映画やテレビなどで俳優が着用した時計にフォーカスする「Actor’s Watch」。
第47弾の今回は、映画『パルプ・フィクション』に登場する腕時計にフォーカスしてまいります。

*出典元:http://artisticmetropol.es/

『パルプ・フィクション』は、今や巨匠扱いのヒットメーカー、クエンティン・タランティーノの監督第二作目。1994年のアカデミー賞では脚本賞を、カンヌ映画祭ではパルム・ドール(最高賞)を受賞し、タランティーノ監督の名を一躍世に知らしめることになった犯罪映画の傑作です。この映画の題名を聞いただけでディック・デイルのヘヴィなサーフギターチューン『ミザルー』が脳内に流れる方も多いのではないでしょうか。

それでは早速、クライムサスペンスの歴史を変え、記録にも記憶にも残る映画『パルプ・フィクション』に登場する腕時計を見てまいりましょう。

クリストファー・ウォーケンの腕時計

八百長を持ち掛けられたプロボクサー、ブッチ・クーリッジ(ブルース・ウィリス)の回想シーン。ベトナム戦争で死んだ父の上官であるクーンツ大尉(クリストファー・ウォーケン)が、子供の頃のブッチに父の形見の腕時計を手渡す姿は非常に印象的です。ブッチの曽祖父が購入し、第一次世界大戦(曽祖父)、第二次世界大戦(祖父)、ベトナム戦争(父)と受け継がれてきたランセットの金時計は、クーリッジ家の歴史そのものと言っていいでしょう。

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八百長せず試合に勝ってしまったブッチは、ギャングの報復を恐れて恋人と逃走を計るのですが、この大切な腕時計を部屋に忘れてきたことに気づきます。そして危険を覚悟の上で腕時計を取りに戻ったところ、殺し屋と鉢合わせに…。一族の歴史を刻んだ腕時計が、物語を大きく動かすキーアイテムとなっています。

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ランセットの腕時計は、第一次世界大戦において実際に英米の将校らに贈られた歴史があり、短針のコブラ針などの意匠も含め、この映画においては、史実に忠実な小道具として登場しています。

ハーヴェイ・カイテルの腕時計

ボスの大切なアタッシュケースを盗んだ下っ端ギャングを追う、殺し屋ヴィンセント(ジョン・トラヴォルタ)とジュールス(サミュエル・L・ジャクソン)。無事にアタッシュケースは回収したものの、車内で拳銃が暴発し、乗り合わせた仲間のひとりを撃ち殺してしまう。このままでは警察の御用になってしまうということで呼ばれたのが、犯行現場や遺体を何事もなかったかのようにキレイにする裏社会のプロフェッショナル掃除人、Mr.ウルフ(ハーヴェイ・カイテル)

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黒のタキシードに蝶ネクタイ、口ひげを生やしたチョイ悪オヤジ風の仕事人、Mr.ウルフ。タランティーノ監督のデビュー作『レザボアドッグス』では強盗団のリーダーとして迫真の演技を見せたハーヴェイ・カイテルが、嬉々としてキザったらしく演じております。

*出典元:https://bamfstyle.com/

そんなMr.ウルフが着けているのは、そのキザったらしさに拍車をかけるグッチのクォーツの金時計。海外の時計店のサイトを見ると、「WOLF WATCH」などといった愛称で書かれているページもあり、映画好きの時計愛好家の間では、既に「映画に登場する有名な腕時計」の一本に数えられているようです。

ジョン・トラヴォルタの腕時計

『サタデー・ナイト・フィーバー』以来、パッとした出演作に恵まれなかったジョン・トラヴォルタを主役に抜擢し、再びスターの座に押し上げた映画『パルプ・フィクション』。トラヴォルタが演じる、長髪でだらしない殺し屋ヴィンセントが、ユマ・サーマン演じるギャングのボスの妻、ミアとレストランで踊るシーンは、『サタデー・ナイト・フィーバー』を彷彿とさせる格好良さ!

*出典元:https://www.rollingstone.com/

この映画でヴィンセントが身に着けているのは、セイコーのように見える革ベルトの腕時計。ごく一般的なラウンドケースで、アップになるシーンもなく、映像からブランドやモデルを特定することは残念ながら難しそうです。

*出典元:https://www.watchuseek.com/

短気で怒りっぽく、いかにもな「不良中年」ヴィンセントに似合っているとは言い難い、実直さを感じさせる大人の腕時計。私は「過去に世話になった誰かの形見を身に着けているのではないか」などと、裏設定で勝手に妄想しております。

ちなみに、もう一人の殺し屋、ジュールスを演じるサミュエル・L・ジャクソンが左手首に着けているのは金のブレスレット。腕時計は着けておりません。

クエンティン・タランティーノの愛用腕時計

続いて『パルプ・フィクション』の監督、クエンティン・タランティーノが愛用している腕時計をご紹介いたします。その腕時計は、IWC ビッグパイロットウォッチ(Ref.IW501001)

過去の名作へのオマージュを散りばめながら、オフビートな70年代風の演出がファンの目を惹くタランティーノ監督の作風と、伝統的なパイロットウォッチのデザインコードを用いながら、ある種、現代的ではない大型ケースデカリューズをフックにしたビッグパイロットには、共通のポリシーが感じられますね。

まとめ

常々「生涯10本の長編映画を撮ったら引退する」と公言しているタランティーノ監督。『キル・ビル』の「1」と「2」を合わせて1本と数えると、既に9本の監督作を残しており、残すはあと1本しかありません。

1『レザボアドッグス』(1992)
2『パルプ・フィクション』(1994)
3『ジャッキー・ブラウン』(1997)
4『キル・ビルvol.1&vol.2』(2003~2004)
5『デス・プルーフ in グラインドハウス』(2007)
6『イングロリアス・バスターズ』(2009)
7『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)
8『ヘイトフル・エイト』(2015)
9『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)

10本目は、『パルプ・フィクション』のように、再び腕時計に注目が集まる映画であって欲しいと願っておりましたが、風の噂によるとSF映画『スタートレック』の最新作になる見込みとのこと。これではブランド腕時計の登場は、ちょっと厳しそうですね。仕方ありませんので、『フォー・ルームス』(1995)のような、短編・オムニバス映画に期待するとしましょう。

ではまた!

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