映画やテレビなどで俳優が着用した時計にフォーカスする「Actor’s Watch」。
第9弾の今回は、007シリーズの3回目をお送りいたします。
今回取り上げるのは、いずれも少ない出演本数で降板となった2代目ジェームズ・ボンドのジョージ・レーゼンビーと4代目ジェームズ・ボンドのティモシー・ダルトン。この2人の腕元に注目していきます。
【2代目】ジョージ・レーゼンビー
ショーン・コネリーの降板後、2代目ジェームズ・ボンドに抜擢されたのは演技経験の無いオーストラリア人モデル、ジョージ・レーゼンビーでした。
*出典元:https://www.jamesbondlifestyle.com/news/george-lazenby-guest-honour-james-bond-oslo-gala
スキーのインストラクター経験もあるスポーツ万能のレーゼンビーは、オーディションでアクションの上手さをアピール。数百人の候補者の中から見事ジェームズ・ボンド役を射止め、ショーン・コネリーの跡を継ぐことになります。
『女王陛下の007』のサブマリーナーとプレデイトナ
On Her Majesty’s Secret Service(1969)
バイオテロを目論む悪の組織「スペクター」のブロフェルドと対決するジェームズ・ボンド。
その腕につけられているのは、ショーン・コネリー時代を受け継ぐロレックス サブマリーナー(Ref.5513)とシルバー文字盤のロレックス クロノグラフ(Ref.6238) 通称「プレデイトナ」。
*出典元:https://bamfstyle.com/2017/12/07/bond-ohmss-1-tux-car/
*出典元:https://www.rolexmagazine.com/2005/03/chapter-5-george-lazenby-on-her.html
1963年頃に発売された初代デイトナ(Ref.6239)に先駆け、1950~1960年代にかけて製造されたこの三つ目のクロノグラフは、ヴィンテージロレックス市場において大きな人気を博すモデルであり、デイトナに「前」を意味する接頭辞「PRE」を付けて通称「プレデイトナ」と呼ばれています。
劇中ではボンドがロープウェイを使って窮地から脱出する際、ロープウェイの歯車が停止する時間を測るため、極めて実用的にこの「プレデイトナ」のクロノグラフが使われていたのが印象的です。
*出典元:https://www.rolexmagazine.com/2005/03/chapter-5-george-lazenby-on-her.html
この作品のジェームズ・ボンドはショーン・コネリーとの差別化を図るためか、秘密兵器などに頼ることなく自分の肉体と拳銃だけで敵と戦う原作回帰のキャラクター設定となっており、時計についても同様に、秘密兵器ではなく、現実的な小道具として使用されているのが特徴的です。
新生ジェームズ・ボンドの期待を背負って登場したジョージ・レーゼンビーでしたが、ショーン・コネリーのイメージを払拭するには至らず、残念ながらこの一作だけで降板となってしまいます。
*出典元:https://www.rottentomatoes.com/m/on_her_majestys_secret_service
しかし現在では、激しい肉体派のアクションや悲劇的なラストから「早すぎた傑作」として再評価が進み、ファン投票などでは常にシリーズ上位に入る人気作となっています。
【4代目007】ティモシー・ダルトン
歴代007の中で最も出演作が多く、出演期間が長かった3代目ロジャー・ムーアの跡を継いだのは、数々の名優を輩出したシェイクスピア劇団出身の演技派、ティモシー・ダルトン。
*出典元:https://www.007museum.com/Dalton_Timothy.htm
ロジャー・ムーアの軽妙洒脱でエレガントなボンド像から、野性的でシリアスなボンド像へとイメージチェンジが図られ、その流れは21世紀のダニエル・クレイグ版ボンドへと引き継がれています。
『007 リビング・デイライツ』
The Living Daylights(1987)
東西冷戦末期の世相を反映し、敵はスペクターではなくソ連のKGB。
東側のチェコスロバキアやソ連を舞台に激しい諜報戦が繰り広げられます。
ティモシー・ダルトン演じる4代目ジェームズ・ボンドが着けているのは、タグ・ホイヤーの「プロフェッショナル1000 ナイトダイブ」(Ref.980.031)。PVDコーティングされ、文字盤の全面が蓄光となっており、暗闇での視認性が極めて高いクォーツモデルです。
