映画やテレビなどで俳優が着用した時計にフォーカスする「Actor’s Watch」。
第76弾の今回は、「映画に登場したロレックス デイトナ」をお送りします。
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カーレーサーのニーズに応え1963年に誕生した『コスモグラフ デイトナ』は、ロレックスの現行モデルとしては唯一のクロノグラフであり、コミット銀座でも常に高い人気を誇る”スポーツクロノグラフ”の象徴とも言える腕時計。
またデイトナは、腕時計が高い資産性を有する現代において、高級腕時計全般における資産性や相場を測るための”指標”として、多くの高級腕時計ユーザーから注目を集め続けている存在でもあります。
今回はそんな「ロレックス デイトナ」が登場する映画に注目してみたいと思います。
『007』シリーズに登場したデイトナ
『女王陛下の007』のジョージ・レーゼンビー
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悪の組織「スペクター」が企てたウィルス兵器によるバイオテロ。国連の意向によって、MI6はジェームズ・ボンドをバイオテロ阻止の任務から外すが、ボンドはMI6の命令を無視し、スペクターの首領であるブロフェルドを倒すため敵地へと潜入する。
『007は二度死ぬ』(1967)を最後にショーン・コネリーが007シリーズから降板。二代目ジェームズ・ボンドを拝命したのは、オーストラリアのファッションモデル、ジョージ・レーゼンビー。本作の撮影中に次回作の降板を自ら申し出たため、彼がジェームズ・ボンドを演じた作品はこの『女王陛下の007』(1969)1本のみですが、シリーズ屈指のリアルなアクションや、シリアスなストーリー展開から、007ファンには高く評価されています。
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本作でジョージ・レーゼンビーが着用しているのはロレックス クロノグラフ(Ref.6238)。1963年頃に発売された初代デイトナ(Ref.6239)に先駆け、1950~1960年代にかけて製造されたこの三つ目のクロノグラフは、デイトナに「前」を意味する「PRE」を付け、通称「プレデイトナ」と呼ばれています。
「007」シリーズの中でもリアル指向が強い作品だけに、秘密兵器としての機能は有しておらず、監禁されピンチに陥ったボンドが、脱出のタイミングを測る為にクロノグラフを利用するなど、極めて実用的な使われ方をしています。
☞#9 『007』ジェームズ・ボンドの腕時計【ジョージ・レーゼンビー編】を読む
1960~70年代の映画に登場したデイトナ
『レーサー』のポール・ニューマン
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プロのインディーカーレーサーのフランク(ポール・ニューマン)は、離婚歴のあるシングルマザーのエローラと出会い、結婚を果たす。しかしレースのことしか頭にないフランクに不満を抱いたエローラは、フランクの親友であるレーサー仲間のルー(ロバート・ワグナー)に心を奪われ始めてしまう。それを知ったフランクは、心を乱したままインディアナポリスでの重要なレースへと向かっていく。
ポール・ニューマンがレーサーとして多くのカーレースに出場したことは皆様よくご存知かと思いますが、彼がカーレースに興味を持ち始めたのは、この『レーサー』(1969)に出演したことがきっかけと言われています。
*出典元:https://usa.watchpro.com/
ポール・ニューマンは本作でデイトナを着用してはいないのですが、この映画の撮影中にポールの妻が安全運転を祈願してプレゼントしたと言われているのが、かの有名な「Ref.6239」。後に「ポールニューマンダイヤル」と呼ばれるようになる、独特の文字盤を備えた一本です。つまり、この映画がなければ「ポールニューマンのデイトナ」は存在しなかったかもしれません。ある意味「ヴィンテージロレックスの歴史を作った映画」と呼んでも過言ではないでしょう。
『恐怖に襲われた街』のジャン・ポール・ベルモンド
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女性を狙った連続殺人事件が発生したパリの街。事件を追うルテリエ警部(ジャン・ポール・ベルモンド)のもとに、変質的な犯人からの挑戦状が届く。ワイルドな型破り警部の活躍を描く『恐怖に襲われた街』(1975)は、パリの美しい街並みの中、ジャン・ポール・ベルモンドがノースタントで激しいアクションを魅せる犯罪映画。
