みなさま、こんばんは!
機械式時計について技術者視点で語る本コラム。第15回となる今回は、
『時計の取り扱い~リューズ操作について』
こちらをテーマにお話ししていきます。
ほぼ全ての機械式腕時計に備わる「リューズ」。
時刻合わせを始めとした時計の操作に必要不可欠なパーツです。
今回は、この「リューズ」の操作方法について、知っておくと 「故障かな?」と心配になってしまうことが減るかもしれない豆知識について、お話ししていきたいと思います。
ゼンマイの巻き上げ
自動巻きの時計は腕につけていれば、ずっと動き続けるものだと思っていませんか?自動巻きの時計は、内蔵されたローターが腕の動きで回転し、ゼンマイを巻き上げる仕組みです。従って腕から外すことが多かったり、腕の動きが少ないと時計を駆動させるための十分な動力が得られず、精度が乱れたり、止まってしまうことがあります。
そのため、1日最低でも8~10時間ほど腕に着用する必要があります。
腕から外すことが多い方、デスクワークなどで動きの少ない方は、長時間着用していても駆動力不足になる可能性がありますので、毎朝ゼンマイを巻き上げ方向に10~20回ほどゆっくり巻き上げてからご使用頂くと確実です。
自動巻き時計であっても手巻き時計と同様にリューズを巻くことでゼンマイは巻かれます。ただ、自動巻き時計はローターの巻き上げによってゼンマイが巻かれる設計となっているため、リューズでの巻き上げは飽くまでも補助的に使うのがベストです。
完全に時計が止まっている状態から使い始める場合は、ゼンマイを手巻きでフルに巻き上げるのではなく、20~30回ほど手で巻き、後はローターの動力で巻き上げをしたほうが機械に負担がありません。
必要以上にゼンマイを巻き上げることで、ゼンマイや自動巻き機構のパーツが摩耗する可能性もありますので、自動巻き時計であればローターの動力に巻き上げを任せましょう。
もちろん、大前提として丁寧に、ゆっくりリューズ操作を行う必要がありますので、時間のない朝もあまり急いでゼンマイを巻き上げないようご注意ください。
日付の早送り
機械式時計には「カレンダー操作禁止時間帯」というものがあります。その具体的な時間帯は一般的に午後8時から午前4時。この時間帯はカレンダー板の歯車と時間表示の歯車が噛み合っており、時計自体が自らの力で日付を変更しています。
そのため、この時間帯に無理に日にちを変更してしまうと歯車が欠けてしまい、修理が必要になってしまいますのでご注意ください。
ここで、間違いのない日付修正の方法をご案内します。
①リューズを最後まで引き出す。
②6時頃を表示するように針を進める。
(一番安全な針の位置です。)
③リューズを一段戻し、カレンダーを合わせたい日の前日に合わせる。
(6日に設定する場合には5日に合わせます。)
④リューズを再び最後まで引き出して針を時計回りに進め、
針が0時を過ぎるときに日付が変わることを確認する。
(切り替わったこの時が午前0時です)
⑤日付が切り替わったのを確認したら針を時計回りに進め、
現在時刻に合わせる。
⑥日付と時刻を合わせたらゼンマイの巻上位置までリューズを戻す。
リューズがねじ込み式のモデルはしっかりねじ込む。
なお、一部のモデルを除き一般的な機械式時計は、2・4・6・9・11月(小の月)の月末の翌日は、手動によるカレンダーの調整が必要です。
時刻合わせ
時計の遅れ・進みを「精度」という言い方をし、日に何秒程度の差が出るか、を表すのに「日差」という言葉を使います。
一般的な機械式時計の精度は日差-10~+20秒ほどが想定されます。
年代を経たヴィンテージであれば日差-30秒~+60秒程度が許容範囲。
日差10秒~30秒ほどは故障ではなく、機械式時計にとっては許容範囲と思いましょう。
また、機械は姿勢差(腕に着けているときに様々な向きになること)や温度差、巻き上げ具合でも影響を受けるため、長く使用しているとこの許容範囲を超えることもあります。
また、それとは別の理由で「ピッタリ時報に合わせて時刻合わせをしたのに、すぐに1分ほど遅れてしまう」という不具合の相談を受けることがあります。
これは、バックラッシュと呼ばれる機構が原因で起こります。
バックラッシュとは、歯車と歯車の隙間。
駆動力となる二つの歯車が正しくかみ合うには、ある程度の隙間がなくてはなりません。これがないと歯と歯がぴったりくっつき、摩耗や余分な力がかかってしまう原因となります。
また、回転もスムーズにいかなくなってしまう、熱膨張を考慮した時、全く動かなくなってしまうといったトラブルも発生します。
こういった精密機械である時計ならではのバックラッシュなのですが、その副作用として隙間ができているゆえ時刻合わせ時に針がずれてしまう、という現象に繋がっているのです。
これは機械式時計よりもクォーツ時計でより目立ちやすいですが、機械式時計でもモデルによっては1分近くのズレを生じることがあります。
多少のズレはこのバックラッシュが原因と考えられ、ほとんどのメーカーが許容範囲としております。そのためあまり神経質になる必要はありません。
このバックラッシュによる針の動き出しの遅れを少なくさせるためには、時刻合わせ時、希望の時間に合わせる最後の仕上げは「針を逆回転」させて行うことが有効です。
針を逆回転させることで、バックラッシュによる針の動き出しの遅れがなくなり、「時報に合わせてぴったり合わせたはずなのに、分針が1分ほど遅れて動き出してしまう」という不具合を解消することができます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
普段、何気なく操作しているリューズも、内部の構造を理解して丁寧に扱っていただくことで、ご愛用の時計を良好なコンディションに保つことにつながります。
本記事が皆さまにとって有益な情報となり、高級腕時計に対する興味が少しでも沸いたようであれば幸いでございます!また、ご不明点は直接ご質問いただければしっかりとお答えさせていただきますので、みなさま是非ご来店、お問い合わせをお待ちしております。
次回もお楽しみに!ではまた!