映画やテレビなどで俳優が着用した時計にフォーカスする「Actor’s Watch」。
第7弾の今回は、映画に登場する飛行家やパイロットの腕元に注目してみましょう。

そもそも一般用としての腕時計の歴史は、飛行家アルベルト・サントス・デュモンの「飛行機を操縦するときに見やすい時計が欲しい」という要望に応える形で1904年にカルティエが作った「サントス」がその始まりでした(貴族のオーダーメイド品や軍用品としての腕時計はそれ以前にもありました)。

*出典元:https://www.robbreport.com.sg

その後も、飛行中に必要な速度計算などを行なうための回転式計算尺を備えたブライトリング「ナビタイマー」や、到着先の時間帯を知るための第二時間帯表示機能をもつロレックス「GMTマスター」など、パイロットに必要な機能を充実させた時計が多くのメーカーからリリースされてきたことは、皆様ご承知の通りかと思います。パイロットは、時計との結びつきが非常に強い職業と言えるでしょう。

*出典元:https://www.aopa.org/news-and-media/all-news/2014/december/pilot/f-watches

またパイロットは一瞬の判断ミスが大事故につながりかねない「生死に直結した職業」であり、飛行機の操縦は戦争映画からパニック映画、人間ドラマまで幅広いジャンルで幾度となく題材にされています。

今回は、物語と時計が印象深い形で関わる映画を軸にご紹介したいと思います。

『ダンケルク』のオメガ

2017年公開のクリストファー・ノーラン監督作『ダンケルク』は、第二次世界大戦中の西部戦線において、ナチスドイツ軍の侵攻によりフランスに追い詰められた40万人の英仏連合軍を救出してイギリス本土に撤退させた、1940年の「ダイナモ作戦」を陸・海・空の3視点から描く戦争映画です。

劇中、作戦を援護するためフランスに向かう最新鋭戦闘機「スピットファイア」のパイロットが着けていたのは、オメガの「CK2129」。この時計を用いて残りの燃料を計算するシーンなどもあり、パイロットにとって時計がいかに必要なものであったかがリアリティをもって描かれています。

*出典元:https://www.ablogtowatch.com/omega-ck2129-watch-dunkirk-film-omegas-role-ww2/

オメガの「CK2129」は当時、連合国軍が実際に使用していたものであり、この時計のチョイスは史実を忠実に再現したものと言っていいでしょう。

その後、戦争が進むにつれてオメガは、戦闘機のエンジンが発する強力な磁力の影響を軽減する「UK/CK2292 スピットファイア ウォッチ」や、後のシーマスター開発に繋がる防水時計「CK2444」を開発することになり、オメガ発展の礎がこの時期に築かれたであろうことは想像に難くないところでしょう。

*出典元:http://forumamontres.forumactif.com/t139942p25-les-www-focus-sur-omega-ck2444

スピットファイアのパイロットを演じたのは『マッドマックス 怒りのデスロード』や『ヴェノム』でヒーローを演じて人気のトム・ハーディー。『インセプション』や『ダークナイト ライジング』などクリストファー・ノーラン監督作の常連俳優でもあります。

*出典元:https://www.professionalwatches.com/tom-hardy-wears-1940s-omega-ck2129-in-dunkirk/

寡黙だが強い責任感でミッションをやり遂げる、頼りになる兄貴という風情のトム・ハーディーに、誤回転防止の武骨な2つのリューズが正確性を高める「CK2129」がよく似合っています。

『トップガン』のポルシェデザイン・IWC

1986年公開の『トップガン』では、トム・クルーズ演じるエリートパイロットが当時としては珍しい、ケースからブレスレットまで時計全体がマットブラックにコーティングされたミリタリー色の強いクロノグラフを着けています。

*出典元:https://www.nytimes.com/2020/02/19/fashion/watches-top-gun-tockr-bremont.html

この時計は、ポルシェデザインとオルフィナが共同開発したクロノグラフ「Ref.7176」。軍用の強化コーティングとして開発されたPVD技術を用いた時計の最初期の1本で、光の反射で敵に自分の位置を悟られないよう時計全体がマットブラックにコーティングされています。