本作で彼が着用しているのは、ロレックス デイトナ(Ref.6263)。1970年に登場した手巻デイトナの最終モデル、プラスティックベゼルが人気の一本です。こちらはベルモンドが愛用する私物の腕時計で、本作の他に『ベルモンドの怪盗二十面相』(1975)、『危険を買う男』(1976)でも着用が確認されています。
このRef.6263は後年、ジャン・ポール・ベルモンドから、息子であるF1レーサー、ポール・アレクサンドル・ベルモンドに受け継がれ、その後、2013年のクリスティーズオークションに登場。20,300スイスフラン(約2,500万円)で落札されています。
☞#18 ジャン=ポール・ベルモンドのロレックス デイトナ を読む
1990年代の映画に登場したデイトナ
『リービング・ラスベガス』のニコラス・ケイジ
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酒が原因で会社をクビとなり、妻子にも逃げられたベン(ニコラス・ケイジ)が、人生を終わらせる場所として選んだラスベガスを訪れる。そこで出会った娼婦とベンの愛と破滅を描いた切ないラブストーリー『リービング・ラスベガス』(1995)。本作でアカデミー主演男優賞を受賞したニコラス・ケイジの悲哀に満ちた演技に注目の一作です。
劇中、所持金が底をついたベンが酒代にするために質に入れた腕時計がロレックス デイトナ エルプリメロ(Ref.16520)。「93年製のデイトナがたった500ドル?」というセリフからもわかる通り、1990年代であってもあまりに安すぎる査定額。この後、いつものように時間を見ようとするものの、目を落とした左手首には腕時計が無いというシーンは、腕時計愛好家には切なさ満点でしょう。
『エアフォース・ワン』のウィリアム・H・メイシー
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アメリカ大統領(ハリソン・フォード)とその家族を乗せ、外交先のロシアから帰国の途に就いた大統領専用機「エアフォース・ワン」。その機内で大統領警護隊長と所持品検査をパスして機内取材にあたっていたテレビクルーたちによるハイジャックが発生。彼らの正体はロシア国粋主義テロリストだった。
元ベトナム戦争の英雄というアメリカ大統領が、自らテロリストとバトルアクションを繰り広げる、いかにもハリウッドらしいヒーロー映画『エアフォース・ワン』(1997)。そんな本作でロレックス デイトナ エルプリメロ(Ref.16520)を着用しているのは、エアフォース・ワンに搭乗した軍人、コールドウェル少佐を演じたウィリアム・H・メイシー。脱出時には他人を優先し、最後まで機内に残っていた責任感の強い実直な軍人の腕には、究極の実用腕時計であるデイトナが相応しく見えます。
『ギャラクシー・クエスト』のティム・アレン
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宇宙船プロテクター号に乗って銀河の平和を守る宇宙探査局の活躍を描いた、懐かしのSFテレビドラマ『ギャラクシー・クエスト』。そのドラマを「ノンフィクション」と勘違いした善良な宇宙人が、かつてのドラマの出演者たちに「悪の宇宙人の退治」を依頼しに現れる。それを新シリーズ出演へのオファーと勘違いした出演者たちは、善良な宇宙人が造ったプロテクター号に乗り、本物の宇宙戦争へと駆り出されていくハメに、、、
『エイリアン』(1979)のシガニー・ウィーバーや、『ダイ・ハード』(1988)のアラン・リックマンら、スターキャストの共演で贈るSFコメディの名作『ギャラクシー・クエスト』(1999)。本作でロレックス デイトナ エルプリメロ(Ref.16520)を着用しているのは、プロテクター号を率いるタガート艦長を演じたティム・アレン。彼は『トイ・ストーリー』(1995)のバズ・ライトイヤーの声優としても有名です。
劇中では「ドラマの放送以降はあまりパッとせずに落ちぶれた俳優」という設定ですが、この時計を見る限り、ファンイベントの営業などで結構稼いでいるのかもしれません(笑)
2000年以降の映画に登場したデイトナ
『キル・ビル2』のユマ・サーマン
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妊娠を機に、属していた組織から逃亡した女殺し屋(ユマ・サーマン)。しかし結婚式の当日、組織のボスの命を受けた殺し屋たちの襲撃を受けた彼女は、婚約者と妊娠中の子供を失い、自分も長い昏睡状態に陥ってしまう。数年後、昏睡状態から目覚めた彼女は、自分を襲撃した殺し屋たちとボスへの復讐を開始する。
クエンティン・タランティーノ監督が、愛する日本のバイオレンス映画と香港のカンフー映画にオマージュを捧げた『キル・ビル』(2003)と、その続編『キル・ビル2』(2004)。本作でロレックス デイトナを着けているのは、女殺し屋の「ザ・ブライド」を演じたユマ・サーマンです。
