みなさま、こんばんは!

今週も新連載の《今さら聞けないシリーズ》をお届けしていきたいと思います。この新企画では、高級腕時計にあまり詳しくない方、これから勉強していきたい方へ向けて「今さら聞けないよ!」といった、高級腕時計の基本的な事をわかりやすくお伝えしていきます。

第20回目となる今回は

高級腕時計入門編】:レトログラード

機械式時計に搭載されている扇形の機構。扇の端まで到達した針が、瞬時に戻る『レトログラード』と呼ばれるこの機構は、搭載されていることは見たことあるものの、「どのような機構なのかまではわからない」という方もいらっしゃるかと思います。そこで今回は『レトログラード』の基本的な知識や歴史、代表モデルについて解説いたします。

『レトログラード』とは

『レトログラード』とは、扇状に往復運動をする機構のことです。フランス語で”逆行”を意味しており、針が一定の位置まで来るとバネの力で元の位置まで一瞬で戻り、再び動き出すという仕組みです。時刻や日付、曜日などに用いられ、一般的な時計の動きとして見られる「円状に針が回る」のではなく、「針が行ったり来たりする」動きが見られるため、ギミックとして活用している時計が数多くあります。

『レトログラード』はその構造上、逆回しでの時間調整ができない仕様になっています。逆回しをして時刻調整を行うと故障の原因となってしまうため、注意が必要です。

『レトログラード』の歴史

『レトログラード』の起源は諸説ありますが、17世紀後半にはこの機構を備えた懐中時計が登場していたと言われています。18世紀中頃には【ブレゲ】の創業者で天才時計師として名高い「アブラアン=ルイ・ブレゲ」が製作した懐中時計に『レトログラード』が採用されました。しかしその後腕時計に”より高い精度”が求められるようになると、一時的ではありますが『レトログラード』が採用される機会は少なくなっていきます。

そして1990年代。かの有名な「ジェラルド・ジェンタ」や「ピエール・クンツ」、「ダニエル・ロート」が積極的に『レトログラード』機構を採用したことによって、一時ブームが起こります。特に独立時計師の「ピエール・クンツ」は、”『レトログラード』の魔術師”という異名を持つことで有名です。

『レトログラード』搭載の代表モデル

ここからは『レトログラード』を搭載している代表モデルを紹介します。

1.【ブレゲ】
『クラシック』

「アブラアン=ルイ・ブレゲ」によって作られた懐中時計を彷彿とさせるこちらは、手彫りのギョーシェ文字盤に、”パワーリザーブ”と”スモールセコンド”を『レトログラード』で表示しています。ブルースチールのブレゲ針やケースサイドのコインエッジなど、【ブレゲ】ならではの意匠が美しい1本です。

2.【パテックフィリップ】
『パーペチュアルカレンダー レトログラード』

世界三大時計の中でも”雲上ブランド”と呼ばれる【パテックフィリップ】で、複雑機構に位置する『レトログラード』。グランドコンプリケーションモデルに搭載されていることも多く、手にできる人は一握り。その技術力と上品な仕上がりは、まさにトップに相応しい逸品です。

3.【ジェラルド・ジェンタ】
『レトロファンタジーミッキーマウス』

【パテックフィリップ】『ノーチラス』、【オーデマピゲ】『ロイヤルオーク』の生みの親としても有名な【ジェラルド・ジェンタ】。彼の作品の中でも特にユニークとされるこちらは、ミッキーマウスの腕が分針となって時刻を表示します。現在【ジェラルド・ジェンタ】は【ブルガリ】の傘下。2022年にこちらのモデルが復活したことで話題となったことは記憶に新しいですね。

4.【ヴァシュロン・コンスタンタン】
『パトリモニーレトログラードデイ/デイト』

【ヴァシュロン・コンスタンタン】は1930年代頃から『レトログラード』搭載時計を製作していたことで知られています。こちらのモデルは、1950年代のデザインに着想を得たアワーマーカーと針を備え、省略形となることの多い”曜日表示”を『レトログラード』で示し、まるで主役のように文字盤にデザインされています。

5.【ハリーウィンストン】
『オーシャントリプルレトログラード』

【ハリーウィンストン】も1990年代から『レトログラード』搭載モデルの開発に力を入れてきたブランドです。こちらのモデルは、”12時積算計”、”30分積算計”、”60秒針”を『レトログラード』で表わしております。世界的なジュエラーブランドでありながら、3つの『レトログラード』を搭載してしまうのは、高い技術力を持っている証ですね。

まとめ

『レトログラード』について解説しましたが、いかがでしたでしょうか。

特徴的な扇形で、瞬時に切り替わる針の動きやユニークなデザイン性を楽しめる『レトログラード』は、腕時計の顔となる文字盤の印象を大きく左右する機構のひとつ。各社それぞれに特徴を持ち、そのどれもが魅力的。是非ともご自身の好きな1本を探してみていただければと思います。

今回も、この記事を参考に一人でも多くの方が高級腕時計に興味を持っていただければ幸いです!

ではまた!

コミットtv 八木コラム