*出典元:https://www.watchprosite.com/collectors-market/sold-porsche-design-orfina–chrono/712.774598.5162568/

ちなみに「トップガン」とは、戦闘機パイロットのトップを教育・養成するアメリカ海軍の「N7部問」=「アメリカ海軍戦闘機兵器学校」のこと。

映画には登場しませんが、IWCは2007年よりこのアメリカ海軍戦闘機兵器学校の卒業生のみが購入できるパイロットウォッチ「トップガン」モデルの開発を行っており、ジェット機のエリートパイロットが求める、過酷で特殊な要件を満たすパイロットウォッチを最新素材と技術を駆使してデザインし続けています。

*出典元:https://www.ablogtowatch.com/iwc-pilots-watch-chronograph-top-gun-edition-mojave-desert/

2021年7月に公開が予定されている34年ぶりの続編『トップガン マーヴェリック』では、このIWC「トップガン」モデルが劇中に登場するのではないかと噂されており、世の時計愛好家たちの注目を集めています。

番外編『ライトスタッフ』のロレックス

有人宇宙飛行計画「マーキュリー計画」に従事した7人の宇宙飛行士を描く1983年公開の『ライトスタッフ』には、人類で初めて音速の壁を破った実在のパイロット、チャック・イェーガーが登場します(演じるは名優サム・シェパード)。

*出典元:https://www.filmcomment.com/blog/sam-shepard-right-stuff/

残念ながら『ライトスタッフ』の劇中にロレックスの時計は登場しませんが、イェーガー本人は大のロレックス愛好家として知られており、1947年に初めて超音速での水平飛行を成功させた時も、彼の腕にはオイスターパーペチュアルが着けられていたそうです。

1997年には音速突破50周年を記念する式典が開かれ、F-15Dに搭乗した際、70歳を超えて再び超音速でのフライトに成功。この時に着けていたのは、ロレックスが彼に敬意を表して製造した、特注品のGMTマスター Ref.16700「チャック・イェーガー」モデルでした。

*出典元:https://www.nzherald.co.nz/world/chuck-yeager-first-pilot-to-break-sound-barrier-dies-at-97/GQCUGXYZMI4XHTO252VPTENZFY/

このモデルは、「リアルマッコイズ社」より限定発売されており、1997年の1stモデルは青赤ベゼル(Ref.16700)、黒ベゼル(Ref.16700)、黒赤ベゼル(Ref.16710)が各50本の限定生産、1999年の2ndモデルは、黒ベゼル(Ref.16700)、黒赤ベゼル(Ref.16710)が各150本の限定生産となっています。

文字盤に赤で「CHUCK YEAGER 」、下部に白で「THE REAL McCOY’S」と表記されており、付属するリアルマッコイズの保証書もファンにはたまらない仕様で、現在ではプレミア価格で取引されています。

※コミット銀座で取り扱った「ロレックス GMTマスター チャック・イェーガー(Ref.16700)」はこちら

音速を超えた実績を持つ世界最速の男が認めたロレックスは、まさに名実ともに「精度と堅牢性を兼ね備えた究極の実用時計」と呼べるのではないでしょうか。

■まとめ

『ダンケルク』に登場したオメガ「CK2129」は、後に「UK/CK2292 」や「CK2444」へと発展し、よりタフでより精度の高い時計に進化していきました。『トップガン』に登場したポルシェデザインや「トップガン」モデルを開発するIWCの時計には、伝統や常識にとらわれることなく最新素材や新技術が惜しみなくつぎ込まれています。

一瞬の判断の迷いや、1秒の誤差が生死を分ける航空機のコックピット内において、時計は常にその時代の最新技術が用いられ、最高の精度と堅牢性を有することが求められるのは当然と言えるでしょう。

映画の中でパイロットが着けている時計を見れば、その当時の最新技術が使われていた時計が何だったのかが分かると言っても過言ではないかもしれません。

動画はこちらから

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Actor's watch