劇中で時計がアップになるシーンがあるのですが、よく見ると3時側は日付表示、6時側は24時間表示、9時側は曜日表示という、デイトナとしてあり得ないインダイヤル構成。つまりこれは「小道具用に作られたプロップウォッチ」ですね。こういうこともございます。
『JUNO/ジュノ』のジェイソン・ベイトマン
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予期せぬ妊娠をしてしまった16歳の少女ジュノ(エリオット・ペイジ)。子供を産むことを決意した彼女は、親友と協力して里親探しを始める。高級住宅地に住む作曲家のマーク(ジェイソン・ベイトマン)とその妻を「完璧な夫婦」と感じたジュノは、彼らに子供を託そうと考えるが、、、
女子高生が自分の子供の為に奮闘する姿を描いたハートフル・コメディ『JUNO/ジュノ』(2007)。本作でロレックス デイトナを着用しているのは、ジュノが子供の養父として選ぼうとする作曲家、マークを演じたジェイソン・ベイトマン。本作で彼が着用しているのは、ロレックス デイトナ(Ref.6263)。高級住宅地に住まう人気作曲家らしいチョイスの一本です。
『ボーン・レガシー』のシェーン・ジェイコブセン
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薬物投与によって肉体を強化し、明晰な頭脳と強靭な身体能力を持つ暗殺者を量産しようとするCIAの極秘プロジェクト「アウトカム計画」。しかし、計画の漏洩によって立場が危うくなることを危惧した上層部は、全ての暗殺者を抹殺し、計画の隠ぺいを図ろうとする。その抹殺リストには「最高傑作」と呼ばれる殺し屋、アーロン・クロス(ジェレミー・レナー)も含まれていた。
『ボーン・アイデンティティ』(2002)から始まる「ジェイソン・ボーン」シリーズの4作目『ボーン・レガシー』(2012)は、ジェイソン・ボーンと同時期に同類の計画に関わった境遇を持つ暗殺者、アーロン・クロスと組織の死闘を描いた、外伝的なアクション大作です。
本作で金無垢のロレックス デイトナ(Ref.116528)を着用しているのは、暗殺者たちが飲む「青い薬」を量産する秘密工場の工場長(シェーン・ジェイコブセン)。後にクロスがこの腕時計を手に入れ、逃亡する際の「費用」として使われることになります。
『アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件』のジョン・トラボルタ
*出典元:https://www.reddit.com/
元NFLのスター選手で、引退後は俳優として活躍していた黒人のO.J.シンプソン(キューバ・グッディング・ジュニア)が、白人である元妻と友人殺害の容疑者となる。逮捕されたシンプソンは、ロバート・シャピロ(ジョン・トラボルタ)を始めとする著名な弁護士を集めた強力な弁護団を結成し、裁判を「人種差別問題」へと誘導。無罪を勝ち取るが、彼が市民や友人からの信用を取り戻すことはなかった、、、
全米が注目した1994年の「O.J.シンプソン事件」をTVドラマシリーズ化した本作『アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件』(2016)でロレックス デイトナ(Ref.116515LN)を着用しているのは、ロバート・シャピロ弁護士を演じたジョン・トラボルタ。
しかし1995年の裁判当時、デイトナのエバーローズゴールドモデルは発売されておらず、この世にまだ存在しない腕時計。時代考証は無視して、現代の視聴者にもわかりやすい「大金を稼いでそうなやり手弁護士が着ける、一目で高いと判る腕時計」として選ばれたと思われます。
☞#59 一発屋では終わらない ジョン・トラボルタの腕時計 を読む
まとめ
いかがでしたでしょうか?
プレデイトナから、エキゾチックダイヤルの手巻モデル、エルプリメロやエバーローズゴールドの金無垢モデルまで、その時代に応じた「デイトナの歴史」を感じさせるラインアップとなりました。
1990年代までの映画においてデイトナは、レーサーや刑事などのプロフェッショナルが、高い実用性を求めて選ぶ腕時計として描かれる事が多かったように思えますが、2000年代以降の映画では、富裕層が着用したり、換金性のある小道具として使用されるなど、明確に「資産」として描かれることが増えています。
現実はもちろん、フィクションにおいても今後、この流れが変わることはおそらく無いでしょう。デイトナを着けたスパイや軍人などの、激しいアクションシーンが映画から無くなっていくのは寂しい気もしますが、これも時代の流れ。デイトナを着けてのアクションは、古い映画を観て楽しむといたしましょう。
ではまた!