今回も前編に引き続き、コミット銀座(以下:当店)の主観による“経済から見る高級時計相場”をお送りしていきます。

こちらの後編では、皆さんも気になるであろう高級腕時計の今後の行く末についてお話ししていければと思いますので、是非最後までご覧ください。

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日本円は安定資産という幻想

近年、株が暴落すると安全資産の日本円が世界で買われるという定説が存在しております。現に株が暴落すると同日は円高になる傾向が強かったのです。リーマンショック後の為替相場は2000年初頭までそのように連動しておりました。

その当時から長らく日本銀行は世界最低水準の金利であったため、世界では日本円を売り、他の通貨が買われておりました(これはリスクオンの現象です)。要するに、リーマン後、リスクオフになることから、円キャリートレードされたものが巻き戻されることで、大量に円が買い戻されて円高になっていたのではないでしょうか。その他の理由ももちろんございます。しかしながら日本円がとても安全資産だからとは思えません。

今回のコロナ経済危機前に実は、ユーロがマイナス金利になり、日本円よりも金利が安くなっていました。その為、リスクオフ時の低金利通貨の巻き戻しは日本円ではなく、ユーロだったのではないかと推測できます。ユーロも現在は高くなっております。当初、ヨーロッパがコロナで大変なことになっていても、ユーロが安くならない理由はユーロキャリートレードの巻き返し分があるからなのではと予測できるのではないでしょうか。

キャリートレードとは?

機関投資家やヘッジファンド等の資金調達、運用手法とされる取引のことで、低金利の通貨で資金を調達し、高金利の通貨に換えて資産運用を行い、運用益以外にも金利の利ザヤを稼ぐ取引のことを言います。円で資金調達をおこなう場合を「円キャリートレード」と言い、調達した円をドルに換え、高い金利の米国債等で運用を行なったりします。なお、円キャリートレードが増えると円が売られやすくなることにより、円安を引き起こす要因になるとされています。

コロナで経済が停滞しているのに実物資産は値上がり中?

ここで重要な話をしておきます。コロナで世界的に紙幣を増刷しております。世界中で2020年初頭と比べて世界中のマネーストック、ある意味「マネーの総量」が約1.8倍に増加しているという統計も見受けられます。例えば、総マネー量が2倍に増えたら、マネーの「額面」の価値は2分の1になるでしょう。10倍に増えたら10分の1になるでしょう。供給量が増えたら額面の価値が下がる=物価が上がるのは当然なのです。

お金の価値の減少に気づいていないのは世界で日本人だけ?

紙幣は年々増刷されて、世界中のお金の総量がどんどん増えております。要するに「1円」「1ドル」の価値がどんどん下がってきているのです。日本は世界でも極まれな30年近く物価が上がらない国として有名です。1990年と2021年を比較しても、マクドナルドのビッグマック(370円⇒390円)や、吉野家の牛丼(400円⇒420円)の価格には、ほとんど変化がありません。世界の先進国で既にビッグマックは日本が一番安く、スリランカなどと同レベルの値段なのです。

しかし、50年前、80年前となると、さすがに日本でも額面は安かったのです。その証拠が「1円札」紙幣の存在です。一説だと戦艦大和の建造費が2億円だったとの事。その昔の日本では
健全に物価が上昇しておりました。

日本では2000年の1万円と2021年の1万円は同等と思われておりますが、世界的に考えると、2000年当時の1万円=「100ドル」で買えた品物やサービスは、2021年の今、海外において2~3万円「200-300ドル」出さないと買えなくなっております。当時のロレックスの定価からしても2~3倍になっています。ベンツ、ポルシェ、フェラーリ等の輸入車も2~3倍になっているのです。

