッテで A.ランゲ＆ゾーネ（A. Lange & Söhne）は1845年に創業しました。創業者は天才時計技師フェルディナント・アドルフ・ランゲで、社名の「ゾーネ」（ドイツ語で“息子たち”の意）は彼の息子たちと築いた工房に由来します。19世紀後半にはドイツ帝国の皇帝やロシア皇帝など王侯貴族にも時計を納め、懐中時計の名門ブランドとして名声を確立しました。

しかし第二次世界大戦後、東ドイツ政権下の1948年にA.ランゲ＆ゾーネは国有化され、一旦その歴史に幕を下ろします。長くブランドは途絶えていましたが、冷戦終結後の1990年、創業者ランゲの曾孫であるウォルター・ランゲ氏によって奇跡の復活を遂げました。復活後はスイスの名門IWCの支援も受けて再建が進み、1994年に発表した最初のコレクションで世界を驚かせます。中でも看板モデル「ランゲ1」の誕生は、高級時計界にドイツの名門復活を強く印象づけました。

現在A.ランゲ＆ゾーネはリシュモングループ傘下で運営されており、生産本数は年間わずか5,000本程度と非常に少量です。従業員も約770名ほどの小規模な体制ながら、ムーブメントの開発から組立まで自社一貫で行う完全自社製造を貫いています。グラスヒュッテに根ざした伝統の「3/4プレート」や職人による手彫りのテンプ受け（緩急針が描かれたパーツ）は同社の特徴であり、緻密で重厚な“ドイツ式”の意匠と仕上げはスイス製高級時計とも一線を画しています。

現行コレクションと廃盤モデルの魅力

A.ランゲ＆ゾーネが展開する現行モデルのラインナップは限られています。現在の主なコレクションは以下の6シリーズです。

一方、既に生産終了した 廃盤モデルにも熱い注目が集まっています。生産本数が少ない同社では、一度廃番となれば入手困難となるため、その希少性から中古市場で高額取引されることも珍しくありません。例えば初期のランゲ1やオリジナルのダトグラフ、限定生産の複雑モデルなどはコレクター垂涎のアイテムです。こうした希少モデルの売買では専門業者による適切な査定を受けることが重要です。

A.ランゲ＆ゾーネの名作おすすめ10選

ここからは、A.ランゲ＆ゾーネの現行モデルおよび廃盤モデルの中から、とくに注目すべき名作10本を初心者・コレクター双方の視点を交えてご紹介します。

①ランゲ1 Ref.191.032

A.ランゲ＆ゾーネと言えばまず名前が挙がるのがランゲ1。ブランド復活と同時に1994年に発表されたこのモデルは、オフセンター（左右非対称）に配置された時・分表示とスモールセコンド、大型の二桁日付表示「アウトサイズデイト」を特徴とし、一目でA.ランゲ＆ゾーネと分かるアイコンとなりました。シンプルな機能ながらエレガントで調和の取れた独創的デザインは、高級時計入門者にとっても魅力的で、「まずはランゲ1から」という声も多い定番モデルです。一方で、初期モデルから限定モデルに至るまで多くのバリエーションが存在し、コレクターにとっても収集しがいのあるコレクションと言えるでしょう。非対称に配置された文字盤上にはローマ数字インデックスと針が優雅に配され、12時位置にはA.ランゲ＆ゾーネの象徴である大型のアウトサイズデイトが確認できます。緻密なギョーシェ装飾やポリッシュ仕上げの針・インデックスが光を受けて煌めき、ドイツ高級時計ならではの卓越したクラフトマンシップを体感できる逸品です。

②サクソニア シン Ref.380.032

サクソニア・シンはA.ランゲ＆ゾーネの中で最もシンプルかつ薄型のドレスウォッチです。「シン（dünn）」とはドイツ語で「薄い」の意。その名の通りケース厚わずか約6mm程度（モデルによる）の極薄手巻きムーブメントを搭載し、装着感も軽やかな一本となっています。二針のみの潔いデザインは上品かつモダンで、ビジネスからフォーマルまで幅広く活躍。複雑機構を持たないため比較的価格も抑えめで、高級時計初心者が「いつかランゲを」と狙う入門機種として人気です。もちろん仕上げや品質は他のモデル同様一切妥協がなく、ムーブメントの隅々まで磨き抜かれています。コレクターにとっては派手さはないものの、その純粋なデザイン美と技術力を堪能できる通好みのモデルと言えるでしょう。

