映画やテレビなどで俳優が着用した時計にフォーカスする「Actor’s Watch」。
第10弾の今回は、007シリーズの4回目「ピアース・ブロスナン編」をお送りいたします。

ピアース・ブロスナンのジェームズ・ボンド

1989年の『007 消されたライセンス』の公開後、007シリーズの版権に関わる訴訟によって新作の製作が滞り、次回作の公開まで6年もの空白期間が生じました。これにより4代目ジェームズ・ボンド、ティモシー・ダルトンは降板。1995年公開の『007 ゴールデンアイ』より、ピアース・ブロスナンが5代目ジェームズ・ボンドを演じることになります。

*出典元:https://www.moviefone.com/2015/11/16/goldeneye-james-bond-facts/
ショーン・コネリーのセクシーさ、ジョージ・レーゼンビーの激しいアクション、ロジャー・ムーアのエレガントさ、ティモシー・ダルトンのワイルドさなど、
歴代の「いいとこどり」をしたようなピアース・ブロスナンのジェームズ・ボンド像に対しては「理想的なジェームズ・ボンド」という評価を与えるファンも多く、シリーズ一作目から秘密兵器開発者「Q」を演じ続けるデスモンド・リュウェリンは「コネリー以降、最高のボンドを見た気分だ」とインタビューや音声解説で絶賛しています。

*出典元:https://www.listal.com/viewimage/8448557

また、今作からボンドの上司「M」を演じるのはイギリスが誇る名女優ジュディ・デンチとなり、劇中でボンドのセクハラ発言がたしなめられるなど、女性の社会進出が映画に影響を与えるようになっていきます。登場するボンドガールたちも、もはや「007の添え物」といった扱いではなく、敵味方ともに、アクティヴな自立した女性として描かれるようになったのもこの頃からです。

『007 ゴールデンアイ』のオメガ シーマスタープロフェッショナル 300M クォーツ

GoldenEye(1995)

ソ連邦崩壊による東側諸国の混迷に乗じ、ロシアの犯罪組織に奪われた旧ソ連の秘密兵器“ゴールデンアイ”のプログラムコード。その奪還任務にあたるジェームズ・ボンドの腕につけられているのはオメガ シーマスター プロフェッショナル 300M クォーツ(Ref.2541.80)。意外にも、シリーズ17作目にしてオメガの時計は初登場となります。

*出典元:https://www.jamesbondlifestyle.com/product/omega-seamaster-300m-quartz-25418000

ルミナスポイントから強力なレーザーを照射して鉄板を焼き切ったり、ヘリウムエスケープバルブが爆弾の起動ボタンになっていたりと、スパイガジェットとしての活躍を見せるブルーダイヤルのシーマスターは、久々に「秘密兵器の腕時計」として登場しました。CGや特撮技術が格段に進歩したことで、スパイウォッチの描写にもリアリティと説得力がもたらされる時代になってきたと言えるでしょう。

*出典元:https://www.jamesbondlifestyle.com/product/omega-seamaster-300m-quartz-25418000

この作品で衣装を担当したオスカー受賞デザイナー、リンディ・ヘミングスは元海軍中佐であり、数々の危機的状況をくぐり抜けるタフなボンドにふさわしい時計としてオメガのシーマスターを選択したとのこと。この作品以降、ジェームズ・ボンドは全作品においてオメガのシーマスター(またはシーマスターアクアテラ)を愛用し続けることになります。

『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』
『007 ワールド・イズ・ノット・イナフ』
『007 ダイ・アナザー・デイ』
のオメガ シーマスタープロフェッショナル 300M

Tomorrow Never Dies(1997)
The World Is Not Enough(1999)
Die Another Day(2002)

第三次世界大戦の誘発をもくろむメディア王との戦いを描く『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』、核弾頭を盗んだテロリストの野望を打ち砕く『007 ワールド・イズ・ノット・イナフ』、ダイヤモンド王の罠によってボンドが窮地に陥れられる『007 ダイ・アナザー・デイ』。この三作品においてジェームズ・ボンドは、余程気に入ったのか同じ時計を三作連続で身に着けています。その時計がオメガ シーマスタープロフェッショナル 300M(Ref.2531.80)。いずれの作品でも非常灯、爆弾、フック付きのワイヤー、レーザートーチなどを内蔵し、スパイガジェットとしての活躍を十分に見せてくれます。

*出典元:https://the007world.com/omega-seamaster/

*出典元:https://timeandtidewatches.com/the-complete-list-of-bond-watches/

*出典元:https://timeandtidewatches.com/the-complete-list-of-bond-watches/

前作『007 ゴールデンアイ』で着用していたのはクォーツモデルでしたが、こちらの三作品で着用しているのは、同じデザインながら文字盤にクロノメーター表記のある自動巻きモデル。クォーツショックの後、007の世界に機械式時計復権の波が訪れはじめたのも、この三作品からと言っていいでしょう。

「ボンド・ウォッチ=オメガ」の仕掛け人

90年代半ば、時計業界で巻き起こった「機械式時計の再評価」というトレンドにまるで足並みを揃えるかのように機械式時計への回帰を見せた「ボンド・ウォッチ」ですが、これは決して偶然の一致ではありません。なぜなら機械式時計の再評価も、ピアース・ブロスナン演じるジェームズ・ボンドにオメガの機械式時計を着けさせたのも、スイス時計業界の重鎮であるジャン・クロード・ビバー氏が仕掛けたものだからです。

*出典元:https://www.alexanderwatch.com/2017/08/30/business-lessons-from-jean-claude-biver/

1982年には長く休眠していた世界最古の時計メーカーブランパンを買収して蘇らせ、2003年にはウブロのCEOに就任して「アート・オブ・フュージョン」というコンセプトのもと「ビッグバン」を開発し、短期間で高級ブランドへと成長させたことで知られる、機械式時計の天才的仕掛け人、ジャン・クロード・ビバー氏。

そのビバー氏が1993年にオメガのマーケティング部長に就任した際、話題の人物とオメガの時計をタイアップする「アンバサダー戦略」を仕掛け、オメガの認知度を急上昇させることに成功します。1995年以降の「007シリーズ」とオメガのタイアップもそのマーケティング戦略の一環と考えて間違いないでしょう。オメガの機械式時計を広く世界に認知させたいビバー氏の思惑と、娯楽性とリアリティを兼ね備えた「大人のボンドウォッチ」を描きたい映画制作側の思惑が見事に一致し、いまや時計愛好家や映画ファン双方の間で「ボンド・ウォッチ=オメガ」という認識は揺るぎないものになっています。

まとめ

1990年代半ば以降、機械式時計がクォーツショックを乗り越え、再び隆盛を極めるようになったのは決して偶然に起こったことではなく、ジャン・クロード・ビバー氏のような「強い哲学を持つ天才的な仕掛け人」と007シリーズのような「時計好きの注目を集める世界的メディアやコンテンツ」が足並みを揃え、機械式時計の素晴らしさや楽しさを世界中にアピールし続けたことの結果にほかなりません。

逆に言えば、時計業界を今よりもっと面白くするには映画ファンや時計愛好家がメディアに登場する時計に注目し、話題にしていけばいいということでもあります。映画やテレビに気になる時計が登場したらどんどん話題にして時計業界を盛り上げていきましょう!

ではまた!

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