フェラーリで言うと1995年のF355は新車で定価1,200万円、2004年のモデナは1,600万円、最近のV8フェラーリは4,000万円近くします。同じグレードのフェラーリですので、新車で買う場合、金額を多く出さないと同等品を買えないという事です。お金の価値が下がってるとも言えます。また、国内でもたくさん指標はあります。例えばプロ野球選手で言うと、当時最高年棒だった落合選手が1億円程度です。その後、清原選手が3億円と最高金額を更新しました。しかし今の最高年棒は7億円、8億円でしょう。ジャンボ宝くじも昔は1億円でした。今は10億円ですね。(笑)

同じトップランクの物を比較すると、額面が増しているのです。落合選手の10倍の結果を単年で出しているのであればこの説は成りたちますが。お金の価値で考えず、物の価値を指標にすると、同じものを買うために、昔より多くの金額が必要になっているということがわかります。お金の総量が増えて、お金の価値が下がっている証拠です。

ガラパゴス状態の日本の思考

アメリカ人はお金を貯めないなどとよく言われています。日本は貯金が美徳、堅実と昔から教育されております。そのあたりの価値観は世界でも日本がずれております。あくまで良し悪しは別とします。日本以外の国では、少なからずマネーの価値は減少していくと認識されていると思います。よって、株や金融、実物資産に交換するわけです。お金を消費することと実物資産に換金することは別の話です。浪費と消費は別物です。はたして、どちらが堅実なのでしょうか?2000年にロレックスを買っていたら?ピカソを買っていたら?マンションや不動産を買っていたら?そのあたりも考えると、高級腕時計を買う行為が資産防衛の為のヘッジになると気付くのではないかと思います。既に手にしているものがあれば、買っていて良かったと思われるはずです。今後も同じ流れを繰り返すと感じます。世界中で緊縮財政をやらない限りは。

リーマンショック後の実物資産の価値の推移

リーマンショック後に、ご存じの通り世界的に株は暴落しました。そして、その金融下落の穴埋めとして、不動産や他の多くの実物資産が投げ売りされ、値下がりが起こりました。その流れは、1990年初頭のバブル崩壊、2000年頃のITバブル崩壊、2008年リーマンショック、2020年コロナショックと約10年おきに株の崩壊から時期の差を持ちながら、それぞれの実物資産の下落連動がみられております。実は、腕時計の市場が最近のように高額取引が増え、熟成してきたのは2013~2014年頃からであり、趣味の時計から実物資産の一部としての認識と立ち位置の変換があったように思えます。アートに続いて実物資産の仲間入りを果たしたということです。

フィリップスが仕掛けた腕時計の実物資産化というパラダイムシフト

オークション市場において、極レアピースや歴史的意義の大きい個体といったごく一部の例外を除き、1億円の大台に届く腕時計は長年に渡り登場することはありませんでした。それを打ち破ったのが時計競売人のオーレル・バックス氏(現フィリップス)が仕掛けた2013年の「CHRISTIE’S DAYTONA LESSON 1」。ここから【ヴィンテージロレックス】のブームに火がついたものと思われます。

アートの国際市場でも、アーティストが作品最高額として約1億円「100万ドル」の評価をつけるのがポイントとなり、オークションマーケットで100万ドルにタッチすると、一気に200万ドル、300万ドルと値段が跳ね上がります。100万ドルという最低ラインが投資の基準としている大富豪が少なくないとも分析できます。近年だとバンクシーが良い例です。100万ドルの大台に乗るまで10数年かかりましたが、そこから1,000万ドル超えになるまでは、たった数年でした。

2013年のオークションで100万USドルを超える時計が出てからというもの、2億、3億、5億、17億と鰻上りに最高額の相場が上がってきました。そして【パテックフィリップ】【オーデマピゲ】【ロレックス】のバケットラグジュアリーモデルと、1,000万を超える腕時計が普通に流通され売買されるようになりました。しかもそれらのセカンダリーマーケットの金額は2~5倍となるものも少なくありません。2000年頃は300万円程度の時計でも最高額レベルとされており、近年珍しくなくなった文字盤がダイヤで埋め尽くされているモデルは旗艦店のショーディスプレイの置物であった感じがします。その時の値段は1,000万円。買うのはアラブの石油王ですか?などと冗談めかして言われるような状態でした。

