みなさま、こんばんは!

今週も新連載の今さら聞けないシリーズ》をお届けしていきたいと思います。この新企画では、高級腕時計にあまり詳しくない方、これから勉強していきたい方へ向けて「今さら聞けないよ!」といった、高級腕時計の基本的な事をわかりやすくお伝えしていきます。

第18回目となる今回は

高級腕時計入門編】:スプリットセコンドクロノグラフ

高級時計には、さまざまな機能があります。その中でも『スプリットセコンドクロノグラフ』は、いくつかあるクロノグラフの機能の中でもとくに複雑なものとして知られています。しかし、実際に『スプリットセコンドクロノグラフ』がどのような機能なのか説明できる人は多くないのも事実です。今回は、意外と知らない『スプリットセコンドクロノグラフ』の機能や仕組みについて解説いたします。

『スプリットセコンドクロノグラフ』とは?

スプリットセコンドクロノグラフ=

2本の針で2つのラップタイムを計測できる機能

『スプリットセコンドクロノグラフ』とは、クロノグラフ秒針とスプリット秒針の2つの秒積算計針を同軸に備え、2つのラップタイムが計測できる複雑機構になります。

スタートボタンを押すと重なった2本の針が同時に動き出し、スプリットセコンド用ボタンを押すと、一方の秒針だけが停止し、もう一方は止まらずにそのまま”分かれて”進み続けます。もう一度スプリットセコンド用ボタンを押すと、停止していた針が動いている針の位置まで瞬時に移動し、再び時刻を計測できるという設計です。主に2人の走者のタイム計測や、レースのラップタイム計測などに使われます。

フランス語では『ラトラパンテ』とも呼ばれ、数あるクロノグラフ機能の中でも最も複雑な機構として知られています。もともとは1880年代に懐中時計で登場し、1900年代になってから腕時計にも機能が搭載されるようになりました。そんな『スプリットセコンドクロノグラフ』の製造は非常に難しいため、技術力のある一部のブランドでしか製造はされていません。

『フライバッククロノグラフ』との違い

両者の違いはとてもシンプルで、仕組みと針の数になります。

『フライバッククロノグラフ』は1本の計測用の針を1度の操作で再計測する

それに対して

『スプリットセコンドクロノグラフ』は2本の針で計測します。

『スプリットセコンドクロノグラフ』の構造

一般的な『クロノグラフ』は、クロノグラフ針に専用の歯車がついています。この歯車は普段は動いておらず、クロノグラフ計測ボタンが押されると動き出す仕組みとなっています。

対して『スプリットセコンドクロノグラフ』の場合、一般的なクロノグラフ秒針と歯車に加え、スプリット秒針と歯車も備えています。

 *一般的な『クロノグラフ』
【クロノグラフ秒針+クロノグラフ用歯車】

*『スプリットセコンドクロノグラフ』
【クロノグラフ秒針+クロノグラフ用歯車】
          +
【スプリット秒針+スプリットセコンド用歯車】

これらの2つの秒針と2つの歯車は同軸に組み込まれ、連結し、普段は一緒に動きます。しかし、『スプリットセコンドクロノグラフ』の計測ボタンが押されると、”クランプ”と呼ばれる部品がスプリットセコンド用歯車を挟んで連結を切ります。このとき、スプリット秒針用の”ハートカム”と呼ばれる部品がクロノグラフ用歯車と同時に動きます。これによってスプリットセコンド用のボタンを再び押すと、スプリット秒針はクロノグラフ秒針と重なる仕組みとなっているのです。

『スプリットセコンドクロノグラフ』はなぜ珍しいのか?

クロノグラフ機能を備えた時計は数多くありますが、『スプリットセコンドクロノグラフ』を備えた時計はほとんど見かけることはありません。表題にある通り「なぜあまりみかけないのか?」と質問をいただくことがありますが、一言で表わせば「難易度が高いから」です。

「クロノグラフにもう1本針を足しただけなのに、、、?」と感じる方もいるでしょう。しかし、『スプリットセコンドクロノグラフ』は2本同時にタイム計測をするため、ムーブメントにかかる負荷が非常に大きく、製造には高度な技術を要するのです。

これらの2つの秒針と歯車は、同軸に組み込まれているうえに、針を動かす力は小さく、非常に止まりやすい構造となっています。また、針の軸も長くなるために抵抗が大きくなり、更に止まる可能性が高まるのです。

このように、『クロノグラフ』を作れるブランドであっても、不具合の起こりやすい『スプリットセコンドクロノグラフ』は、生産において高いリスクを伴うことから、おいそれと簡単に製造出来ず、その結果製造個体が少なくなり、珍しい存在へとなってしまっているのです。

まとめ

『スプリットセコンドクロノグラフ』について解説しましたが、いかがでしたでしょうか。

『クロノグラフ』の頂点と称される『スプリットセコンドクロノグラフ』は、その製造に非常に高度な技術を要するため、作れるブランドも少なく、とても希少な時計と言われています。もちろん価格も高価になる傾向で、なかなか簡単には手に入れることが出来ません。しかし、だからこそ時計ファンたちを魅了し続け、憧れの時計とも言われるのでしょう。

今回もこの記事をご覧頂いたことで、高級腕時計に興味を持っていただければ幸いです!

ではまた!

コミットtv 八木コラム