みなさま、こんばんは!

 

機械式時計について技術者視点で語る本コラム。第9回となる今回は、

 

『機械式時計は、針を逆回転させてはダメ!?』

 

こちらをテーマにお話ししていきます。

 

一般的によく言われている『時刻合わせの際は針を進行方向(時計回り)に動かして合わせるように』という注意事項。店頭でお客様対応している際にも、「針は逆回転させてはいけないのですよね?」と心配されている方が多くいらっしゃいます。でも本当にそうなのでしょうか?

今回は、そんな皆さまの不安が少しでも解消されるよう、順を追ってご説明していきたいと思います。ぜひ最後までご覧ください!

 

 

逆回転は時計にとって負担?

 

インターネットで「時計 時刻合わせ 逆回し」と検索してみると、こんな結果が出てきます。

 

・機械に負荷が掛かるため絶対にダメ
・数時間程度であれば可能
・針飛びする時計については、合わせたい時間より少し針を進めて、そして逆戻しし、リューズを押しこむテクニックが有効
・特に問題なし
※針飛び・・・時刻合わせ後、リューズを押し込む際に分針の位置が数分ずれてしまう現象

 

一体、どれが正解なのでしょうか?
まず、「絶対にしてはダメ」という見解についてですが、こちらは間違いでございます!

 

私が技術者として触れてきたムーブメントに関して言うと、時刻合わせの際に針を逆回転させると壊れてしまうものはほとんどありませんでした。 一般的な構造の、シンプルな2針、3針、4針のモデルは、時刻合わせ時に針を逆回転させても故障するリスクはほぼ無いのです。

 

 

インターネットに書いてある情報は間違い!?

 

当店で最も取り扱い本数が多いブランド【ロレックス】に関して言えば、針を逆回転させてはダメ!というモデルは正直思い浮かびません。

 

実際にインターネット検索してみると、「機械式時計の歯車は同一方向に回る性質があり、逆回転させると内部パーツに大きな負担が掛かります。」「歯車や周辺部品の故障の原因となる可能性もあります。」などのコメントが多数見受けられますが、ハッキリ申すとこれは間違いです。

 

針を逆回転させた時に、内部の歯車も一斉に逆回転するとお考えの方もいらっしゃるかと思いますが、実際は針が取り付けられている近辺の歯車のみが逆回転しており、それ以外は止まった状態となります。つまりは、時刻合わせ時にムーブメントへかかる負担は、正回転させた時、逆回転させた時で大きくは変わらないのです。日付の早送り機能が付いていないモデルで、午前0時前後で針を行ったり来たりさせて日付を進ませる方法が取扱説明書に記載されていることがその証拠です。

 

また、『GMTマスターⅡ』などの短針単独早送りが可能なモデルに関しては、海外に行った際、ホームとの時差分短針を進めたり戻したりするのが正式な使用方法となりますので、こちらも針を逆回転させて問題ありません。

 

 

針を逆回転させてはいけないモデル

 

 

ここまで、針を逆回転させても基本的には問題無いとお話ししてきましたが、一部例外もございます。

まずその1つが"レトログラード式の時分針を持つ時計"。

こちらは、針が一定方向に進む前提で設計されており、逆回転させてしまうと故障のリスクが高まりますので避けていただいたほうが良いです。

 

 

そして、『フランクミュラー クレイジーアワーズ』。

バラバラに表示されたインデックスに合わせて、時針がジャンプして時刻を示す"クレイジーアワーズ"。非常に遊び心あふれた時計ですが、こちらも針が一定方向に進む前提で設計されているため、逆回転は避けてください。

その他、"パーペチュアルカレンダー"、"ミニッツリピーター"などの複雑機構搭載モデルに関してもご注意いただいた方が良いかと思います。

 

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

基本的に、シンプルな構造の3針時計などは、針を逆回転させただけで壊れてしまうことはほぼありませんので、安心してご使用いただければと思います。ただし、針を逆回転してすぐにカレンダーの早送りを行うと、時間帯によっては故障に繋がるリスクが高まりますので十分にご注意ください。

また、一部の複雑な表示機構を備えた時計に関しては、時刻合わせの際に針を逆回転させず、正回転で合わせるようにしましょう。

本記事が皆さまにとって有益な情報となり、高級腕時計に対する興味が少しでも沸いたようであれば幸いでございます!また、ご不明点は直接ご質問いただければしっかりとお答えさせていただきますので、みなさま是非ご来店、お問い合わせをお待ちしております。

次回もお楽しみに!ではまた!

機械式時計徹底解剖