映画やテレビなどで俳優が着用した時計にフォーカスする「Actor’s Watch」。
第40弾の今回も、前回に引き続き映画監督が愛用する腕時計【PART.2】をお送りします。
【PART.1】ではロレックスを愛用している映画監督をご紹介しましたが、今回はロレックス以外のブランドを愛用している映画監督に注目したいと思います。選ぶブランドやモデルにどのような監督のこだわりが見られるのか、さっそく見て参りましょう。
スタンリー・キューブリック監督
■代表作
『博士の異常な愛情』(1964)
『2001年 宇宙の旅』(1968)
『時計じかけのオレンジ』(1971)
『シャイニング』(1980)
脚本・監督だけに留まらず、自らが監督した作品の撮影や編集、各国語の字幕までチェックを欠かさなかった「完全主義者」として知られるスタンリー・キューブリック監督。大衆性や興行収入が重視されるハリウッド映画界に居ながらも、高い芸術性や革新性を発揮し続けたキューブリック監督は、映画史において最も影響力のある映画監督のひとりと言っても過言ではないでしょう。
*出典元:http://www.onthedash.com/
そんなキューブリック監督が着けていた腕時計は、タグホイヤー モナコ(Ref.1133G)。世界初の角型防水クロノグラフとして歴史に名を刻むこの腕時計は、パイロットの資格を持ち、お抱え運転手に元F1レーサーを雇っていたキューブリック監督らしい「スピードと革新性」を兼ね備えた一本です。スティーブ・マックィーンがレーシング映画『栄光のル・マン』(1971)で着用していたことでも有名なモナコ。この写真がいつ頃のものかは不明ですが、もしかしてキューブリック監督はマックィーンに憧れていた…?などと、ついつい妄想を膨らませてしまいます。
■イチ推し作品『シャイニング』(1980)
妻と幼い息子を連れて、雪深い冬に閉鎖されるホテルの住み込み管理人を任された売れない小説家のジャック。不思議な霊感能力「シャイニング」を持つ息子のダニーは、誰もいないはずのホテル内で様々な超常現象を目撃するが、父親であるジャックは徐々に狂気に囚われていく…。原作者のスティーブン・キングが「小説と全く違う!」と激怒した本作ですが、興行収入的には大成功。エレベーターホールや謎の双子の少女などの「左右対称」にこだわった構図や、スタディカムを用いたダイナミックな移動撮影を用いて、観客をただビックリさせるだけではない革新的なホラー映画の傑作として歴史に名を残す一本となっています。
*出典元:https://www.distractify.com/
DVDなどのパッケージ写真でお馴染み、斧で叩き割ったドアからジャック・ニコルソンが顔をのぞかせる約2秒のシーンには、2週間以上の撮影期間と190テイクが費やされており、また、妻役を演じるシェリー・デュバルの演技に数十回のダメ出しが行われたりなど、キューブリック監督の完全主義者ぶりも存分に発揮されています。
ジェームズ・ガン監督
■代表作
『スリザー』(2006)
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014)
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2017)
『ザ・スーサイド・スクワッド』(2021)
ハリウッドが誇る(?)低予算カルト映画の総本山「トロマ映画社」で数々のB級・C級映画製作に携わったジェームズ・ガン監督。それがまさかマーベル製作・ディズニー配給の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』で大成功を収め、一躍ハリウッドのトップ監督に上り詰めるとは、ファンですら想像していなかったのではないでしょうか。シリーズ2作目『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』の大ヒット後、過去の不謹慎ツイートが掘り返されて3作目の監督就任が危ぶまれましたが、ファンや俳優たちの嘆願により無事にシリーズの監督に復帰。2023年に予定されている『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー 3(仮)』の公開が今から楽しみです。
*出典元:https://www.watchuseek.com/
そのガン監督が愛用する腕時計はセイコー アストロン。幼少期にはウルトラマンや仮面ライダーを観まくり、伊藤潤二氏のホラー漫画や須田剛一氏の作るカルトゲームからの影響も隠さず、ゴジラよりもジェットジャガー派であることを公言するハリウッド随一のオタク監督だけに、腕時計も日本が誇る多機能クォーツがお気に入りのようです。
■イチ推し作品『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014)
トレジャーハンターのスターロード、女暗殺者のガモーラ、肉体派戦士のドラックス、植物生命体のグルート、宇宙で最も危険なアライグマのロケット。5人のお尋ね者で結成されたヒーローチーム「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」の活躍を描く、マーベルコミック原作のSFアクションコメディ。
*出典元:https://wallhere.com/
デヴィッド・ボウイ、ジャクソン5、10cc、ランナウェイズといった1970年代のヒット曲を詰め込んだ母の形見のカセットテープを初代ウォークマンで聴きながら銀河を飛び回り、悪と戦うスターロードたちの破天荒な大活躍をぜひお楽しみください。
テリー・ギリアム監督
■代表作
『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』(1975)
『バンデットQ』(1981)
『未来世紀ブラジル 』(1985)
『12モンキーズ』(1996)