③オデュッセウス Ref.363.179

オデュッセウスは2019年に満を持して登場した、A.ランゲ＆ゾーネ初のスポーツラグジュアリーウォッチです。ステンレススチール製のケースとブレスレット、120m防水という実用性を備えつつ、デイデイト（曜日・日付）表示を特徴とした自動巻きムーブメントを搭載しています。これまで貴金属ケース主体だった同社が放った異色作であり、発表直後から大きな話題を呼びました。スポーティーでありながら細部の仕上げは緻密で高級感は損なわれておらず、新世代のランゲファンや若い初心者層にもアピールしています。一方で生産数も少なく入手困難なため、発売当初からプレミア価格となる人気ぶりで、コレクターにとっても見逃せないモデルです。近年ではチタン製モデルや初の機械式クロノグラフ搭載モデル（100本限定）も発表されており、 2025年注目の一本として更なる関心を集めるでしょう。

④ツァイトヴェルク Ref.140.029

ツァイトヴェルクはA.ランゲ＆ゾーネが2009年に発表した画期的モデルで、機械式でデジタル表示を実現した腕時計です。文字盤左に時、右に分をそれぞれ数字ディスクで表示し、60秒ごとに瞬時に次の分へジャンプするという独創的な機構を備えています。伝統的な機械式時計の概念を覆す前衛デザインは当時大きな驚きをもって迎えられ、初心者でも「機械式なのにデジタル？」と興味をそそられることでしょう。内部にはこのジャンプに必要な高トルクを支えるため、定力脱進機構（コンスタントフォース）も搭載されており、技術的にも非常に複雑です。文字盤をスケルトン化した「ツァイトヴェルク・ルーメン」やチャイム音を奏でる「ストライキングタイム」等の派生モデルも生まれ、コレクターからも熱い支持を得ました。2022年にはパワーリザーブを延長した新世代ムーブメント搭載のツァイトヴェルクが登場し、初代モデルは廃盤となりましたが、その独創性ゆえに初代モデルをあえて探し求める愛好家もいるほどです。

⑤ダトグラフ・アップ/ダウン Ref.405.035

ダトグラフは1999年に発表され、機械式クロノグラフの新たなベンチマークとなったモデルです。フライバック機能付きの自社製クロノグラフムーブメントに、大型日付表示（ダトグラフの名の由来）が組み合わされたその機構美とレイアウトは時計愛好家を唸らせました。当時、スイス勢に匹敵する高度なクロノグラフをドイツから送り出したことはセンセーショナルな出来事で、発売当初から「現代最高のクロノグラフ」と称賛されています。初心者にとっては高度な複雑時計ゆえハードルが高いものの、時計趣味が深まるにつれ誰もが憧れる一本として名前が挙がる存在です。初期のプラチナモデル（Ref.403.035）は現在廃盤となり中古市場で人気が高く、文字盤デザインをブラッシュアップしてパワーリザーブ表示を加えた現行モデル「ダトグラフ・アップ/ダウン」へと受け継がれています。いずれの世代も仕上げ・構造の完成度は群を抜いており、コレクターズアイテムとして不動の地位を築いています。

⑥1815 クロノグラフ Ref.414.028

1815 クロノグラフはA.ランゲ＆ゾーネのクロノグラフコレクションの中でも、クラシカルな意匠と高級感溢れる仕上げで人気のモデルです。ダトグラフと同じく自社製手巻きクロノグラフムーブメントを基盤としながら、あえて大型日付表示を省き、シンプルなツーカウンタークロノグラフを配置にすることで古典的なバランスを実現しています。タキメータースケールや脈拍計（パルスメーター）目盛りを備えた初期モデルは特にクラシック感が強く、伝統的な佇まいが魅力です。文字盤デザインがすっきりとしているため、複雑なクロノグラフでありながら初心者にも時刻や計測秒を読み取りやすい点はメリットでしょう。加えて、ケースバックから眺めることができるムーブメントの美しさは圧巻で、手彫り装飾が施されたテンプ受けや、丁寧に面取りされたパーツの数々はコレクターを虜にしています。

⑦ランゲ1 タイムゾーン Ref.116.032

ランゲ1 タイムゾーンは、ブランドを代表するランゲ1に世界各地の時間を同時表示できる機能を加えたモデルです。2005年に初登場し、オフセンターのサブダイヤルで第二時間帯を表示、都市名の書かれたリングを回転させることで任意のタイムゾーンをセットできます。文字盤上には昼夜を判別するインジケーターも備わり、海外出張や旅行の多いビジネスパーソンにも実用的です。ランゲ1ならではの優雅なデザインはそのままに機能性を高めているため、「旅好きな初心者にも薦めたいランゲ」としてしばしば名前が挙がります。2020年にリリースされた新世代モデルでは視認性向上やサマータイム対応表示の追加など改良が加えられました。初代・新世代ともに魅力があり、特に25周年記念の限定モデルなどはコレクター垂涎のアイテムです。伝統と実用性を両立したタイムゾーンは、ランゲコレクションの中でもユニークな存在として愛されています。

