映画やテレビなどで俳優が着用した時計にフォーカスする「Actor’s Watch」。
第133弾の今回は、「ウィリアム・フリードキン監督の腕時計」をお送りします。

2023年8月7日、ウィリアム・フリードキン監督逝去のニュースが飛び込んでまいりました。

アカデミー作品賞や監督賞を獲得した『フレンチ・コネクション』(1971)や、全世界にホラー映画ブームを巻き起こした『エクソシスト』(1973)など、数々の歴史的傑作で知られる名匠の訃報に驚かれた映画ファンの方も多いのではないでしょうか。

*出典元:https://edition.cnn.com/

かくいう私も、ロイ・シャイダー演じる高飛び中のギャングが大金を得るため、大量のニトログリセリンを積んだトラックで山道を激走する『恐怖の報酬』(1977)が大のお気に入り。2018年にヒューマントラストシネマ有楽町でリバイバル上映された時には「大きなスクリーンで観られる!」と小躍りしたことを憶えています。

映画ファンなら誰もが認める名匠、ウィリアム・フリードキン監督。
追悼の意味を込め、今回は彼の映画に登場した腕時計に迫ってみたいと思います。

フレンチ・コネクション

THE FRENCH CONNECTION(1971)

*出典元:https://www.imdb.com/

ニューヨーク市警で違法薬物の取り締まりを担当するベテラン刑事ドイル(ジーン・ハックマン)。腕っぷしが強く、捜査の為なら危険で強引な手も厭わない彼は、周囲から「ポパイ」の仇名で呼ばれていた。ある日、相棒のクラウディ(ロイ・シャイダー)とナイトクラブで飲んでいたドイルは、マフィアとつるむ金回りのいい男に目を付ける。その男はニューヨークの大物麻薬ディーラーの舎弟、サル・ボカ(トニー・ロビアンコ)だった。

サル・ボカがフランスのギャング相手に薬物の大口取引を行なう予定であることを突き止めたドイル。更にはマルセイユの麻薬王シャルニエ(フェルナンド・レイ)がニューヨークを訪れている事も判明。フランスからの違法薬物流入を阻止する為、シャルニエを執拗に追うドイル。しかしシャルニエも黙ってはいない、、、ドイルのもとへ腕利きの殺し屋を差し向けるのだった。

*出典元:https://bamfstyle.com/

刑事とマフィアの戦いを、それまでの映画には無かったドキュメンタリータッチの手法で描き切ったことで、緊迫感とリアリティ溢れる熱い男のドラマに仕上げた『フレンチ・コネクション』(1971)。刑事ドラマの金字塔として知られる本作は、アカデミー賞の「作品賞」「監督賞」「主演男優賞」「脚色賞」「編集賞」の5部門でオスカーを獲得した歴史的傑作。一般人や一般車両が走る公道でゲリラ撮影された伝説的なカーチェイスシーンは、現代のカーアクション映画にも大きな影響を与えています。

本作の劇中に登場する腕時計は、主演のジーン・ハックマン演じる「ポパイ」刑事が着用したタイメックス マーリン(Ref.不明/参考画像)。20世紀のハリウッドを代表する「タフガイ」と呼ばれた彼の腕には少々華奢(きゃしゃ)に思えますが、ハードなアクションシーンも多かった作品だけに、ロレックスなどの高級腕時計を小道具として選ぶのは難しかったのかもしれません。

エクソシスト

THE EXORCIST(1973)

*出典元:https://www.zee5.com/

映画撮影の為にワシントンに家を借り、一人娘のリーガン(リンダ・ブレア)と暮らしていた女優のクリス(エレン・バースティン)は、天井裏から聞こえる異音や、リーガンの行動の異変に悩まされていた。クリスはリーガンを病院に連れて行ったものの、検査で異常は何も見つからない。やがて異変は家の周囲にまで広がり、クリスの家を訪れようとした映画監督が、何者かに首を180度捻じ曲げられて死亡するという事件まで起き始める。

リーガンが悪魔に取り憑かれたと確信したクリスは、精神科医でもあるカラス神父(ジェイソン・ミラー)に悪魔祓いを依頼する。初めは悪魔憑きに否定的なカラス神父も、首を180度回し、子供とは思えない声で自分を罵るリーガンの姿を見て、悪魔祓いの儀式を行うことを決意する。カラス神父と、過去に儀式を行なった経験のあるメリン神父(マックス・フォン・シドー)は、教会の許可の元、リーガンに憑いた悪魔を祓う儀式に挑む、、、

*出典元:https://www.watchuseek.com/

オイルショックや公害などの情勢不安を背景に、「ノストラダムスの大予言」「超能力」「心霊写真」などのオカルトが大ブームとなっていた1970年代。そんな世相を反映した一本のホラー映画が世界的な大ヒットを記録します。それは『フレンチ・コネクション』で映画界にリアリズム旋風を巻き起こしたフリードキン監督が、その手法をホラー映画に導入して作り上げた『エクソシスト』(1973)でした。

ホラーの歴史を変えた映画とも言われる本作に登場する腕時計は、少女リーガンの治療にあたるバリンジャー医師を演じた俳優、ピーター・マスターソンが着用していたホイヤー オータヴィア(Ref.Ref.2446C。医者にしてはスポーティーすぎるチョイスのように思えますが、彼個人の宣材写真(アーティスト写真)にも似た腕時計が写っていることから、俳優の私物腕時計をそのまま使用したのではないかと思われます。

フリードキン監督の愛用ウォッチ

*出典元:https://patch.com/

最後に、ウィリアム・フリードキン監督自身が愛用した腕時計をご紹介いたしましょう。

その腕に着けられていた腕時計は、パネライ ルミノール マリーナ。限定モデルも多いブランドだけに、裏蓋などを確認しなければ正しい型番はわかりませんが、おそらくパネライの中でも最もベーシックな「Ref.PAM00001」か「Ref.PAM00111」ではないかと思われます。

学生時代は花形バスケットボール選手として活躍し、映画監督になってからもハードで男臭い作品を数多く製作してきたフリードキン監督。そんな男らしい監督に相応しい腕時計と言えるのではないでしょうか。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

リアリズム溢れる表現手法と、特撮やCGに頼らないフィジカルな質感をフィルムに刻み付け、観客を魅了し続けたウィリアム・フリードキン監督。作品の為なら俳優やスタッフを極限まで追い込むことも辞さない事から「鬼才」とも呼ばれておりましたが、そんな彼だからこそ、映画の歴史を変えるような作品をいくつもモノにすることができたのではないかと思います。

*出典元:https://www.youtube.com

仁義なき戦い』(1973)や『復讐するは我にあり』(1979)といったの日本のバイオレンス映画が大のお気に入りで、自分の映画に対する日本の観客の反応も常に気にしていたフリードキン監督。もう二度と彼の新作を観る事はできないのは悲しいことですが、その斬新な作風は多くの映像作家たちの手本となり、遺伝子のように現代の映画にも大きな影響を与え続けています。

フィジカルな質感に溢れたフリードキン監督作ほど、劇場の大スクリーンで観るのに相応しい映画は無いと個人的に思っています。またいつか、彼の作品が映画館でリバイバルされる日を願って、今回は筆を置きたいと思います。

R.I.P ウィリアム・フリードキン

ではまた!

Actor's watch