*出典元:https://timeandtidewatches.com/list-the-five-most-important-tag-heuers-on-film/
タグ・ホイヤーの時計がボンドウォッチとして採用されたのは、数あるシリーズ中でも『リビング・デイライツ』のみであり、ある意味希少な1本と言えるのではないでしょうか。
*出典元:https://www.calibre11.com/bond-tag-heuer/
ちなみにホイヤーがTAGグループに買収され、「タグ・ホイヤー」となったのは1985年。
『リビング・デイライツ』撮影のタイミングはまさにこのホイヤー転換期にあたっており、時計屋としては劇中の時計が「HEUER」モデルなのか「TAG HEUER」モデルなのかが気になるところではあります。劇中で時計がアップになるシーンは無く、TAGなしの「HEUER」モデル説が有力ではありますが、現時点で確定は難しそうです。
『007 消されたライセンス』のサブマリーナー
Licence to Kill(1989)
こちらは麻薬王に親友を殺され、私情に囚われたことで「殺人許可証」を剥奪されたジェームズ・ボンドが任務と復讐の間で苦悩する異色作。007の腕にはショーン・コネリー時代からの伝統、ロレックスの「サブマリーナー」(Ref.16610)が着けられています。
*出典元:http://nuovo-identita-london-orologi.blogspot.com/2016/11/watch-out-mr-bond-007s-watches-in-review.html
映画のシリアスな作風に合わせる為か秘密兵器としての機能はありません。
しかし、シリーズの中でも特に水中や海中でのアクションシーンが多い本作において、サブマリーナー本来のダイバーズウォッチとしての機能性が存分に発揮されていると言えるのではないでしょうか。
*出典元:https://timeandtidewatches.com/the-complete-list-of-bond-watches/
それにしてもボンドが機械式時計を身に着けるのは1974年の「007 黄金銃を持つ男」以来、なんと15年ぶり!スパイ業界にも機械式時計復興の兆しが見えてきたということかもしれません。
*出典元:https://screenrant.com/james-bond-how-timothy-dalton-almost-played-007-before-living-daylights/
ティモシー・ダルトン版ジェームズ・ボンドは故ダイアナ妃が「最も原作に近い」と評するなど評価は高く、またシリアスな作風が新たなファンを呼び込んだことで次回作が期待されました。しかしこの後、007シリーズの権利を巡る訴訟が巻き起こることによりシリーズの制作は5年もの間ストップ。これによりティモシー・ダルトンはわずか2本の出演で降板することになります。
まとめ
偉大過ぎる前任者、ショーン・コネリーやロジャー・ムーアの後を継いだジョージ・レーゼンビーとティモシー・ダルトンは、残念ながら共に少ない本数の出演で降板となってしまいました。しかし、両者に共通するワイルドで人間味のあるジェームズ・ボンド像は、現在では共に高い評価を得ています。
また劇中に登場する時計も決して奇をてらわず、いずれも時計本来の機能や特性を活かしたリアリティのある使われ方でその存在感がアピールされています。ユニークな秘密兵器としての時計よりも時計本来の機能でジェームズ・ボンドをサポートする、そんな実用的な時計の描かれ方に好感を抱く時計愛好家も多いのではないでしょうか。
*出典元:http://bondfanevents.com/goldeneyes-pierce-brosnan/
さて、ティモシー・ダルトンの降板後『007』シリーズと時計の関係性は大きな変化を迎えます。そこには90年代以降、スイスの高級腕時計メーカー復興の立役者となった「とある人物」が大きく関わってきます。『007の腕時計4回目』では5代目ジェームズ・ボンド、ピアース・ブロスナンだけでなく、関係性のある人物にもフォーカスしてみたいと思いますのでお楽しみに。
ではまた!
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