1990年バブル崩壊からの10年おきの危機に対して、最後の危機が2008年のリーマンショックです。コロナの危機はまだ終息しておりません。これからどうなっていくか推測はできないでしょう。そして、今の世界で認識されている熟成された高級時計市場として、世界株安に向き合った履歴がないとも感じています。そこで、熟成された歴史の長いアート市場にて分析したいと思います。

「良いもの」に限れば再び価値は上昇し続ける

アート、ヴィンテージコイン等は、長年右肩上がりのチャートを形成しています。なんと10年、20年、30年、50年、100年チャートでみても、それぞれ右肩上がりなのです。スポットで見れば暴落はありますが、数年で元に戻り、上昇の線路に戻っております。

例えば、1987年のクリスティーズロンドンにおいて、安田生命がゴッホの「ひまわり」を当時の最高金額を更新する53億円で落札しました。その落札価格は予想価格の2倍以上。高値掴みのジャパンマネーと揶揄され、その後、1990年のバブル崩壊により大損したと相当なバッシングがあったそうです。しかし、バブル崩壊で半値以下になったと言わていた「ひまわり」が、今では300~400億するのではないかとも言われております。

アートも実物資産であり、世界のとんでもない富豪が行き着く超高額のコレクションだと思います。1990年のバブル崩壊で下落したら、連動して当然値下がりします。その後、徐々に数年で元値に戻り、更に値を上げていきますが、また2000年のITバブル崩壊で下落します。その後また戻り、上昇を繰り返します。2008年のリーマンショックでも同じく。アートディーラー、時計ディーラーの見解で一致しているものは、「良いものは下がらない。良いものは必ず欲する人が存在する。」と言うことでしょう。

超高額品だけが「良いもの」ではない

ここで言う「良いもの」とは、数千万円するモデルのことではありません。「良いもの」の定義は、それぞれの個体のコンディションや付属品の有無など、同じロレックス、同じモデルの中でも異なりますが「良いもの」=「需要は高く、供給が少ないもの」であることは共通しています。

今後、アートと同じく高級腕時計も同様のチャートを描くと予想します。経済危機があった際には一旦は下がりますが、良いものから順番に巻き戻すはずと考えられます。値を下げたとしても、下がった所で買う人がいるからです。すべては需要と供給の法則に基づき、値下がりした良質な個体の奪い合いが終われば、希少価値により上昇に転じると言う流れです。

良いものは年々減っていき希少価値が生じる

現行モデルは日々製造されて個体数が増加するため、全体数が把握できないのと、今後、急に増産して価値が変動するリスクがあります。

一方、廃番モデルは、世界に現存するのが約〇〇本と個体数が定まっており、メーカーでさえ、時間を巻き戻して増産する事は不可能です。そのような高級腕時計は購入希望者が多くおり、どのような不況時であっても資産性だけでなく、趣味やコレクションとしても購入希望者は後を断ちません。高級腕時計には、各時計それぞれにストーリーや製造秘話など、一言で語れない価値が多く含まれています。そして、装着する楽しみと、ドル預金のような資産性=実益を兼ね揃えた素晴らしい趣味のひとつであると思います。これらを参照に、是非とも皆様の資産に高級腕時計を加えてもらえたらと思います。

※本記事では、統計データを多々用いておりますが、あくまで時計相場の展望を説明しておりますので、引用文献の記載を行いません。データ上の数値の誤差につきましてはご容赦ください。

まとめ

前編、後編に渡ってお話ししてきましたが、実物資産として認められてきている高級腕時計の市場は、多くの需要によってこれから更に拡大していくと思います。

未だコロナが収束していない状況ではありますが、これを機に次に来る経済危機を見据えて、高級腕時計による資産形成を考えてみてはいかがでしょうか。

本記事が皆さまの腕時計売買において、少しでも参考になれば幸いです。

時計の資産性