映画やテレビなどで俳優が着用した時計にフォーカスする「Actor’s Watch」。
第67弾の今回は、銀座の高級腕時計店に相応しく「ゾンビ映画に登場した腕時計」をお送りします。

*出典元:https://www.movietickets.com/

1930年代、ハリウッドの黄金期に製作された『恐怖城』(1932)を始祖とするゾンビ映画。元々は呪術で死者を生き返らせて奴隷として働かせる「恐ろしい呪術師」を描く古典的な恐怖映画に過ぎず、以降ゾンビ映画の人気は低迷の一途を辿ります。

そんなゾンビ映画が人気のホラージャンルとして蘇ったのは1960年代末。「ゾンビ映画の父」と称される映画監督のジョージ・A・ロメロが、デビュー作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968)において「生き返った死者が人間を襲って食う」「ゾンビに噛まれた者もゾンビになる」「ゾンビを倒すには脳を破壊する」という、現代まで続くゾンビ映画のフォーマットを確立。このゾンビの設定が、いまや映画だけでなく、テレビドラマ、漫画、アニメ、ゲーム、果ては歌舞伎に至るまで、ありとあらゆるエンタメの題材になっている事は、皆様ご存知かと思います。

そんなゾンビ映画に敬意を表し、今回の「Actor’s Watch」は、ゾンビ映画に登場する腕時計に注目して参りたいと思います。

ゾンビ

DAWN OF THE DEAD (1978)

*出典元:https://www.primevideo.com/

ある日突然、世界中で死体が蘇り、次々と人を襲い始める。報道を続けるテレビ局員(ゲイラン・ロス)と恋人のヘリコプターパイロット(デビッド・エンゲ)は、友人のSWAT隊員(ケン・フォリー)らと共にゾンビが溢れ返った都市から脱出し、郊外のショッピングモールへと辿り着く。そこもゾンビの巣窟と化していたが、食料や物資が多く残されており、ゾンビの侵入さえ防げばサバイバルに適していると考えた彼らは、モールに留まることを決意する。しかしある日、物資の略奪を目論む暴走族による襲撃が起こり、彼らの籠城生活は終わりを告げるのだった。

前作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』においてエポックメイキングな現代的ゾンビ像を確立したジョージ・A・ロメロ監督。続く本作でも「ショッピングモールでの籠城」「ゾンビが溢れる世界での人間同士の戦い」という、こちらも現代ゾンビ映画の定番となるプロットの創造を果たします。この作品の成功により、ゾンビ映画はマニアックなB級ムービーから、世界的な大ヒットが見込める「ホラー映画のメインストリーム」に一躍のぼり詰めたと言っても過言ではないでしょう。

*出典元:https://whatculture.com/

この作品でロメロ監督はテレビ局員役としてカメオ出演しており、その腕にはタグホイヤー モナコが着けられています。これはロメロ監督の愛用時計のようで、劇中の映像以外でもモナコを着けた写真が残されています。これらの写真を見る限り、左リューズでインダイヤルが3時側一箇所だけに見えますので、おそらくは1970年代前半にリリースされた「Cal.15」搭載のセカンドモデル「Ref.1533」ではないかと思われます。

スペースバンパイア

LIFEFORCE(1985)

*出典元:https://mubi.com/

ハレー彗星探査の任務を負った英国のスペースシャトル「チャーチル号」は、火災を起こして音信不通となる。その救助に向かったコロンビア号は、チャーチル号の焼け爛れた船内から、人間そっくりの生命体が眠るカプセルを回収し、地球に帰還。研究のためロンドンに運ばれた生命体(マチルダ・メイ)は目を覚まし、警備員の生命エネルギーを吸収してロンドンの街へと逃亡する。やがて死んだと思われた警備員も生者を襲うゾンビと化し、犠牲者が犠牲者を次々と生み出していく、、、

本作は「吸血鬼(ヴァンパイア)に血を吸われた者も吸血鬼になる」という古典的ホラーのお約束をSF仕立てにして、更にゾンビ要素も加えた、いかにも80年代らしいSFホラー大作。『悪魔のいけにえ』(1974)で知られるトビー・フーパー監督の演出による、マチルダ・メイ演じる女スペースバンパイアのセクシーな演技も見どころのひとつです。

*出典元:https://www.watchuseek.com/

この映画に登場するのは、チャーチル号の船長カールセンを演じたスティーブ・レイルズバックが着用している、セイコー シンクロタイマー スピードマスター(Ref.7A28-7039)と思われる腕時計。世界初のアナログ式クォーツクロノグラフムーブメント「Cal.7A28」を搭載した多機能ウォッチは、いかにも「当時の最先端技術」を感じさせるSF的なガジェットとなっています。

ゾンビ伝説

THE SERPENT AND THE RAINBOW(1987)

*出典元:https://www.filminquiry.com/

科学者のデニス(ビル・プルマン)は、製薬会社からの依頼で「死体が蘇る現象」の謎を調べるためハイチへと向かう。ブードゥーの儀式などの調査を進める中、実際に死から蘇ったといわれる男とのコンタクトに成功し、「ゾンビパウダー」なる秘薬を手にしたデニス。しかし彼は、黒魔術師ぺイトロウ(ゼイクス・モカエ)率いる、現地の秘密警察に捕らえられてしまう。