⑧トゥールビヨン・プール・ル・メリット Ref.702.025

トゥールビヨン・プール・ル・メリットは、A.ランゲ＆ゾーネ復活の象徴ともいえる超絶コンプリケーションです。1994年のブランド復興時に発表された4モデルの一つで、重力による精度誤差を補正するトゥールビヨンに加え、精度向上のためのチェーン伝達（フュージ・チェーン）機構を組み合わせた贅沢な設計となっています。「プール・ル・メリット」とはドイツの名誉勲章になぞらえた呼称で、その名に相応しく同社の技術の粋を結集した作品です。非常に少数のみが生産され、特にプラチナ製モデルは世界で50本ほどとも言われる希少モデルとなっています。高額ゆえに遠い存在ではありますが、時計史に名を残す伝説的名機として知っておいて損はありません。コレクターであれば一度は手にしたい“究極のランゲ”であり、その存在はブランド全体の評価を高める特別な一本と言えるでしょう。

⑨ダブルスプリット Ref.404.035

ダブルスプリットは2004年に発表された世界初の「ダブルスプリットクロノグラフ（ダブル・ラトラパンテ）」です。通常のクロノグラフに加え、2本の秒針と2本の分針を備え、それぞれを独立して制御できる驚異的な機構を持っています。その結果、最大30分までの中間計測（ラップタイム）を機械式で同時比較できるという離れ業を実現しました。この革新的な複雑機構は当時他に類を見ず、A.ランゲ＆ゾーネの技術力をまざまざと見せつけたモデルです。直径43mm超・厚さ15mm超という大型ケースに所狭しと収まるムーブメントは部品点数も非常に多く、裏側から眺めるその光景はまさに圧巻です。後継として2018年にはストップウォッチ機能の対象を時針にも拡張した「トリプルスプリット」も発売されましたが、オリジナルのダブルスプリットは既に生産終了となり、その歴史的意義から現在でも高い人気を誇ります。

⑩ランゲ31 Ref.130.032

ランゲ31は2007年に発表された、世界初の31日間パワーリザーブ（約1ヶ月巻き持続）を実現した腕時計です。通常の腕時計のパワーリザーブが2～3日程度であるのに対し、ランゲ31はなんと720時間駆動を可能にするため、2本の超ロング香箱（ぜんまい）が内蔵されています。当然ながら手巻きで巻き上げるには強大な力が必要になるため、付属のトルクキーを用いてテコの原理で巻き上げるというユニークな方式を採用しています。さらに、長期間精度を保つためムーブメント内には恒動トルク機構（コンスタントフォース）が組み込まれており、最初から最後まで均一な力でテンプを駆動します。初心者からすると「一度巻いて1ヶ月動く時計」というだけで驚きですが、その背後にある地道な技術開発にも思いを馳せると時計の奥深さを感じられるでしょう。ケース径45.9mm・厚さ15.8mmと非常に大型で存在感がありますが、これは長大なぜんまいと制御機構を収めるための必然です。生産本数もごく僅かで、現在公式カタログには掲載されていない希少モデルです。コレクターにとってランゲ31は性能追求の野心作として評価が高く、その独特なメカニズムは他の追随を許さない唯一無二の存在です。

まとめ：A.ランゲ＆ゾーネが映す伝統と革新

ドイツ屈指の高級腕時計ブランドA.ランゲ＆ゾーネの歴史と名作モデル10選をご紹介しました。同社の歩みは、19世紀創業の伝統と、1990年代の復興から続く絶え間ない革新とが融合した物語です。2025年には創業180周年という大きな節目を迎えますが、その長い歴史の中で培われた 伝統と、絶えず新たな挑戦を続ける 革新の精神こそが、A.ランゲ＆ゾーネの時計を唯一無二たらしめる所以でしょう。

初めて高級時計に触れる初心者にとっても、ランゲ1やサクソニア・シンといったシンプルなモデルに同社の哲学と美学が凝縮されていることがお分かりいただけるでしょう。また複雑機構や限定モデルの数々は、経験豊富なコレクターの探求心を刺激し続けています。いずれのモデルも、細部にまでこだわった仕上げと実直なものづくりによって高い価値を備えており、その価値ゆえに中古市場でも注目の的です。

よくある質問（FAQ）