イギリスが誇る伝説のコメディグループ「モンティ・パイソン」の一員として知られるテリー・ギリアム監督。ブラック・ユーモアを基調とした不条理や夢想が詰め込まれたダークなSFやファンタジーは、「モンティ・パイソン」の世界観とも共通しています。しかし映画製作においてはトラブルの連続。『未来世紀ブラジル』では、ハッピーエンドを求める映画会社と訴訟になり、『バロン』では悪徳プロデューサーのせいで製作費が底をつき、『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』に至っては1998年に企画が始まりながら、主演俳優の度重なる降板や死去、洪水による撮影延期など、数々の困難の連続で完成したのが22年後の2018年。このため「映画史に刻まれる呪われた企画」などと呼ばれています。それでも大作映画を作り続けられるのは、スタンリー・キューブリック監督が『博士の異常な愛情』の続編監督候補として考えていたほどに、ギリアムが映画監督としての力量に優れているからに違いありません。
そのギリアム監督が愛用する腕時計はモンディーン エヴォ2。スイス国鉄の公式時計をモチーフにした腕時計です。 赤いロリポップ秒針が58秒で一周し、12時位置で2秒停止する「ストップ・トゥ・ゴー」という機能を備え、精度と視認性を極めたこの鉄道時計のデザイン性の高さは、二ューヨーク近代美術館(MoMA)にも所蔵されているほどの完成度。とはいうものの、製作トラブルをものともせず、現代社会がはらむ矛盾や複雑さを、画面にこれでもかと詰め込むテリー・ギリアム監督の作風は、正確さとシンプルさを極めたモンディーンの鉄道時計とは対極に位置するようにも思えます。しかし、そういった矛盾や複雑さこそがギリアム監督の魅力ともいえるわけで、そういう意味では「逆に監督に合っている」と言えるのかもしれません。
■イチ推し作品『未来世紀ブラジル』(1985)
エアコン修理にすら役所が発行する多くの書類を必要とする超管理社会で、指名手配書の印刷機に故障が発生。「ハリー・バトル」の指名手配書の一枚が「ハリー・タトル」と印刷され、善良な市民が冤罪で亡くなってしまう。事態を隠蔽しようとする役所と、真実を明らかにしようとする女性トラック運転手、彼女に想いを寄せる役人が巻き起こす事件の結末は…。
*出典元:http://www.jasonwerbeloff.com/
朗らかで開放的なボサノバの名曲『ブラジル』をバックに、カフカの『審判』を現代的に解釈したような、不条理な悪夢とでもいうべき管理社会と個人の対決が描かれます。「モンティ・パイソン」の仲間でもあるマイケル・ペイリンや、違法エアコン修理人役のロバート・デ・ニーロが重要な役柄で作品に狂気をもたらしていることも、大きな見どころのひとつです。
ジョン・カーペンター監督
■代表作
『ハロウィン』(1978)
『ニューヨーク1997』(1981)
『遊星からの物体X』(1982)
『マウス・オブ・マッドネス』(1994)
スタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』が芸術性に優れた近代ホラー映画の名作なら、ジョン・カーペンター監督の『ハロウィン』や『遊星からの物体X』は、バイオレンスやグロテスクな描写を突き詰め「スプラッター映画」の基盤を創り上げた、エンターテインメントとしての近代ホラー映画の傑作。近年においても『ハロウィン』や『遊星からの物体X』の関連作が作り続けられており、その先進性がジョン・カーペンター再評価の機運を高めています。
*出典元:https://www.digitalspy.com/
*出典元:https://monochrome-watches.com/
そんなカーペンター監督が着用している腕時計は、カルティエ パシャ。「ホラー・マエストロ」と呼ばれるカーペンター監督の雰囲気には似ても似つかない、フランス生まれのエレガントな時計で、正直かなり驚きました。しかしこの時計は「マエストロ」と呼ばれた腕時計界の名デザイナー、故ジェラルド・ジェンタ氏のデザインによるもの。そして『遊星からの物体X』の音楽を担当したのも「マエストロ」と呼ばれるエンニオ・モリコーネ。偉大なる「マエストロ」で全てが繋がりましたが、信じるも信じないも、あなた次第です!
■イチ推し作品『遊星からの物体X』(1982)
10万年前に南極に落下し、氷漬けとなっていた異星の「物体」が蘇り、南極基地の観測隊員たちに次々と乗り移っていく。「誰が人間で、誰が乗り移られてしまったのか?」が判らない中、登場人物全員が疑心暗鬼になりながらサバイバルをかけて「物体」の侵略と戦うSFサスペンスホラー。
*出典元:https://screenrant.com/
正体を見破られた「物体」が、人間の姿のまま身体をあらぬ方向に捻じ曲げ、全身から触手や触覚を伸ばして襲い掛かる身体破壊は圧巻の一言。CGが主流の現代においても、そのホラー表現が色あせることはありません。「物体」の制作を担当したのは、SFXアーティストのロブ・ボッティン。「物体」がグロテスクな中にも、ある種の芸術性を感じさせるのは、ボッティンがフランシス・ベーコンの絵画を参考にして「物体」をデザインしたからかもしれません。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
ロレックスを着けている映画監督に比べ、他ブランドの腕時計を着けている映画監督は、一癖も二癖もある「個性派監督」が多く、アカデミー賞などのポピュラーな賞レースとも縁遠いように思えます。それと同時に「好きな人は大好き」という熱狂的なファンに支えられる作風でもあるように感じます。
このあたり、誰にも愛されるロレックスを選ばず、あえて好き嫌いが大きくわかれる他ブランドの時計を着ける「強いこだわり」が作風に結び付いているのではないでしょうか。
映画監督の腕時計は、調べるとまだまだピックアップできそうなので、ご好評いただければ更に深堀りしてみたいと思います。
ではまた!