エルム街の悪夢』(1984)や『スクリーム』(1996)など、人気ホラーシリーズの生みの親として知られるウェス・クレイブン監督の本作は、「ゾンビより、ゾンビを作ったり操ったりする呪術師が怖い」という古典的ゾンビをテーマにした作品となっており、クライマックスもゾンビが相手ではなく、黒魔術師ペイトロウとの戦いが描かれます。

*出典元:https://www.bandrewscott.com/

この作品で主人公デニスを演じるのは、『インデペンデンス・デイ』(1996)のアメリカ大統領役で知られるビル・プルマン。本作で彼はセイコー スポーツ100 クォーツ(Ref.6923-7109)を着用しています。ベゼルに「N」の表記があるのは、コンパス機能を搭載している腕時計だから。ゾンビ映画ながらアドベンチャー要素の強い本作にはピッタリの腕時計です。

ドーン・オブ・ザ・デッド

DAWN OF THE DEAD(2004)

*出典元:https://www.moviepilot.de/

夫と平穏な日々を過ごしていた看護師のアナ(サラ・ポーリー)。ある日彼女が目覚めると、顔に大怪我を負った少女が寝室にいることに気づく。少女は人間離れしたスピードで夫に襲い掛かり、その首を噛み千切る。直後に凶暴化し、アナに襲い掛かる夫。訳も分からず間一髪で家から脱出し、車で逃げだしたアナは、路上で大勢の人間が襲われ、街中が無法地帯になっていることに気づく。逃亡中に黒人の警察官や妊婦らと出会ったアナは、彼らと共に付近のショッピングモールに避難するが、、、

低予算のB級作品が溢れ返り、ゾンビ映画がジャンルとしての人気を失った1990年代。その状況を一変させ、21世紀に再びホラー映画を人気ジャンルとして蘇らせたのが、本作『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004)です。今までにない「全速力で人間に襲い掛かるゾンビ」という設定を生み出し、「アクションホラー」とでも言うべきジャンルを築いたのは、後に『ジャスティス・リーグ』(2017)などの人気作を手掛けるザック・スナイダー監督。『ゾンビ』(1978)のリメイクではありますが、これがデビュー作とは思えぬパワフルなゾンビ映画に仕上がっています。

*出典元:https://www.moviemistakes.com/

本作に登場する腕時計は、ヒロインのアナが出会った黒人青年アンドレ(メキ・ファイファー)が身に着けているこちらの一本。G-SHOCKのようにも見えますが、それにしてはケースに凹凸があまり見られず、ストラップの形状も異なっているように思えます。液晶表示のデジタルウォッチであること以外、残念ながらブランドやモデルなどを特定することができなかったので、この腕時計についてはリサーチを続けたいと思います。

ショーン・オブ・ザ・デッド

SHAUN OF THE DEAD(2004)

*出典元:https://www.esquirelat.com/

家電量販店に勤めるショーン(サイモン・ペッグ)は、職場でも年下の部下に完全にナメられている冴えない男。彼が恋人のリズ(ケイト・アシュフィールド)に振られてしまったその翌日、街中で死者がゾンビ化し人々を襲い始める。彼女とヨリを戻す為、ショーンは自分の母とリズを救い、ゾンビを倒して「頼れる男」であることをアピールしようとする。幼馴染の親友エド(ニック・フロスト)と共に二人を救出し、ゾンビ化したルームメイトや義父をやり過ごした彼は、避難先として行きつけのウィンチェスター・パブを目指す(一杯ひっかけたいから)。

ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)は、『アントマン』(2015)や『ベイビー・ドライバー』(2017)のヒット作で知られるエドガー・ライト監督のデビュー作であり、またサイモン・ペッグとニック・フロストの親友コンビを世に送り出した記念すべき一作。『ゾンビ』(1978)のフォーマットをしっかり踏襲しながら、「恐怖」と同じだけの「笑い」をブチ込んだ、まさに新世代のゾンビ映画の傑作と言って良いでしょう。

*出典元:https://casiofanmag.com/

この映画に登場する腕時計は、主人公ショーンの幼馴染で親友、ルームメイトでもあるエド(ニック・フロスト)が身に着けているカシオ W-86。俗に「チープカシオ」と呼ばれるカテゴリーの腕時計です。朝から晩までダラダラとゲームばっかりしているニートのエドは、子供が外見だけ大人になったようなキャラクター。子供がお小遣いで買うことも多い「チープカシオ」がそのキャラクター演出に一役買っていることは間違いないでしょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

1978年の『ゾンビ』公開以降、ゾンビ映画の多くが「戦い」と「文明崩壊」を描くことを主眼としている為か、ドレスウォッチや高級ブランドの腕時計が出る幕は、ほとんどありません。高級品を身に着ける富裕層は自宅のセキュリティも強固そうですし、ゾンビが溢れても億ションに籠城していれば、なんとかなりそうな気もしてしまいます(笑)

ゾンビ映画に詳しい方なら「そういう映画、あるじゃん」とお思いではないでしょうか?そちらは「ゾンビ映画に登場した腕時計【後編】」にて取り上げたいと思います。それでは、ホラー映画がお好きな方は次回もご期待ください!嫌いな方はごめんなさい!

ではまた!

Actor's watch